◇SH3463◇最三小判 令和2年7月21日 発信者情報開示請求事件(戸倉三郎裁判長)

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  1. 1  著作権法19条1項の「著作物の公衆への提供若しくは提示」は、同法21条から27条までに規定する権利に係る著作物の利用によることを要するか
  2. 2  インターネット上の情報ネットワークにおいてされた他人の著作物である写真の画像の掲載を含む投稿により、上記画像が、著作者名の表示の付された部分が切除された形で上記投稿に係るウェブページの閲覧者の端末に表示された場合に、上記閲覧者が当該表示された画像をクリックすれば、上記著作者名の表示がある元の画像を見ることができるとしても、上記投稿をした者が著作者名を表示したことにはならないとされた事例
  3. 3 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律4条1項に基づく発信者情報の開示請求をする者が、インターネット上の情報ネットワークにおいてされた同人の著作物である写真の画像の掲載を含む投稿により、上記写真に係る氏名表示権を侵害された場合に、上記投稿をした者が、同項の「侵害情報の発信者」に該当し、かつ、同項1号の「侵害情報の流通によって」上記開示請求をする者の権利を侵害したものといえるとされた事例

  1. 1  著作権法19条1項の「著作物の公衆への提供若しくは提示」は、同法21条から27条までに規定する権利に係る著作物の利用によることを要しない。
  2. 2  インターネット上の情報ネットワークにおいてされた他人の著作物である写真の画像の掲載を含む投稿により、上記画像が、著作者名の表示の付された部分が切除された形で上記投稿に係るウェブページの閲覧者の端末に表示された場合において、上記閲覧者が当該表示された画像をクリックすれば、上記著作者名の表示がある元の画像を見ることができるとしても、次の(1)、(2)など判示の事情の下では、上記投稿をした者が著作者名を表示したことにはならない。

    1. (1) 上記著作者名の表示がある元の画像は、上記ウェブページとは別個のウェブページで見ることができるにとどまる。
    2. (2) 上記閲覧者が当該表示された画像を通常クリックするといえるような事情はうかがわれない。
  3. 3  特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律4条1項に基づく発信者情報の開示請求をする者が、インターネット上の情報ネットワークにおいてされた同人の著作物である写真の画像の掲載を含む投稿により、上記写真に係る氏名表示権を侵害された場合において、上記投稿により、上記画像ファイルへのリンク及びその画像表示の仕方の指定に係るHTML(ウェブページの構造等を記述する言語)等のデータが特定電気通信設備の記録媒体に記録されて上記投稿に係るウェブページの閲覧者の端末に送信され、これにより、リンク先のサーバーから上記端末に上記画像のデータが送信された上、上記端末において上記指定に従って上記画像が一部切除された形で表示された結果、上記画像に付された著作者名が表示されなくなり、上記氏名表示権の侵害がもたらされたという事情の下では、上記投稿をした者は、同項の「侵害情報の発信者」に該当し、かつ、同項1号の「侵害情報の流通によって」上記開示請求をする者の権利を侵害したものといえる。
    (2につき補足意見がある。)

(1~3につき)著作権法19条1項
(1につき)同法21条ないし27条(26条の2第2項を除く。)
(2につき)同法19条2項
(3につき)特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律2条4号、4条1項

 平成30年(受)第1412号 最高裁令和2年7月21日第三小法廷判決 発信者情報開示請求事件 上告棄却(民集74巻4号1407頁)

 原 審:平成28年(ネ)第10101号 知財高裁平成30年4月25日判決
 第1審:平成27年(ワ)第17928号 東京地裁平成28年9月15日判決

1 事案の概要等

 本件は、写真家であるXが、自己の著作物であるスズランの写真(本件写真)の複製画像が掲載されたツイッター上の投稿(リツイート等)によって著作権及び著作者人格権を侵害されたなどとして、Y(ツイッター社)に対し、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき、本件各リツイート者等の発信者情報の開示を求めた事案である。Xは、本件写真の隅に著作者名として自己の氏名を表示していたが、本件各リツイート記事では写真画像がトリミングされた形で表示され、当該著作者名の表示が消えていることが問題となり、本件各リツイートによる氏名表示権侵害の成否、発信者情報開示請求の「発信者」等の要件充足の有無などが争点となった。

 

