SH3709 国際契約法務の要点――FIDICを題材として 第20回 第4章・Variation及びAdjustment(3)――工事等の内容の変更その3 大本俊彦/関戸 麦/高橋茜莉(2021/08/05)

そのほか

国際契約法務の要点――FIDICを題材として
第20回 第4章・Variation及びAdjustment(3)――工事等の内容の変更その3

京都大学特命教授 大 本 俊 彦

森・濱田松本法律事務所     
弁護士 関 戸   麦

弁護士 高 橋 茜 莉

 

第20回 第4章・Variation及びAdjustment(3)――工事等の内容の変更その3

5 Contractor主導によるVariation

⑴ 要件及び効果

 第18回で述べたとおり、Variationは、基本的にEngineerが主導する。したがって、Contractorは、EngineerからVariationの指示を受けない限り、工事等の内容を変更してはならないのが原則である(13.1項)。

 ただし、Contractorがより望ましい工事等の進め方を考えついた場合には、その情報はEngineerないしEmployer側に伝えられて然るべきである。そこで、FIDICは、より望ましい工事等の進め方をContractorが提案することを認めている。これが、Value Engineeringと呼ばれる仕組みである。

 具体的には、Contractorは、以下のいずれかに当たる提案であれば、いつでもEngineerに対して行うことができる。かかる提案は、書面で行う必要がある。(13.2項)

  1. ▶ 工事の完成時期を早める
  2. ▶ 工事等の実行、管理または運営に関し、Employerにかかるコストを削減できる
  3. ▶ 工事の成果がEmployerにもたらす効率性または価値を高める
  4. ▶ その他、Employerの利益に資する

 ただし、この提案を採用するか否かは、後記 のとおり、Employer次第である。

 

⑵ 手続

▶ Contractorからの提案

 上記のとおり、Contractorからの提案は、Engineerに対して書面で行われる。その書面には、Engineerによる強制的なVariation同様、以下の各点を記載する(13.2項)。

  1. ① 変更後の作業の詳細
  2. ② 変更後の作業を遂行するためのコンピュータプログラム(工事等の全体に関するプログラムの変更が必要であれば、その提案)
  3. ③ 代金額の変更に関する提案

 

▶ Engineerによる返答

 Contractorの提案を受けたEngineerは、できる限り速やかに(as soon as practicable)返答することとされている。返答の内容は、基本的に、Contractorの提案に応じるか、拒絶するかである。提案の諾否は、Employerの独自の裁量に委ねられる。すなわち、Engineerは、かかるEmployerの裁量による判断を受けて、返答することになる。

 Engineerの返答が、Contractorからの提案に応じるものである場合には、Engineerからその内容でVariationを指示することとなり、後の流れは、既に上記3点の記載事項がEngineerに連絡済であること以外は、Engineerからの強制的なVariationと同様である。具体的には、第18回の2 ⑵「Contractorが異議を唱えない場合」に示したとおりである。

 Engineerの返答が、Contractorからの提案を拒絶するものである場合は、Value Engineeringに基づくVariationは行われないことになる。

 なお、Contractorは、かかるEngineerの返答を待っている間、工事を遅らせることなく、予定どおり進めなければならない。

 

⑶ 変更による利益の帰属

 前記 から明らかなとおり、Value Engineeringに基づくVariationは、Employerの利益に資するものである。

 そして、かかる変更を主導した以上、Contractorも変更による利益を享受するのが自然であるかのように思われる。13.2項においても、代金の増額を通じてContractorがかかる利益を享受できる可能性は否定されていない。ただし、Engineerは、契約図書の一部であるParticular Conditionsにおいて、EmployerとContractorの間での利益等の配分が定められている場合に、これを考慮することが求められているのみで、代金の増額が保障されているわけではないことに注意が必要である。なお、利益配分が定められる場合には、50対50の配分とするのが一般的である(逆に言えば、Employerの配分を多くするなど、等分から逸脱するには、設計に関する責任を一部Contractorに移すなどの正当化理由が必要と考えられる)。

 なお、Value Engineeringに関する上記の各規定は、Yellow BookおよびSilver Bookにおいても、特に異ならない。Silver Bookにおいて、Engineerが、Employerにとって代わられる程度である。

 

⑷ 設計変更を伴うValue Engineering

 Contractorの提案が永久構造物(Permanent Works)の一部の設計の変更を伴う場合は、Contractorは、該当部分について、4.1項で定められたContractor’s Obligation(fit for purposeの義務を含む)を負うことになる。

 ただし、実務上は、かかる設計変更を伴うValue Engineeringにおいては、EmployerまたはEngineerがContractorの設計変更案を精査し、自らの設計コンサルタントに改めて設計変更案を作成させたうえで、Employer側による設計変更として強制的なVariationを行うことも珍しくない。これは、大規模なプロジェクトにおいては、Employerが設計コンサルタントを雇い、設計の瑕疵等に関する責任をコンサルタントに一元化するのが通常であるところ、Value Engineeringによって、設計責任を一部Contractorに負わせると、責任が分散してしまい、問題が生じた場合の責任追及が煩雑となるためである。言い換えれば、責任の一元化を維持するために、本来的にはContractorが設計責任を負うValue Engineeringであっても、Employerが設計責任を引き取ることを希望する場面があり得るということである。

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