◇SH3779◇インド:上場規則の改正(1) 山本匡(2021/10/06)

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インド:上場規則の改正(1)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 山 本   匡

 

 インド証券取引委員会(Securities and Exchange Board of India、「SEBI」)は、2021年6月29日に開催した委員会において、Securities and Exchange Board of India(Listing Obligations and Disclosure Requirements)Regulations, 2015(「上場規則」)の改正を決定した。主な改正内容は、上場会社の独立取締役に関するものである。

 

1. 経緯

 SEBIは、2021年3月に、Consultation Paper on Review of Regulatory Provisions Related to Independent Directorsを公表し、上場規則の独立取締役に関する規定の改正についてパブリック・コメントを募集していた。同Consultation Paperによると、独立取締役の役割の重要性(少数株主の保護等)及び過去採用してきた様々な措置にも拘わらず、独立取締役が実効的にその役割を果たしているかについて懸念があり、改正は独立取締役の独立性や機能の更なる強化を図ることを意図したものとされている。同Consultation Paperでは、独立取締役の定義、選任・再任手続き、解任、指名・報酬委員会(Nomination and Remuneration Committee)の役割についての透明性向上、独立取締役選任についての株主の事前承認、辞任、監査委員会(Audit Committee)の構成及び報酬について、一定の提案をするとともにパブリック・コメントを求めていた。

 その後、SEBIはコメントを受けて当初のConsultation Paperにおける提案を見直した上で、Review of Regulatory provisions related to Independent Directorsを公表し、6月29日に開催された委員会で、上場規則の改正を決定した。改正は2022年1月1日に施行される予定である。

 

2. 主要な改正の概要

(1)独立取締役の選任・再任・解任

  1. ① 上場会社の独立取締役の選任・再任・解任いずれについても株主総会特別決議を要する。現在、一定の場合を除き、独立取締役の選任及び解任は株主総会普通決議、再任は株主総会特別決議によって行われるが、改正によって、いずれについても株主総会特別決議が必要となる。
  2. ② 独立取締役候補者を指名・報酬委員会が選定するに当たり、取締役会のスキル、知識及び経験のバランスを評価し、当該評価に基づいて独立取締役に必要な役割や能力を策定すること等、透明性を高めるために従うべき手続きが規定された。
  3. ③ 独立取締役の選任・再任に当たっては、その役割に必要なスキルや能力、候補者がどのようにかかる要件を満たすことができるかを株主に開示する。
  4. ④ 指名・報酬委員会の構成員につき、独立取締役を現在の半数以上から3分の2とする。指名・報酬委員会の員数が3の倍数でなければならないという要件はないため、実質的には3分の2以上となる。
  5. ⑤ 独立取締役を含め、全取締役の選任につき、次の株主総会又は選任後3か月以内のいずれか早い時期に、株主の承認を得る。インド会社法上、附属定款に規定することにより取締役会決議で取締役(独立取締役を含み、追加取締役と呼ばれる。)をいつでも総取締役員数の範囲内で選任することが可能であり、かかる取締役会決議による選任からその後の株主総会での承認まで時間があくことがあり、また、実務上、選任が後に株主総会で否決されることがあって、そのような場合には選任後否決までは取締役に在任することになる。また、独立取締役の辞任又は解任によって欠員が生じた場合、現在の上場規則によると、原則として、次の取締役会又は3か月以内のいずれか遅い方までに欠員を補充する必要があるが、この欠員補充も取締役会で行うことが可能であり、次の定時株主総会で選任するまで時間があき得る。今回の改正は、このようなギャップを短縮して選任に株主の意見をより反映させることが背景としてあるようである。Consultation Paperの段階では、この改正は独立取締役のみを対象とすることが想定されていたが、全取締役に対象が拡大された。なお、改正後の上場規則では「The listed entity shall ensure that approval of shareholders for appointment of a person on the Board of Directors is taken at the next general meeting or within a time period of three months from the date of appointment, whichever is earlier.」と規定されていて、株主総会以外で選任された取締役に限って上記株主の承認の要件が適用されるというような文言は用いられておらず、その適用範囲や、Consultation Paper及びパブリック・コメントに対する回答に記載されている改正の趣旨が適切に改正後の文言に反映されているのか必ずしも明確でないように思われる。

(2)につづく

 


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(やまもと・ただし)

2003年弁護士登録。2009年から2017年にかけて、インド・シンガポールで勤務。2015年からヤンゴンにて随時執務。新興国を中心に海外進出、各種リーガル・サポートに携わっている。

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