ベトナム:新法・新政令における労働許可証の免除(1)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 井 上 皓 子
「ベトナムで就労する外国人労働者及びベトナムにおける外国組織で就労する労働者に関する政令第152/2020/NÐ-CP号」(2021年2月15日施行、以下「新政令」といいます。)における外国人労働者の労働許可証に関する変更点について解説します。今回は、労働許可証が免除される場合についてです。
1. 新法・新政令における変更点
ベトナムで勤務しようとする外国人労働者は、原則として労働許可証を取得しなければなりませんが、一定の場合は労働許可証の取得が免除されています(労働法第154条)。免除される場合でも、原則として当局から労働許可証免除対象確認の手続きを受けることが必要です。新法及び新政令では、労働許可証免除の対象者やその要件が、旧法及び旧政令(政令第140/2018/NĐ-CP号により一部改正された政令第11/2016/NĐ-CP号(以下「旧政令」といいます。))から一部変更されました。変更がある場合とその変更点は、以下のとおりです。なお、確認手続が不要な場合でも、勤務開始日の少なくとも3日前までに、地方労働局への報告が必要です。
労働許可証免除対象者 | 確認手続 | 旧法・旧政令からの変更点 | 変更に伴い必要な手続き |
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不要 | 旧法においては、出資額を問わず労働許可証が免除されていたものですが、新法においては、30億ドン(約1400万円)の出資額制限が新たに規定されました。これにより、従前労働許可証が免除されていた出資額30億ドン未満の有限責任会社の所有者・出資者、同じく出資額30億ドン未満の株式会社の取締役会の会長・構成員は、新たに労働許可証の取得が必要になります。 | 出資額30億ドン未満の有限責任会社の所有者・出資、同じく出資額30億ドン未満の株式会社の取締役会の会長・構成員については、労働許可証免除の対象から外れることになります。新政令の施行にあわせ、速やかに労働許可証取得の手続きが必要になると考えられます。 |
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不要 | ||
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必要 | 旧法に引き続き労働許可証の免除対象となりますが、旧政令下では免除対象確認手続きが不要であったものが、新政令では手続きが必要となりました。 | 法令上明確な規定はないものの、ハノイにおいては、新政令の施行時点(2021年2月15日)で免除対象者確認手続きをすることが求められているとのことです(ただし、ベトナムからの出国は不要)。具体的な手続き等は管轄の当局によって異なる可能性があるため、事前に管轄当局にご確認ください。 |
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不要 | 旧政令下では免除対象確認手続が必要とされていましたが、不要となりました。 | 特になし |
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不要 | 旧法では、労働許可証を取得しなければなりませんでしたが、新法において労働許可証の免除対象となりました。あわせて、新政令により、免除対象確認手続も不要とされています。 | 特になし |
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必要 | 社内異動の定義に「12か月以上連続で勤務した者が社内異動する」という要件が明確化されました。この社内異動前の連続勤務要件は、旧政令下では規定がなかったものです。 | 連続勤務要件が欠ける方については、労働許可証免除の対象から外れることになります。現時点で労働許可証免除対象者確認書を保持している場合は、当該確認書の有効期限までは新たな手続きは不要とされていますが、有効期限経過後は、社内異動の場合に当該しなくなり、WTOコミットメントで規定する11のサービス分野の企業で就労する場合でも、労働許可証の取得が必要となります。 |
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不要 | 旧政令では、外国労働者が1回で30日未満かつ1年間で合計90日以下であれば、回数を問わず労働許可証が不要とされていましたが、新政令では、入国回数の制限が新たに規定されました。 | 年4回以上の滞在となる方については、労働許可証免除の対象から外れることになりますので、新政令の施行にあわせ、速やかに労働許可証の取得が必要となると考えられます。 |
なお、以下の各類型の者についても労働許可証の取得が免除されていますが、その要件等については、旧法及び旧政令から変更がありません。
労働許可証免除対象者 | 確認手続 |
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不要 |
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必要 |
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必要 |
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必要 |
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必要 |
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必要 |
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必要 |
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必要 |
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必要 |
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不要 |
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必要 |
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必要 |
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必要 |
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(いのうえ・あきこ)
2008年東京大学法学部卒業。2010年東京大学法科大学院修了。2011年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2018年より、長島・大野・常松法律事務所ハノイ・オフィス勤務。
日本企業によるベトナムへの事業進出、人事労務等、現地における企業活動に関する法務サポートを行っている。
長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/
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