ベトナム:新たな労働者海外派遣法の制定~制限範囲の拡大?(1)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 澤 山 啓 伍
ベトナムは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の抑え込みに成功しており、日越間の往来は一時停止されたものの、2020年後半以降レジデンストラック制度を利用したベトナムから日本への入国が認められてきた(2021年1月14日以降同制度の運用は停止。)。報道によれば、2020年にベトナムから海外に渡った労働者は8万人弱、そのうち日本に渡ったのは4万人弱で、前年比では半減したものの、引き続き国・地域別でトップだったとのことである。実際、2020年末に日本に一時帰国した知人の話では、ハノイ・ノイバイ空港の国際線ターミナルは閑散としていたにもかかわらず、成田空港に向かうベトナム航空機はほぼ満席で、そのほとんどが若いベトナム人の乗客であったとのことであった。
コロナ禍で一定の影響はあったものの、技能実習、特定技能、あるいは高度人材に当たるベトナム人を日本で採用としたいというニーズは強く、それに関連した日本企業からのご相談も多くいただいている。そんな中で、今般ベトナム国会は、2006年に成立していた「契約に基づいて海外で勤務するベトナム人労働者に関する法律」(法律第72/2006/QH11号、以下「現行法」という。)を改廃する同タイトルの新法(法律69/2020/QH14号、以下「新法」という。)を成立させた。同法は、技能実習及び特定技能のみならず、高度人材としてのベトナム人の紹介を行おうとする日本企業にとっても重要な法律であるため、本稿では、新法の成立による日本企業への影響について概説する。なお、新法は2022年1月1日に施行される。
2. 送出機関の認可
以前の記事SH2558 ベトナム:ベトナム人材の日本への人材紹介への投資 澤山啓伍(2019/05/24)でも紹介させていただいたが、現行法においては以下のルールが定められている。
- • 日本で、技能実習のみならず、高度人材や特定技能の資格で就職しようとするベトナムに所在するベトナム人労働者を日本企業に紹介する目的で、日本企業と有料職業紹介の契約を締結する場合、ベトナムでの送出機関としての認可が必要とされている。
- • 送出機関としての認可を取得できるのは100%内国資本のベトナム企業のみである。
これらの点は、新法においても同様であるため、以下のようなスキームで高度人材を含むベトナムに所在するベトナム人労働者の日本への人材紹介を行うことは、引き続き採ることができない。
- • 日本企業が出資して現地法人を設立し、送出機関としての認可を取得して、ベトナムに所在するベトナム人高度人材の日本への人材紹介を行う。
- • 既存の送出機関の株式を日本企業が取得して、ベトナムに所在するベトナム人高度人材の日本への人材紹介を行う。
(2)につづく
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(さわやま・けいご)
2004年 東京大学法学部卒業。 2005年 弁護士登録(第一東京弁護士会)。 2011年 Harvard Law School卒業(LL.M.)。 2011年~2014年3月 アレンズ法律事務所ハノイオフィスに出向。 2014年5月~2015年3月 長島・大野・常松法律事務所 シンガポール・オフィス勤務 2015年4月~ 長島・大野・常松法律事務所ハノイ・オフィス代表。
現在はベトナム・ハノイを拠点とし、ベトナム・フィリピンを中心とする東南アジア各国への日系企業の事業進出や現地企業の買収、既進出企業の現地でのオペレーションに伴う法務アドバイスを行っている。
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