2 事実関係の概要

 (1) Xは、写真家であり、本件写真の著作者である。

 Yは、SNSである「ツイッター」を運営する米国法人である。

 (2) Xは、平成21年、本件写真の隅に「©」マーク及び自己の氏名をアルファベット表記した文字等(本件氏名表示部分)を付加した画像(本件写真画像)を自己のウェブサイトに掲載した。

 (3) 平成26年12月14日、ツイッター上の特定のアカウントにおいて、Xに無断で、本件写真画像を複製した画像の掲載を含むツイート(本件元ツイート)が投稿された。これにより、本件写真画像を複製した第1審判決別紙流通情報目録記載2(1)の画像(本件元画像)が、同目録記載2(2)のURL(本件画像ファイル保存用URL)の画像ファイルとしてサーバーに保存された。

 (4) その後(平成26年12月14日頃)、本件各リツイート者は、原判決別紙アカウント目録記載「アカウント3~5」の各アカウント(本件各アカウント)において、それぞれ、本件元ツイートのリツイート(第三者のツイートを紹介ないし引用する、ツイッター上の再投稿)をした(本件各リツイート)。これにより、不特定の者が閲覧できる本件各アカウントの各タイムラインに、それぞれ第1審判決別紙流通情報目録記載3~5の各画像(本件各表示画像)が本件各リツイート記事の一部として表示されるようになった。本件各表示画像は、本件元画像の上部及び下部がトリミングされた形となっており、そのため、本件氏名表示部分が表示されなくなっている。

 (5) 本件各アカウントのタイムラインに本件各表示画像が表示されるのは、本件各リツイートにより本件各ウェブページに本件画像ファイル保存用URLの本件元画像ファイルへのリンク(いわゆるインラインリンク)が自動的に設定されるためである。すなわち、本件各リツイートがされることによって、自動的に、上記リンクを指示する情報及びリンク先の画像の表示の仕方を指定する情報を記述したHTML等のデータ(本件リンク画像表示データ)が、本件各ウェブページ(リンク元のウェブページ)に係るサーバーの記録媒体に記録される。インターネットユーザーが本件各ウェブページにアクセスすると、自動的に、①本件リンク画像表示データが、本件各ウェブページに係るサーバーから同ユーザーの端末に送信され、②これにより、同ユーザーの操作を介することなく、本件元画像のデータ(リンク先のファイルのデータ)が、本件画像ファイル保存用URLに係るサーバーから上記端末に送信され、③上記端末の画面上に当該画像が上記指定に従って表示される。Yが提供しているツイッターのシステムにおいては、リンク先の画像の表示の仕方に関するHTML等の指定により、リンク先の元の画像がトリミングされた形で画像が表示されること(以下「トリミング表示」ともいう。)があるところ、本件においても、これにより、本件各表示画像はトリミング表示がされ、本件氏名表示部分が表示されなくなったものである。

 

3 第1審及び原審の判断

 第1審(東京地判平成28・9・15判時2382号41頁)は、ツイート者については、著作権侵害を理由にその電子メールアドレスの開示請求を認容したが、本件各リツイート者については、著作権侵害及び著作者人格権侵害をいずれも否定してXの請求を棄却した。

 これに対し、原審(知財高判平成30・4・25判時2382号24頁)は、本件各リツイートによる著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)侵害を認めた上で、ツイート者のみならず本件各リツイート者の電子メールアドレスの開示請求を認容した。原審は、著作者人格権の関係では本件各表示画像を著作物と捉えて侵害を認めたものであるが、本件各リツイートによる氏名表示権侵害及び発信者情報開示請求の要件充足を認めた理由の骨子は次のとおりである。①本件各表示画像には、Xの氏名は表示されていない。本件各表示画像は、これを表示するに際して、本件各リツイートの結果として送信されたHTMLやCSS(ウェブページの表示態様を記述する言語)のデータ(本件リンク画像表示データ)により、位置や大きさ等が指定されたために、Xの氏名が表示されなくなったものであるから、本件各リツイート者は、本件各リツイートにより、著作物の公衆への提供又は提示に際し本件氏名表示権を侵害したといえる。②上記の侵害態様に照らすと、本件写真の画像データ(本件元画像のデータ)及びHTMLやCSSのデータ(本件リンク画像表示データ)をプロバイダ責任制限法4条1項の「侵害情報」ということができ、本件各リツイートは、その侵害情報の流通によってXの権利を侵害したことが明らかである。そして、この場合の「発信者」は、本件各リツイート者であるといえる。

