◇SH3530◇eスポーツを巡るリーガル・トピック 第7回 eスポーツとフェアプレイ(3)――チート行為と法律――その他の法令や利用規約を巡る論点 長島匡克(2021/03/15)

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eスポーツを巡るリーガル・トピック

第7回 eスポーツとフェアプレイ(3)――チート行為と法律
その他の法令や利用規約を巡る論点

TMI総合法律事務所

弁護士 長 島 匡 克

 

  1. 第 1 回 eスポーツを巡るリーガル・トピックの検討の前提として
  2. 第 2 回 eスポーツと著作権(1)――ゲームの著作物性とプレイ動画
  3. 第 3 回 eスポーツと著作権(2)――eスポーツの周辺ビジネスとゲームの著作権
  4. 第 4 回 eスポーツと著作権(3)――eスポーツ選手と著作権
  5. 第 5 回 eスポーツとフェアプレイ(1)――ドーピング等
  6. 第 6 回 eスポーツとフェアプレイ(2)――チート行為と法律――著作権を中心に
  7. 第 7 回 eスポーツとフェアプレイ(3)――チート行為と法律――その他の法令や利用規約を巡る論点
  8. 第 8 回 eスポーツにおける契約上の問題点(1)――大会参加契約・スポンサー契約・未成年との契約
  9. 第 9 回 eスポーツにおける契約上の問題点(2)――eスポーツにおける選手契約
  10. 第10回 eスポーツに係るその他の問題(eスポーツとSDGs等)

 

1 チート行為と著作権以外の法律問題

 一部のチート行為については著作権法で捕捉できることは前回述べたが、著作権法の他にも、ゲームの提供方法や、チート行為の内容に応じて、不正競争防止法違反(技術的制限手段回避装置提供)、電子計算機損壊等業務妨害(刑法234条の2第1項)、電子計算機使用詐欺罪(同法246条の2)、私電磁的記録不正作出・同供用(同法161条の2第1項・第3項)、偽計業務妨害罪(同法233条)、不正アクセス行為の禁止等に関する法律(以下「不正アクセス禁止法」という。)違反等に該当する場合もある。紙幅の関係で全ての検討は困難のため、以下の3つの規制を紹介する。

⑴ 不正競争防止法(技術的制限手段回避装置提供)

 不正競争防止法は、技術的制限手段により制限されているコンテンツの視聴や記録、プログラムの実行、情報の処理を可能とする(技術的制限手段の効果を無効化する)装置、プログラム、指令符号、役務を提供等する行為を不正競争(不正競争防止法2条1項17号・18号)とし、その行為者を民事上の損害賠償請求(民法709条)及び差止請求(不正競争防止法3条1項)並びに刑事罰(同法21条2項4号)の対象としている。技術的制限手段とは、音楽・映画・写真・ゲーム等のコンテンツの無断コピーや無断視聴を防止するための技術であり、コピーコントロール技術とアクセスコントロール技術を含む概念である(同法2条8項)。

 例えば、特定のゲーム機に対応する正規のゲームソフトを記録した記録媒体のみに対してゲーム機が起動するように制限をかけるなど、ゲームにおいては技術的制限手段が付されており、それを回避する行為は不正競争となる。裁判例でも、インターネットからダウンロードした違法コピーソフトをニンテンドーDSで起動させることができる「マジコン」と呼ばれる機器を輸入・販売する行為が民事上の不正競争と認められている[1]

⑵ 電子計算機損壊等業務妨害罪

 電子計算機損壊等業務妨害罪は、人の業務に使用するコンピュータ若しくは電磁的記録を損壊し、若しくはコンピュータに虚偽の情報・不正な指令を与えること、またその他の方法で、動作阻害を生じさせ、コンピュータにより遂行される業務を妨害する行為を罰する。そのため、同罪の適用には、「人の業務に使用するコンピュータ」の存在が必要である。したがって、これが存在するオンラインゲームには適用され得るが、オフラインゲームではプレイヤー自身のコンピュータが動作阻害を起こすのみであるから、「人の業務に使用する」という要件を満たさず、同罪は適用されないことになる[2]。実際の事案としては、具体的な行為態様は明らかではないものの、2014年に、FPSのゲームにおいて運営会社の定めた規約に違反して空中からや壁越しに狙撃できたり、敵の頭部が巨大化して狙いやすくなったりする本来は存在しない計37種類のチートツールを独自に開発して販売し、収益を上げていた少年3人が電子計算機損壊等業務妨害罪で書類送検された事例がある[3]

⑶ 不正アクセス禁止法

 不正アクセス禁止法は、不正アクセス行為や、不正アクセス行為につながる識別符号(IDやパスワード等)の不正取得・保管行為、不正アクセス行為を助長する行為等を禁止する。不正アクセス行為とは、IDやパスワード等によりアクセス制御機能が付されている情報機器やサービスに対して、他人のID・パスワード等を入力したり(識別符号窃用型)、脆弱性を突いたり(セキュリティ・ホール攻撃型)などして、利用権限がないにもかかわらず、不正に利用できる状態にする行為をいう(不正アクセス禁止法2条4項)。不正アクセス行為は、刑事罰の対象である(同法11条、3条)。

