消費者庁、医療法人社団祐真会に対する景品表示法に基づく措置命令
――ステルスマーケティング規制に基づく初の事例――
岩田合同法律事務所
弁護士 塩 島 なつ美
1 事案の概要
消費者庁は、2024年6月6日、医療法人社団祐真会(以下「本件医療法人」という。)に対し、同法人が運営する「マチノマ大森内科クリニック」(以下「本件クリニック」という。)における診療サービスに係る表示が不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」という。)に違反するとして、措置命令(以下「本件措置命令」という。)を行った。
具体的には、本件医療法人は、インフルエンザワクチン接種のために本件クリニックに来院した者に対し、Googleマップ内における本件クリニックの口コミ投稿欄で星5つまたは星4つの投稿をすることを条件に、インフルエンザワクチン接種費用から割り引いており、その結果、当該来院者らによって星5つの投稿が数十件なされていた(以下「本件表示」という。)。そのため、本件表示がいわゆるステルスマーケティング規制に違反するとして、本件措置命令が行われた。
本件措置命令は、景表法にステルスマーケティング規制が導入されて以降、当該規制に係る初めての行政処分である。
2 景表法のステルスマーケティング規制について
⑴ 景表法のステルスマーケティング規制
インターネット広告市場の拡大により、SNS上の広告を中心として、いわゆるステルスマーケティング(広告主が自らの広告であることを隠したまま広告する行為)が問題となっていたこと[1]を踏 まえ、2023年10月の景表法改正において、新たにステルスマーケティング規制が導入された。
具体的には、景表法上、ステルスマーケティングは不当表示の一類型として位置づけられている(景表法5条3号、令和5年3月28日内閣府告示19号(以下「本件告示」という。))。
事業者がステルスマーケティング規制に違反した場合、措置命令を出すことができることとされており(景表法7条)、当該命令に従わなければ、行為者は2年以下の懲役又は300万円以下の罰金(情状により懲役及び罰金の併科)に処せられ(同法36条)、両罰規定により、法人も3億円以下の罰金刑が科される(同法38条1項1号)。なお、事業者から広告・宣伝の依頼を受けたインフルエンサー等については規制の対象とされていない。
ステルスマーケティングを含む景表法上の不当表示の類型は以下のとおりである。
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(しおじま・なつみ)
岩田合同法律事務所アソシエイト。2016年早稲田大学法学部卒業。2018年慶應大学法科大学院修了。2021年1月~2024年3月金沢地裁判事補。2024年4月より「判事補及び検事の弁護士職務経験に関する法律」に基づき弁護士登録。
岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/
<事務所概要>
1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。
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消費者庁、医療法人社団祐真会に対する景品表示法に基づく措置命令について〔景品表示法に違反する行為(同法第5条第3号(ステルスマーケティング告示)該当の初事例)〕