◇SH3871◇カンボジア:新投資法の制定(1) 松本岳人(2022/01/11)

未分類

カンボジア:新投資法の制定(1)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 松 本 岳 人

 

1. はじめに

 2021年10月15日、カンボジアにおいて新たな投資法(以下「新投資法」という。)が公布、施行された。新投資法は、カンボジア政府の産業開発政策に従って制定されたもので、国内外から投資を呼び込むために、制度の透明性を高め、予測可能な法的枠組みを提供することが意図されている。新投資法の制定に伴い、1994年に成立した既存の投資法(以下「旧投資法」という。)並びに2003年に成立した旧投資法の改正法(以下「旧改正投資法」という。)及び2005年に成立した旧改正投資法施行政令(以下「旧政令111」という。)は廃止され、新投資法がこれらに置き換わるものとなる。本稿では、このカンボジアの新投資法の概要について紹介する。

 

2. 旧投資法及び旧改正投資法における外資奨励制度

 カンボジアの外資規制は、隣国であるベトナムやタイなどと比べると非常に緩やかであり、カンボジア政府はもともと外資導入には積極的な政策をとっている。具体的には、国防、規制薬物の製造等の一定の限定された範囲の禁止業務を除き、外国投資家が100%の投資をすることが可能とされている。また外国投資家を呼び込むために、適格投資プロジェクト(Qualified Investment Project。以下「QIP」という。)に対して税制上の優遇措置及び投資保証の制度を設けている。QIPとなるためには、カンボジア開発評議会(Council for the Development of Cambodia。以下「CDC」という。)又は州・特別市投資小委員会(Provincial and Municipal Investment Sub-Committee。以下「PMIS」という。)の登録を受ける必要があるが、実際にカンボジアに進出しようとする外国投資家は、外資奨励制度による税制上の優遇措置や投資保証を得ることを念頭に登録を計画することが多い。そのため、外資奨励制度を利用するためのQIPの適格要件を満たし、必要な登録手続を経て投資が行われることが重要になる。[1]

 

3. 新投資法における外資奨励制度

 新投資法の下でも旧投資法及び旧改正投資法における外資奨励制度の大枠は維持されているものの、改正された主な手続及び拡充された事項は次のとおりである。

 

 ⑴ QIPの対象となる事業分野

 QIPの対象となる事業は、従来、旧政令111別表1第2条に記載された不適格リストに該当しない事業がQIPの対象になるものとされていた。新投資法においては、QIPの対象となる事業として18種類の事業分野が規定されている。具体例としては、ハイテク産業、デジタル産業、生産チェーンに貢献する産業、電気・電子産業、機械産業、農業、食品加工業、観光産業、教育、インフラの整備、物流、グリーンエネルギーなどが含まれており、幅広い事業分野がQIPの対象になることが予定されている。また、列挙されていない事業であっても、カンボジア政府の判断によってはQIPの対象になりうるとされている。

 

 ⑵ QIPの登録手続

 従来のQIPの登録手続は、CDC又はPMISに対して事業ごとに書面による申請書を提出する必要があった。新投資法では、オンラインによる登録手続が導入され、従来条件付きの登録証明書が発効され、最終承認後に正式な登録証明書が発行されるという2段階でなされていたプロセスが、電子化された一つの登録証明書で完結することとなった。また申請から登録までの期間も従来の申請から31営業日以内から20営業日以内に短縮された。

 

 ⑶ 投資優遇

 新投資法において、投資家に対して提供される優遇制度は、①基本的な優遇措置、②追加的な優遇措置、③特別の優遇措置の3種類に分類される。

 ①基本的な優遇措置としては、選択肢が二つある。一つは優遇措置適用期間中(最大9年間)の所得税の免除及び当該免除期間終了後もその後最大6年間累進的割合により所得税の軽減が得られるという措置である。もう一つの選択肢は、一定の特別の償却措置を認めることで資本的支出を課税標準額から控除することができ、またその他の特定の費用について最大9年間、最大200%相当を課税標準額から控除することができるという措置である。

 ②追加的な優遇措置としては、現地生産の資材の購入にかかる付加価値税の免除、特定の活動(研究開発、人材育成、福利厚生拡大など)に要する費用について課税標準額から150%を控除することができるという措置である。

 上記に加え、③国の経済発展に寄与する可能性の高いQIPに対しては財政に関する法律に基づいて特別の優遇措置が設けられる予定である。

 

 ⑷ 投資保証

 新投資法では、旧投資法及び旧改正投資法における投資家の保証制度を拡充し、従来からある投資家の資産の国有化の禁止、投資家の製品・サービスの価格統制の禁止、海外への外貨送金の自由などに加えて、内戦等の結果により生じた損失の補償、知的財産の保護などが与えられることになる。

 なお、旧投資法及び旧改正投資法に基づいて既にQIPの登録を受けていた場合には、移行措置により優遇期間のうちの残存期間について新投資法の下でのQIPとみなして優遇措置を享受することができる。

(2)につづく



[1] 旧投資法及び旧改正投資法に基づく外資奨励制度の詳細は、長島・大野・常松法律事務所『アジアビジネス法ガイド カンボジア編』(第9版)も参照されたい。

 


この他のアジア法務情報はこちらから

 

(まつもと・たけひと)

2005年慶應義塾大学法学部法律学科卒業。2007年慶應義塾大学大学院法務研究科修了。2008年に長島・大野・常松法律事務所に入所後、官庁及び民間企業への出向並びに米国留学を経て、2017年から2020年まで長島・大野・常松法律事務所シンガポール・オフィス勤務。現在は、日本及び東南アジア地域での不動産・インフラ関係の案件を中心に企業法務全般についてアドバイスを行っている。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

長島・大野・常松法律事務所は、約500名の弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。

当事務所は、東京、ニューヨーク、シンガポール、バンコク、ホーチミン、ハノイ及び上海にオフィスを構えるほか、ジャカルタに現地デスクを設け、北京にも弁護士を派遣しています。また、東京オフィス内には、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を支援する「アジアプラクティスグループ(APG)」及び「中国プラクティスグループ(CPG)」が組織されています。当事務所は、国内外の拠点で執務する弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携及び協力関係も活かして、特定の国・地域に限定されない総合的なリーガルサービスを提供しています。

詳しくは、こちらをご覧ください。

タイトルとURLをコピーしました