 

4 本判決の概要

 本判決は、判決要旨のとおり判示して、本件各リツイートによる氏名表示権侵害及び発信者情報開示請求の要件の充足を認め、Yの上告を棄却した。

 

5 説明

 (1) 問題の所在

 本件各リツイート者の発信者情報の開示を求めるXの請求が認容されるためには、①「侵害情報の流通によって」Xの「権利が侵害された」ことが明らかであること(プロバイダ責任制限法4条1項1号)、②本件各リツイート者が「侵害情報の発信者」に当たること(同項括弧書き)が必要となる。

 上記①の権利侵害について、原審は、氏名表示権侵害及び同一性保持権侵害を認めたが、同一の発信者情報の開示請求について、氏名表示権侵害の主張と同一性保持権侵害の主張とは選択的な関係に立つため、いずれか一方を認める場合には、必ずしも他方について判断する必要はないことなどから、本判決は、前者を認める判断を示す一方、後者については判断しなかったものと解される。本件氏名表示権侵害について、論旨との関係では、第1に、著作権侵害となる著作物の利用がない場合に氏名表示権侵害を肯定し得るか(後記(3)ア)、第2に、本件において本件各リツイート者が著作者名を表示したといえるか(後記(3)ウ)が問題となっている。

 次に、著作権法上、本件氏名表示権侵害が認められる場合であっても、プロバイダ責任制限法上、上記①の「侵害情報の流通によって」の要件及び②の「侵害情報の発信者」の要件を満たすかが問題となる。論旨との関係では、本件においてどの情報を「侵害情報」と捉え、その上で上記両要件を満たすといえるかが問題となっている(後記(4)ア)。

 (2) ツイッターにおける画像付きツイートのリツイートの仕組み等について

 ツイッターにおいては、画像付きツイートをすると、ツイート者のタイムラインのウェブページをリンク元、画像ファイルをリンク先とするリンク(インラインリンク〔リンク元のウェブページが立ち上がった時にユーザーの操作を介することなく自動的にリンク先のウェブページにアクセスするリンク〕)が設定されるようになっている。さらに、上記ツイートをリツイートした場合、リツイート者のタイムラインのウェブページをリンク元、上記画像ファイルをリンク先とするリンク(インラインリンク)が設定される。

 原審認定事実によると、リツイート者のタイムラインのウェブページを閲覧するユーザーの端末には、①リンク元である同ウェブページに対応するサーバーから、リツイート者が同サーバーに記録したHTMLやCSSのデータが送信され、上記HTMLの指示に従い、②リンク先である画像ファイルに対応するサーバーから、元ツイート者が同サーバーに記録した画像のデータが送信される。そして、③ユーザーの端末においては、上記HTMLないしCSSの指定に従った位置や大きさで画像が表示される。その際、画像がトリミングされた形で表示されることがある。

 リンクと著作権の問題は近年盛んに議論されてきたが、画像ファイルをサーバーに記録したのは元ツイート者であるため、リンク設定者であるリツイート者が著作権(公衆送信権、複製権)を侵害したとは認められないというのが一般的な見解である(中山信弘『著作権法〔第3版〕』(有斐閣、2020)309頁、佐野信「インターネットと著作権」牧野利秋=飯村敏明編『新・裁判実務大系22 著作権関係訴訟法』(青林書院、2004)456頁、経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」〔平成30年7月〕146~147頁、窪田英一郎=吉田和彦「ミラノAIPPI国際総会(2016年)の議題に対する日本部会の意見(2) 議題(著作権)インターネットにおけるリンク張りと利用可能化」AIPPI61巻7号(2016)612~613頁等。なお、公衆送信権侵害の幇助については別途議論の余地がある〔高瀬亜富「判例紹介リツイート事件」コピ690号(2018)45頁、小泉直樹「良いリンク悪いリンク」『L&T別冊 知的財産紛争の最前線No.3―裁判所との意見交換・最新論説―』(民事法研究会、2017)47頁、堀江亜以子「リツイートによる著作者人格権侵害」『平成30年度重判解〈ジュリ臨増1531号〉』(2019)263頁等〕。)。他方、本件では、画像がトリミングされた形で表示され、その結果氏名表示部分が消えてしまったため、原審は、本件各リツイート者が同一性保持権及び氏名表示権を侵害したものと認めた。

