インドネシア:オムニバス法の制定(5)〜労務分野への影響①
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 福 井 信 雄
弁護士 小 林 亜維子
2020年11月2日にインドネシアで制定、即日施行された雇用創出に関する法律(通称「オムニバス法」)に関して、本稿から複数回に渡って労務分野への影響について紹介する。
1. 総論
2003年に制定されたインドネシアの労働法は、雇用主側から一方的に労働者を解雇する場合には原則として裁判所の許可を必要とするなど、比較法的に見ても労働者の権利保護に手厚く、労務管理は会社経営にとっても常に難しい課題であった。オムニバス法は、その正式名称の通り国内の雇用を創出することを企図した法律であり、そのためには外国からの投資を呼び込むことが重要であるとの認識の下、より労使間のバランスの取れた労働法制を指向するものである。オムニバス法の制定日から3か月以内に関連施行規則が制定されることになっており、改正の詳細は当該施行規則に定められることが予定されているため、具体的な改正内容の多くは施行規則に委ねられることになるが、本稿においては、現段階で判明しているオムニバス法に基づく労働法制に関する重要な改正点について概説する。
2. 有期雇用契約
オムニバス法は、有期雇用契約に関する規制を以下の通り改正した。有期雇用の労働者が従事できる業務内容が限定されている点は従来通りであるが、雇用期間に関する制限が撤廃されたのが大きな改正点である。具体的には、有期雇用全般に適用される契約期間(延長及び更新を含む。)の上限(最大5年)が廃止され、またこれまで完了までの期間が3年以下の業務については「短期間の業務」として有期雇用の利用が認められていたところ、その3年以下という要件も削除された。他方で、業務内容に関する規制に違反している有期雇用契約は、従来通り期間の定めのない雇用契約とみなされる点や、これまで不要であった有期雇用契約の労働者に対しても退職金の支払いが義務づけられた点には注意する必要がある。
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改正前 | 改正後 |
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業務内容 |
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契約期間 |
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• 契約期間の制限はない。 |
退職金 |
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(ふくい・のぶお)
2001年 東京大学法学部卒業。 2003年 弁護士登録(第一東京弁護士会)。 2009年 Duke University School of Law卒業(LL.M. )。 2009年~2010年 Haynes and Boone LLP(Dallas)勤務。
2010年~2013年10月 Widyawan & Partners(Jakarta)勤務。 2013年11月~長島・大野・常松法律事務所 シンガポール・オフィス勤務。 現在はシンガポールを拠点とし、インドネシアを中心とする東南アジア各国への日本企業の事業進出や現地企業の買収、既進出企業の現地でのオペレーションに伴う法務アドバイスを行っている。
(こばやし・あいこ)
2007年同志社大学法学部法律学科卒業。2009年京都大学法科大学院修了。2010年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2016年Stanford Law School卒業(LL.M.)。2017年から2018年まで長島・大野・常松法律事務所ジャカルタ・デスク(Soemadipradja & Taher内)勤務。現在は東京オフィスにて、日本企業によるインドネシアへの事業進出及び資本投資その他の企業活動に関する法務サポートを含む国内外の企業法務全般に従事している。
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