 2019年の不正アクセス禁止法違反事件の検挙状況を見ると[4]、識別符号窃用型での摘発例が99.7%であり、不正に利用されたサービス別の内訳では「オンラインゲーム・コミュニティサイト」が最も多い(224件/785件)。このデータは、オンラインゲームにおける不正アクセス(特に識別符号窃用型)への対策が重要であることを如実に示している。

⑷ 小括:チート行為への法律に基づく対策の限界と「契約」での対策の重要性

 チート行為の内容は多岐にわたる上、法律で規制可能な場合も限定的であるため、全てのチート行為が何らかの法律に抵触するものではない。例えば、(技術的な仕組みによって一概には言えないものの)ボッティングやオートエイム、ストリームスニッピングなどは、法律の定める要件に該当せず、何らかの法規制の対象になるものではないように思われる。しかしながら、チート行為はゲームバランスを崩しゲームの魅力を失わせ、健全なプレイヤーがゲームから離れる原因となるのみならず、公平公正な競争環境の確保というスポーツとしての価値を根源から揺るがす行為であり、決して許されるものではない。そこで重要となるのは、チート行為への「契約」における規制である。

 

2 チート行為の利用規約違反

⑴ 利用規約によるチート行為の禁止

 ゲームプレイにおけるゲーム会社とプレイヤーの契約は、ゲーム会社が用意するエンドユーザーライセンスや利用規約等により規律され、eスポーツ大会の大会主催者とその出場選手との関係は、大会主催者が用意する参加規約やリーグ規約等(以下、エンドユーザーライセンス、利用規約等を含め、「利用規約等」という。なお、利用規約等に係る契約上の問題点については次回検討する。)により規律される。ゲーム会社や大会主催者は、これらの利用規約等において、プレイヤーに対して、チート行為を禁止し、その遵守を契約上求めている。

 例えば、PUBG MOBILE JAPAN LEAGUEでは、ドーピングや、八百長、ボッティング、スクリプティング、不正ツールの使用、ゲームに影響を与えるデバイスの使用など、幅広くチート行為を禁止している[5]。またRAGE Shadowverse 2020 Winterでは、これらとともに、「スポーツマンシップに反する行為や態度」を見せることも包括的に禁止している[6]。このように利用規約等により幅広くチート行為をカバーし、ゲーム会社またはeスポーツ主催者がチート行為を行う者に対して適切に対応できるように定めている。

⑵ 利用規約等違反の場合の対応

 チート行為を禁止する利用規約等に同意したプレイヤーがチート行為を行うことは、当該利用規約等の契約違反となる。オンラインゲームにおいて、チート行為を行った者に対しては、一定期間または無期限のアカウント停止等の処分がなされることが多い。一方、eスポーツの大会等においては、大会主催者から、失格、順位またはポイントのはく奪、出場禁止等の制裁が下されることになる。例えば、「荒野行動」の決勝大会で、チーミング行為(本来はゲーム内において敵対するプレイヤーまたはチーム同士が、共に協力してゲームを行なう行為)がなされたとして、成績のはく奪と賞金の没収に係る処分がなされた事例がある[7]

 このようにチート行為に基づいて制裁を加える場合、そもそもチート行為があったことを誰が認定するか、その場合に被処分者に手続保証がなされているかは重要な点である。例えば、Jリーグ規約は、Jリーグ規約等の違反行為について、規律委員会またはチェアマンが調査、審議し、懲罰を決定すると定め、処分権者を明らかにしており[8]、また、原則として懲罰の対象となるJクラブまたはJクラブ関係者に対して手続保証の機会を与えている[9]。さらに、被処分者であるJクラブまたはJクラブ関係者には、最終的な制裁への不服申立て権限を与えている[10]。eスポーツの大会における制裁の判断がどのようになされているかは明確ではない点が多いが、このような従来型スポーツにおける違反行為への対応プロセスは、eスポーツにおいても参考になるであろう。

⑶ チート行為に係る紛争解決

 被処分者がチート行為の認定やその制裁の重さに不服がある場合は、どのような不服申し立て手段があるか。上に述べたJリーグ規約のように、利用規約等に内部の不服申立てのルールがあればまずはそれに従って対応されるべきである。しかし、不服申立ての規定がない場合または不服申立ての手続きに基づく判断に不服がある場合には、裁判または仲裁等の一般的な外部の紛争解決手段に委ねるところになる。