 (3) 氏名表示権侵害の成否について

 ア 論旨は、第1に、本件各リツイート者は著作権侵害となる著作物の利用をしていない以上、著作権法19条1項の「著作物の公衆への提供若しくは提示に際し」という要件を満たさないという。

 この点に関しては、著作権侵害となる著作物の利用(著作権法21~27条に列挙された支分権に対応する利用行為)がないことから氏名表示権侵害の上記要件を欠くとしたように読める裁判例(大阪地判平成25・6・20判時2218号112頁〔ロケットニュース24事件〕等)もあるが、支分権該当行為がなくても上記要件を欠くことにはならず氏名表示権侵害は成立し得るとするのが多数説である(前掲・高瀬45~47頁、小坂準記「デジタル時代の著作者人格権」コピ698号(2019)9~10頁、渡邉佳行「リツイート行為による著作者人格権侵害の成否」ビジネスロージャーナル136号(2019)131頁、高橋和之ほか編『インターネットと法〔第4版〕』(有斐閣、2010)280頁〔青江秀史=茶園成樹〕等。長谷川遼「リツイート事件(控訴審判決)」著研45号(2019)282~283頁は反対。なお、慎重な姿勢を示すものとして、谷川和幸「Twitterに投稿された画像の同一性保持権侵害等が認められた事例――Twitterリツイート事件控訴審」福岡63巻2号(2018)571~572頁、中崎尚「リンクと著作権」小泉直樹ほか編『別冊ジュリスト242号 著作権判例百選〔第6版〕』(有斐閣、2019)125頁がある。)。

 著作権法19条1項は、同法18条2項1号等とは異なり、文理上、「提供若しくは提示」を、著作権の行使(支分権該当行為)を伴う態様のものに限定していない。また、そもそも、氏名表示権は著作者と著作物との結び付きに係る人格的利益を保護する趣旨の権利であり(加戸守行『著作権法逐条講義〔6訂新版〕』(著作権情報センター、2013)170頁、半田正夫=松田政行編『著作権法コンメンタール1〔第2版〕』(勁草書房、2015)786頁〔柳沢眞実子〕、中山・前掲602頁)、この点は支分権該当行為を伴うと否とで異ならない。そのため本判決は、上記多数説を採ったものと解される。

 イ 本判決は、「著作物の公衆への提供若しくは提示に際し」の当てはめとして、「本件各リツイート者が、本件各リツイートによって、支分権侵害となる著作物の利用をしていなくても、本件各ウェブページを閲覧するユーザーの端末の画面上に著作物である本件各表示画像を表示したことは、著作権法19条1項の『著作物の公衆への……提示』に当たる」旨判示した。

 その上で、本判決は、氏名表示権侵害の当てはめとして、「Xは、本件写真画像の隅に著作者名の表示として本件氏名表示部分を付していたが、本件各リツイート者が本件各リツイートによって本件リンク画像表示データを送信したことにより、本件各表示画像はトリミングされた形で表示されることになり本件氏名表示部分が表示されなくなったものである。また、本件各リツイート者は、本件各リツイートによって本件各表示画像を表示した本件各ウェブページにおいて、他に本件写真の著作者名の表示をしなかったものである。」旨判示した。

 ウ (ア) これに対し、論旨は、第2に、本件各ウェブページを閲覧するユーザーが本件各表示画像をクリックすれば本件氏名表示部分のある本件元画像を見ることができるという事実(以下「本件事実」という。)をもって、本件各リツイート者が著作者名を表示したことになるという。本件事実は、原審認定事実にないが、一般的、客観的な事実ではある(谷川・前掲543~548頁)。

 (イ) 著作者名の表示の態様・方法については、「本の表紙に著作者の名前を印字する場合もあれば、絵画の落款、音楽の著作物について演奏前に作品紹介をする際の作曲家の名前の紹介等、多様な態様がある。」(茶園成樹編『著作権法〔第2版〕』(有斐閣、2016)90頁〔青木大也〕)などといわれているが、論旨のような観点からウェブ上の写真の著作物について著作者名を表示したといえるかという点に関しては、従前あまり議論されてこなかった。これまで、氏名表示権の被疑侵害者による著作者名の表示の有無や表示の仕方について判断した最高裁判例はなく、上記の点について判断した下級審裁判例も見当たらない。本件に即して検討する必要があるが、原判決の評釈である長谷川・前掲284~285頁は、本件事実等から「表示あり」とすることも可能としている(他方、小坂・前掲10頁、谷川・前掲572頁、渡邉・前掲131頁は、本件事実をむしろ著作権法19条3項該当性を基礎付ける事実として用いることを示唆している。)。

