◇SH3901◇フィリピン:小売自由化法を改正する法律の成立――外資規制の大幅緩和(2) 坂下大(2022/02/08)

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フィリピン:小売自由化法を改正する法律の成立
――外資規制の大幅緩和(2)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 坂 下   大

 

(承前)

 

改正前 改正後

4. フィリピン人の優先雇用

  1.   規定なし。
  1. ・ 外資の出資を受けた小売事業者による外国人の雇用にあたっては、雇用法の定める、当該職務について適任、有能で働く意思のあるフィリピン人が不存在であることを事前に確認すべき旨の規定が、憲法の定めるフィリピン人労働力優先のポリシーを十分に踏まえて遵守されなければならない。
  2. ・ (補足説明)上記雇用法の制度の下、フィリピンにおける外国人の就労に必要な当局の雇用許可は、事前に当該外国人が就任予定の職務の詳細を公告し、一定期間内に異議申立てがなされなかったことの確認等(いわゆる労働市場テスト)を経て発行される。上記改正内容は、このようなフィリピン人の優先雇用の原則が小売業においてもなお妥当することを確認的に規定したものと解される。

5. 外国投資家に求められる要件

  1. ・ 小売業に参入する外国投資家は、以下の要件を充足する必要がある。
  1. ✓ 純資産2億米ドル(約230億円)以上(ハイエンド品等に特化する者の場合は5,000万米ドル以上)。
  2. ✓ フィリピン国外において5つ以上の店舗又はフランチャイズを有するか、2,500万米ドル以上の資本を有する店舗を1つ以上有する。
  3. ✓ 5年以上の小売業の実績。
  4. ✓ フィリピン国民が小売業を行うことを認めている国から投資を行う者である(いわゆる相互主義)。
  1. ・ 相互主義の点を除いて、左記の要件は全て撤廃。

6. 国内調達

  1. ・ 改正直前時点で効力を有する関連義務規定はなし。
  1. ・ 外資の出資を受けた小売事業者は、フィリピン産の在庫を保有することが推奨される。

 

 改正法は、官報等で公表されてから15日後に発効するとされており、2022年1月6日付で官報のオンライン版にこれがアップロードされていることから、本稿公開時点では既に発効済みであると思われる。もっとも、改正法において、所管当局は同法の承認から90日以内にその施行規則を制定すべきことが定められているが、現時点において当該施行規則は少なくとも公表はされていない。既存の施行規則では、改正前の法律の内容を前提に、外国投資家として満たすべき要件の確認手続、当局への年次の報告等を含む細則が定められているところ、施行規則についても改正法の内容を前提とした改正又は新規則の制定がなされることが想定される。かかる施行規則の改正等の状況にも引き続き注視する必要がある。

 

 


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(さかした・ゆたか)

2007年に長島・大野・常松法律事務所に入所し、クロスボーダー案件を含む多業種にわたるM&A、事業再生案件等に従事。2015年よりシンガポールを拠点とし、アジア各国におけるM&Aその他種々の企業法務に関するアドバイスを行っている。

慶應義塾大学法学部法律学科卒業、Duke University, The Fuqua School of Business卒業(MBA)。日本及び米国カリフォルニア州の弁護士資格を有する。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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