 紛争解決手段の選択として、裁判か仲裁のいずれが適切かは従来型スポーツにおいても議論されていた点である。そもそも日本国内で裁判所において判断できる事件は「法律上の争訟」に限定されるところ(裁判所法第3条)、従来型スポーツの大会において下された判断や競技団体からの制裁に対して取消しを求めるような訴えは、法律上の争訟でないとして却下される可能性が高い[11]。この点はeスポーツ大会でも同様であり、例えば、チート行為に基づいて成績がはく奪された場合、その処分の取消しを求めて裁判で争うことは難しいだろう。もっとも、損害賠償(慰謝料)請求であれば、競技団体の決定の当否が判断された裁判例がある[12]。eスポーツ大会では賞金が支払われることも多いため、処分の取消しは難しくとも、賞金のはく奪等による金銭的な損失の回復を求める訴えであれば、裁判所による判断を得られる可能性はあるだろう。但し、この場合でも、この種の紛争において求められる専門性やスピード感の要請に応えることは難しいように思われる。

 従来型スポーツに関しては、上記のような問題意識から、日本スポーツ仲裁機構(JSAA)が設立された。同機構によるスポーツ仲裁は、「スポーツ競技又はその運営に関して競技団体又はその機関が競技者等に対して行った決定」が不服申立ての対象であるため(スポーツ仲裁規則2条1項)、現状同規則に定義される「競技団体」(同規則3条1項)に該当する団体が存在しないeスポーツでは利用できないと解される。そうだとすると、eスポーツにおける紛争解決手段が極めて限定されるため、この点は今後の課題であろう。

 なお、海外においては、JAMS、the Arbitration Court for Esports(ACES)及びthe Esport Integrity Coalition (ESIC)等が仲裁判断を行う団体として存在する。従来型スポーツにおける多くの事案を処理している国際スポーツ仲裁裁判所(CAS)での解決も考えられるが、本記事掲載時点でeスポーツに対する判断はなされておらず、実務上も統一的な取り扱いはない[13]

第8回へ続く

 


[1] 知財高判平成26・6・12裁判所HP(最判平成28・1・12LLI/DBで上告が棄却されたため確定)

[2] 遠藤元一「チートツールの法的検討」国際商事法務43巻12号(2015)1855頁

[3] 神奈川新聞「オンラインゲームで『チート』悪用 少年3人を全国初摘発」2014年6月26日(https://www.kanaloco.jp/news/social/entry-48860.html

[4] 国家公安委員会・総務大臣・経済産業大臣「不正アクセス行為の発生状況及びアクセス制御機能に関する技術の研究開発の状況」(令和2年3月5日)(https://www.meti.go.jp/press/2019/03/20200305003/20200305003-1.pdf

[5][5] PUBG MBILE JAPAN LEAGUE細則(https://pubg.ad.at.nttdocomo.co.jp/download/pmjl_owners_detailed_regulations.pdf)最終更新日:2020年12月16日

[6] RAGE Shadowverse 2020 Winter 大会規約12条(17)(https://rage-esports.jp/shadowverse/2020winter/info/agreement#rule12)最終更新日:2020年10月1日

[7] 「『荒野行動』の決勝大会でチーミングによる不正行為が発覚」2019年8月18日(https://game.watch.impress.co.jp/docs/news/1201840.html

[8] Jリーグ規約(最終更新日:2021年2月25日。以下同じ。)133条、134条1号・2号

[9] Jリーグ規約140条、133条に基づくJFA懲罰規程(最終更新日:2020年10月22日)20条、規律委員会規程(2020年1月30日施行のもの)6条

[10] Jリーグ規約149条

[11] 東京地判平成6・8・25判時1533号84頁。同裁判例は、自動車協議において競技会審判委員会から1周減算のペナルティを受けた競技者である原告が、これに対する不服申し立てを却下した日本自動車連盟を被告として、当該ペナルティの決定の取り消しを求めた事案において、当該紛争は法律上の争訟ではない旨判断した。

[12] 東京地判昭和63年2月25日判時1273号3頁、東京地判平成18年1月30日判タ1239号267頁

[13] Bonnie Tiell, Kerri Cebula “Governance in Sport: Analysis and Application” (Human Kinetics, 2020) P274-275

 


(ながしま・まさかつ)

2010年早稲田大学法務研究科修了。2011年に弁護士登録。2012年からTMI総合法律事務所勤務。スポーツ・エンタテインメントを中心に幅広く業務を行う。2018年にUCLA School of Law (LL.M.)を終了。その後、米国・ロサンゼルス所在の日系企業及びスウェーデン・ストックホルム所在の法律事務所での研修を経て帰国。2020年カリフォルニア州弁護士登録。米国Esports Bar Association(EBA)の年次総会でパネリストとして登壇するなど、日米のeスポーツに関する知見を有する。eスポーツに関する執筆は以下のとおり(いずれも英語)。

TMI総合法律事務所 http://www.tmi.gr.jp/

TMI総合法律事務所は、新しい時代が要請する総合的なプロフェッショナルサービスへの需要に応えることを目的として、1990年10月1日に設立されました。設立以来、企業法務、M&A、知的財産、ファイナンス、労務・倒産・紛争処理を中心に、専門化と総合化をさらに進め、2021年1月1日現在、弁護士494名、弁理士85名、外国弁護士37名の規模を有しています。クライアントの皆さまとの信頼関係を重視し、最高レベルのリーガルサービスを提供できるよう努めております。

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