 (ウ) 本件においては、前記のとおり公衆に提示された著作物である本件各表示画像について、もともと著作者が写真画像そのものの中に一覧性のある形で表示していた本件氏名表示部分が丸ごと消えてしまっているばかりでなく、本件各ウェブページ上において代替的な著作者名の表示もされなかったものであり、著作者名の表示がクリック先の元画像にある旨の表示もなかったものである。そのため、本件各表示画像を閲覧する過程で著作者名の表示を目にすることはない上、本件各表示画像を含む本件各ウェブページを見ただけでは、本件各表示画像をクリックした後に見られる元画像に著作者名が表示されているか否か自体分からない状況にあり、そのような状況下で、クリックすれば元画像を容易に見ることができ、クリックして本件元画像を見た場合には本件氏名表示部分を目にすることになるというだけで、著作者名の表示がされたといえるのかという問題がある。

 その上で、インターネットの世界ではウェブページが一つの基本単位となっていることなどを考慮すると、本件事実は、ウェブ上の写真の著作物である本件各表示画像が表示されている本件各ウェブページとは別個のリンク先のウェブページに本件氏名表示部分があるというにとどまり、本件各ウェブページ(本件各リツイート記事)を閲覧するユーザーは本件各表示画像をクリックしない限り本件氏名表示部分を目にすることはないのに、当該著作物について著作者名を「表示した」とたやすくいうことはできない。もっとも、本件各ウェブページを閲覧する一般のユーザーが本件各表示画像を通常クリックするといえるような事情(例えば、クリックするよう指示されている場合など)があれば、著作物の閲覧者が著作者名の表示を通常目にすることになり、著作者と著作物との結び付きを示すという著作者名表示の機能を果たすという意味で、著作者名の表示があったものとみる余地があるが(戸倉三郎裁判官の補足意見参照)、本件においては、そのような事情はうかがわれない。

 本判決は、以上のようなことを踏まえて、本件事実があるとしても本件各リツイート者が著作者名を表示したことにはならない旨を判示したものと解される。

 エ なお、本件では、氏名表示権侵害の成否に係る調整規定となる著作権法19条3項(著作者名の表示の省略)の主張は原審までにされておらず、論旨にもなっていなかったため、本判決は、同項の適用の可否については判断していない。これは今後に残された論点である。

 (4) 発信者情報開示請求の要件の充足について

 ア 本件各リツイートによる本件氏名表示権侵害が認められるとしても、プロバイダ責任制限法4条1項の要件との関係で、「侵害情報の流通によって」その権利侵害がされたといえるか、本件各リツイート者が「侵害情報の発信者」に該当するかが問題となる。これは本件における「侵害情報」の特定の仕方にもよるところ、論旨は、(α)画像データを「侵害情報」と捉えた場合には、本件各リツイート者は画像データをサーバー(特定電気通信設備)の記録媒体に記録していないから、「発信者」(同法2条4号、4条1項柱書き)に該当しない、(β)HTML等のデータ(本件リンク画像表示データ)を「侵害情報」と捉えた場合には、本件では同データの流通それ自体によって権利を侵害したといえないから、同項1号の「侵害情報の流通によって」の要件を満たさないという。他方、原審は、(γ)画像データ及びHTML等のデータを併せて「侵害情報」と捉えたが、論旨は、このような捉え方は許されないという。

