中国:「会社法」改正案(パブコメ版)(2)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 川 合 正 倫
3 支配株主及び経営管理層の責任
董事、監事、高級管理職の忠実義務及び勤勉義務について具体的な内容が追加され、前者に関し権限を利用して不正な利益を図ってはならいこと、後者に関し職務履行にあたって、会社の利益最大化のために管理職が通常あるべき合理的な注意を尽くさなければならないことが明確化された(180条)。
また、董事、監事、高級管理職が直接又は間接に関連取引(利益相反取引)を行う場合には、契約締結又は取引に関する事項を董事会又は株主会に報告し、定款の規定に従い決議を経ることを求めている。さらに、利害関係を有する董事は当該決議に参加することができない。中国において典型的な不正形態である近親者が直接又は間接に支配する企業等と取引をする場合にも同様の規制が及ぶ旨が規定されており(183条)、法律レベルで新たな規制が導入されたものと評価できる。
董事、高級管理職が職務履行に関連して、故意又は重過失により他人に損害した場合には、会社と連帯して責任を負うとされた(190条)。現行の会社法では、董事については対会社の責任が規定されているものの第三者に対する直接責任を定めておらず、重要性の高い改正といえる。特に、日本企業から中外合弁会社に派遣される董事等については、董事等の第三者への直接責任が認められる場合には、これまでにも増して慎重な対応が求められるといえよう。
また、会社の支配株主、実質的支配者が会社に対する影響力を利用して董事、高級管理職に指図して会社又は株主の利益に損害を与えた場合には、董事又は高級管理職と連帯責任を負うとされた(191条)。実務的には、合弁企業にマイノリティー出資する日本企業が、合弁パートナーが派遣する董事等による不正行為により損害を受けた場合に、本条を利用して当該董事のみならず株主である合弁パートナーに責任追及することが考えられる。
4 総括
上記の他にも、清算組の法定構成員の株主から董事への変更、清算における関係者の責任の明確化、簡易減資手続及び簡易抹消手続の法定化、董事会の人数制限の撤廃、会社資本の充実に関する株主及び董事等の責任強化、出資未了の持分が譲渡された場合の出資義務者の明確化、一人株式会社の容認、株式会社における授権資本制度の導入、国家出資会社に関する規定の新設等、様々な改正が行われている。パブリックコメントは2022年1月22日に締め切られているが、特に董事会への従業員代表の参加強制等の点については実務界からの強い抵抗も予想されるところであり、立法までに一部修正が加わる事態も想定されるため、法案成立までの変更点も注目される。
以 上
この他のアジア法務情報はこちらから
(かわい・まさのり)
長島・大野・常松法律事務所上海オフィス一般代表。2011年中国上海に赴任し、2012年から2014年9月まで中倫律師事務所上海オフィスに勤務。上海赴任前は、主にM&A、株主総会等のコーポレート業務に従事。上海においては、分野を問わず日系企業に関連する法律業務を広く取り扱っている。クライアントが真に求めているアドバイスを提供することが信条。
長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/
長島・大野・常松法律事務所は、約500名の弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。
当事務所は、東京、ニューヨーク、シンガポール、バンコク、ホーチミン、ハノイ及び上海にオフィスを構えるほか、ジャカルタに現地デスクを設け、北京にも弁護士を派遣しています。また、東京オフィス内には、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を支援する「アジアプラクティスグループ(APG)」及び「中国プラクティスグループ(CPG)」が組織されています。当事務所は、国内外の拠点で執務する弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携及び協力関係も活かして、特定の国・地域に限定されない総合的なリーガルサービスを提供しています。
詳しくは、こちらをご覧ください。