カスタマーハラスメント対応で「基本方針」など策定の動きが拡がる
――全日本空輸・日本航空共同の策定を始め髙島屋G・損害保険ジャパンなど、
骨太方針2024では「法的措置も視野」と盛込み――
社会的課題としての関心も一層高まるカスタマーハラスメント(顧客等からの著しい迷惑行為)を巡り、企業・事業主において対応の一環となる「カスタマーハラスメントに対する方針」「カスタマーハラスメントに対する基本方針」を策定・公表する動きが拡がっている。
(A)全日本空輸および日本航空が6月28日、「カスタマーハラスメントに対する方針」をANAグループ・JALグループ共同で策定したとして発表した際には広く報じられたところである。以後、たとえば(B)髙島屋グループにおいて7月8日「カスタマーハラスメントに対する基本方針」を、(C)損害保険ジャパンにおいて7月9日「カスタマーハラスメントに対する方針」を、(D)NTTドコモグループとして7月12日「NTTドコモグループ カスタマーハラスメントに対する基本方針」を、それぞれ策定したとする発表が確認できる。
厚生労働省では2022年2月25日、企業側の対応の一助として「カスタマーハラスメントを想定した事前の準備、実際に起こった際の対応など、カスタマーハラスメント対策の基本的な枠組みを記載」する「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を作成したとし、公表した(原案公表時に政府の取組みの経緯とともに紹介するものとして、SH3911 厚労省、「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(案)」公表 北川弘樹(2022/02/18)参照)。
本マニュアルでは「カスタマーハラスメントに関する企業の責任」を含む「3. カスタマーハラスメント対策の必要性」を述べたうえで(マニュアル13頁以下)、「4. 企業が具体的に取り組むべきカスタマーハラスメント対策」を説明している(マニュアル18頁以下)。
企業としての対策の第1段階となるのが「基本方針・基本姿勢の明確化、従業員への周知・啓発」である。基本方針に含める要素例として次の7点を挙げる(マニュアル20頁)。(Ⅰ)カスタマーハラスメントの内容、(Ⅱ)カスタマーハラスメントは自社にとって重大な問題である、(Ⅲ)カスタマーハラスメントを放置しない、(Ⅳ)カスタマーハラスメントから従業員を守る、(Ⅴ)従業員の人権を尊重する、(Ⅵ)常識の範囲を超えた要求や言動を受けたら、周囲に相談して欲しい、(Ⅶ)カスタマーハラスメントには組織として毅然とした対応をする。
上記(A)全日本空輸・日本航空の例によると、両社では共同プレスリリースにより策定趣旨・背景を説明しつつ「カスタマーハラスメントに対する方針」の概要を紹介するかたちを採った。各社それぞれの方針は別途明らかにされており、たとえば(a)「ANAグループ カスタマーハラスメントに対する方針」では、まず「はじめに」を置き、当該「方針」本体としては①「基本方針」を掲げたうえで、②「ANAグループの考えるカスタマーハラスメントの定義」を行う。続く③「対象となる行為例」において「暴言、大声、侮辱、差別発言、誹謗中傷など」「脅威を感じさせる言動」「過剰な要求」といった9つの行為を例示。末尾において④「カスタマーハラスメントへの対応」を挙げている。
(b)「JALグループカスタマーハラスメント基本方針」は大別して「カスタマーハラスメントへの基本方針」「定義・判断基準(9項目)」により構成。前者「カスタマーハラスメントへの基本方針」では、上記(a)ANAグループにおける「はじめに」とは異なる表現による2文が据えられたのち、①「社内対応」、②「社外対応」、③「お客さまへのお願い」を挙げていく。続く「定義・判断基準(9項目)」において、④(a)②に相当する「定義」を置き、⑤「判断基準」(9つの行為)を示すこととしている。
上記(B)の例は「髙島屋グループ『カスタマーハラスメントに対する基本方針』」と掲げたうえで、この枠組みのなかに①「はじめに」、②「カスタマーハラスメントの定義」(8行為を例示する「対象となる行為」を含む)、③「カスタマーハラスメントへの対応」(「社内対応」「社外対応」の両側面から記載する)、④「お客様へのお願い」――を取り込むもの。
(C)損害保険ジャパンの例では「カスタマーハラスメントに対する方針」と掲げ、①「はじめに」、②「カスタマーハラスメントの定義」(10行為を例示する「該当する行為例」を含む)、③「カスタマーハラスメントへの対応姿勢」、④「カスタマーハラスメントへの取り組み」――を示していく。
(D)においては「NTTドコモグループ カスタマーハラスメントに対する基本方針」と掲げたうえ、①「はじめに」、②「カスタマーハラスメントの定義」、③「対象となる行為」(10行為を例示)、④「従業員への対応」、⑤「カスタマーハラスメントが発生した場合の対応」、⑥「お客さまへのお願い」――と構成した。
なお、上記(A)の(a)および(D)の両例では基本方針中「対象となる行為例」「対象となる行為」において、厚労省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」に基づき策定している旨、明文をもって記載するものとなっている。
本年6月21日閣議決定「経済財政運営と改革の基本方針2024~賃上げと投資がけん引する成長型経済の実現~」(いわゆる「骨太方針2024」)によれば、「6. 幸せを実感できる包摂社会の実現」「(2)安全・安心で心豊かな国民生活の実現(安全・安心)」において「カスタマーハラスメントを含む職場におけるハラスメントについて、法的措置も視野に入れ、対策を強化する」との1文が盛り込まれた。
自由民主党では5月16日、政調・雇用問題調査会「カスタマーハラスメント対策PT」による提言を同党ウェブサイトで公表。5月14日付により「カスタマーハラスメントの総合的な対策強化に向けた提言」と題された本提言によると、「労働者保護の強化」の観点から「カスタマーハラスメントにより労働者の就業環境が害されないよう、企業として、現場任せではなく、労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制整備など雇用管理上の必要な措置を講じることを事業主に義務付けるといった法整備なども念頭に、労働者保護対策を強化することが必要である」としている。
全日本空輸・日本航空、共同で「カスタマーハラスメントに対する方針」を策定
https://press.jal.co.jp/ja/release/202406/008157.html
高島屋グループ、「カスタマーハラスメントに対する基本方針」を策定
https://www.takashimaya.co.jp/base/corp/topics/240708a.pdf
損害保険ジャパン、「カスタマーハラスメントに対する方針」の策定
https://www.sompo-japan.co.jp/-/media/SJNK/files/news/2024/20240709_1.pdf
NTTドコモグループ、「NTTドコモグループ カスタマーハラスメントに対する基本方針」の策定
https://www.docomo.ne.jp/info/news_release/detail/20240712_00_m.html
厚労省、「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_24067.html
政府、「経済財政運営と改革の基本方針2024(骨太の方針2024)」
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2024/2024_basicpolicies_ja.pdf
自民党、「カスタマーハラスメントの総合的な対策強化に向けた提言」
https://www.jimin.jp/news/policy/208229.html