 イ 「侵害情報の流通によって」の意義について、総務省総合通信基盤局消費者行政第二課『改訂増補第2版 プロバイダ責任制限法』(第一法規、2018)17頁では、権利の侵害が「情報の流通」自体によって生じたものである場合を意味すると解説されている。その文意は必ずしもはっきりしないが、大村真一「プロバイダ責任制限法の概要――法の概要と制定10年後の検証の概要」堀部政男監修『別冊NBL14号 プロバイダ責任制限法 実務と理論』(商事法務、2012)14頁は、「それ自体が違法ではない違法情報へのリンク情報」は対象とならない旨記述している。これらについて厳格に解すると、プロバイダ責任制限法4条1項1号の「侵害情報の流通によって」権利が侵害された場合とは、当該情報の流通のみによって(それ単独で)権利侵害が生じた場合に限定されるとする見解(以下、便宜上「A説」という。)に行き着くように思われる(この見解に立てば、本件において前記(β)のように本件リンク画像表示データのみを「侵害情報」と捉えた場合には、画像データの流通なしに本件氏名表示権侵害という事態が生じない以上、同号の要件を満たさないことになる。)。他方で、「によって」というのは当該侵害情報の流通と侵害との間の相当因果関係を示すものにとどまるとする見解(以下「B説」という。)もあり(飯田耕一郎編著『プロバイダ責任制限法解説』(三省堂、2020)76頁)、中間説として、相当因果関係のみならず侵害を直接的にもたらしているといえる関係を要求する見解(以下「C説」という。)も考えられる。

 公表されている裁判例では、A説を採ったように思えるもの(東京地決平成27・3・10LLI/DB07031024等)があるものの、裁判実務が固まっているわけではなかったし、プロバイダ責任制限法4条1項の規定の文理上、A説のような限定がされているとはいい難い。そして、インターネット上(特定電気通信上)の情報発信行為が他人の権利を侵害し損害賠償請求や差止請求等の対象となる場合にその行為者を特定するための情報を開示するという発信者情報開示請求制度の趣旨にも照らすと、当該情報の流通と権利侵害との間に相当因果関係があれば足りる(B説)と解する余地もないではないし、少なくとも、当該情報の流通によって直接的に権利侵害をもたらすような場合であればこの要件を満たす(C説)と解することができる。

  ウ 本件においては、原審認定事実によると、本件各リツイート者がした本件各リツイートによって、HTML等のデータ(本件リンク画像表示データ)がリンク元のサーバー(特定電気通信設備)の記録媒体に記録され、ユーザーの端末に送信された。これにより、リンク先から本件元画像のデータが送信された上、本件リンク画像表示データの指定(画像表示の仕方の指定)に従って、画像のトリミング表示がされ、本件氏名表示部分が表示されなくなり、本件氏名表示権の侵害が生じた。したがって、本件各リツイート行為による本件リンク画像表示データの送信が、本件氏名表示権侵害につながったものであり、本件リンク画像表示データの流通と本件氏名表示権侵害との間には相当因果関係があると認められるのみならず、本件リンク画像表示データの流通は、上記画像データの流通と比べても、本件氏名表示権侵害を直接的にもたらしているといえる。

  エ 本判決は、以上のような考慮をして、前記(β)のように本件リンク画像表示データを「侵害情報」と捉えた上で、プロバイダ責任制限法4条1項1号の「侵害情報の流通によって」の要件の充足を認めたものと解される。また、「侵害情報」をそのように捉えた結果、本件各リツイート者は、もとより本件リンク画像表示データを特定電気通信設備の記録媒体に記録したものであるから、画像データをサーバーに記録等していなくても、「侵害情報の発信者」(同法2条4号、4条1項柱書き)に該当すると判断されることとなった。本判決は、「侵害情報の流通によって」の要件については、原審認定事実の下で、当該データの送信が権利侵害を直接的にもたらしているといえるとして、このような場合には要件該当性を肯定できる旨判断したものであり、A説を採用しなかったことは明らかであるが、一般論としてB説とC説のいずれを採るかなどを明らかにしたものではない。

 

6 本判決の意義

 本判決は、最高裁が、氏名表示権について、著作権法19条1項の「著作物の公衆への提供若しくは提示に際し」に関する解釈を示すとともに、ウェブ上の著作物の著作者名の表示に関する事例判断をするなどし、また、発信者情報開示請求について、リンクが用いられたケースにおけるプロバイダ責任制限法4条1項の要件充足性に関する事例判断をしたものである。上記各事例判断は当事者の主張立証及び原審が認定した本件の事実関係を前提とするものであること、著作権法19条3項の適用の可否については判断されていないことなどに留意する必要があるが、本判決は、SNSを始めとするインターネット上の著作物についての著作者人格権保護の在り方や発信者情報開示請求に関して考える上でも、重要な意義を有すると考えられるため、紹介する次第である。

 

 

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