SH4015 タイ:デュアルユース品等の輸出管理を目的とした新告示の制定(1) 中翔平(2022/06/06)

取引法務表示・広告規制

タイ:デュアルユース品等の輸出管理を目的とした新告示の制定(1)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 中   翔 平

 

1 タイにおける安全保障貿易管理制度

 従前、タイにおける安全保障貿易管理に関する規制は、主として、輸出入に関する一般的な法律である輸出入管理法によってなされており、デュアルユース品(民生用途及び軍事用途の双方の目的に使用可能なもの。以下同じ。)等の輸出に関連する規制についても同法に基づく告示(「旧告示」)にその詳細が定められていた。旧告示の下では、規制対象となるデュアルユース品等(例えば、鉄部品、変換器、バルブ及びパイプ等)が定められ、輸出者は、特定のデュアルユース品等を輸出する際には、事前に許可を取得するか又は自己申告(Self-Certification)を行うことが求められていた。しかし、2019年4月に大量破壊兵器の拡散に関連する品目の規制を目的とした大量破壊兵器及び関連品目貿易管理法(Trade Controls of Weapons of Mass Destruction Act)(「TCWMD法」)が制定されたことに伴い、それまで輸出入管理法の守備範囲であったデュアルユース品等の輸出に関する規制は主としてTCWMD法に基づき規制されるべきであるとして、2020年1月、輸出入管理法に基づく旧告示は廃止された。旧告示が廃止されて以降、TCWMD法に基づく告示が制定されなかったために、デュアルユース品等の輸出に関する規制が実質的に存在しない時期が続いたが、2021年10月11日に大量破壊兵器の拡散に関連する規制対象品の管理及び最終使用用途又はエンドユーザーが大量破壊兵器の拡散に関連する疑いのある物品に関する措置を定めた告示(「新告示」)が公表され、2021年12月26日に施行された。本稿では、TCWMD法及び新告示の概要を紹介する。

 

2 TCWMD法の概要

 TCWMD法が規制する活動は、大量破壊兵器、軍事兵器及びデュアルユース品目を含む、大量破壊兵器に関連する物品の輸出、再輸出、積み替え、移送及び媒介その他の大量破壊兵器に関連する物品の拡散を企図した活動(「規制対象活動」)である。TCWMD法は、以下の3つのレベルに分類して、商務省が定める告示に基づき規制対象活動を規制することを予定している。

  1. ⑴ 規制対象活動を行うのに許可を必要とする物品
  2. ⑵ 規制対象活動を行うのに大量破壊兵器の拡散に関連しない物品であることを証明する認証を必要とする物品
  3. ⑶ 規制対象活動を行う際に、大量破壊兵器の拡散に関連する物品の管理のために課される措置の対象となる物品

 2022年4月1日時点では、上記⑴及び⑵に関する告示は公表されていないため、TCWMD法上、許可又は認証の対象となる物品は存在しない。新告示は、上記⑶に定める大量破壊兵器の拡散に関連する物品の管理のために課される措置の対象となる物品及びかかる措置の詳細を定めるものである。

 

3 新告示の概要

 ■ 規制品目

 新告示においては、以下の2種類のリストを通じて規制品目を特定している。

⑴ デュアルユース品目リスト(「リスト1」)

 リスト1は、2019年EU Dual-Use Item List(「EUデュアルユース品目リスト」)をベースに作成されたリストであり、大きく以下の10のカテゴリーに分類される。

  1.  • カテゴリー0: 核物質(126品目)
  2.  • カテゴリー1: 特殊素材・関連装置(458品目)
  3.  • カテゴリー2: 材料加工(229品目)
  4.  • カテゴリー3: 電子機器(232品目)
  5.  • カテゴリー4:コンピュータ(21品目)
  6.  • カテゴリー5:電子機器・情報セキュリティ(93品目)
  7.  • カテゴリー6:センサー・レーザー(353品目)
  8.  • カテゴリー7:ナビゲーション・航空電子(93品目)
  9.  • カテゴリー8:海洋・乗り物(57品目)
  10.  • カテゴリー9:航空宇宙・推進装置(169品目)

 なお、リスト1の中には、有体物のみならず、技術それ自体を規制品目としているものもある。例えば、ウォータージェット推進システムのオーバーホール又は修理に使用される技術や低水線面積船舶(small waterplane area vessels)の開発又は生産に関する技術がこれに該当する。そのため、かかる技術を化体した図面等も規制品目に該当すると考えられる。

⑵  みなしデュアルユース品目リスト(「リスト2」)

 リスト2は、HSコードに基づいて規制品目が特定されている。リスト1が、EUデュアルユース品目リストに準拠して一般的に軍事利用が可能なものをリストアップしているのに対して、リスト2は、これに加えて、一般的にデュアルユース品目に該当しないものであっても、デュアルユース品目と同等の規制を課すべきと判断されたものが広く定められている。

(2)につづく

 


この他のアジア法務情報はこちらから

 

(なか・しょうへい)

2013年に長島・大野・常松法律事務所に入所。プロジェクトファイナンス、不動産取引、 金融レギュレーション及び個人情報保護の分野を中心に国内外の案件に従事。2020年5月 にUniversity of California, Los Angeles School of Lawを卒業後、2020年12月より当事務所 バンコク・オフィスに勤務。現在は、主に、在タイ日系企業の一般企業法務及びM&Aのサ ポートを中心に幅広く法律業務に従事している。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

長島・大野・常松法律事務所は、約500名の弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。

当事務所は、東京、ニューヨーク、シンガポール、バンコク、ホーチミン、ハノイ及び上海にオフィスを構えるほか、ジャカルタに現地デスクを設け、北京にも弁護士を派遣しています。また、東京オフィス内には、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を支援する「アジアプラクティスグループ(APG)」及び「中国プラクティスグループ(CPG)」が組織されています。当事務所は、国内外の拠点で執務する弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携及び協力関係も活かして、特定の国・地域に限定されない総合的なリーガルサービスを提供しています。

詳しくは、こちらをご覧ください。

タイトルとURLをコピーしました