意匠の新規性喪失の例外適用手続の緩和に向けた議論
アンダーソン・毛利・友常法律事務所*
弁護士 後 藤 未 来
弁護士 大 島 良 太
1 はじめに
2022年12月7日、産業構造審議会知的財産分科会意匠制度小委員会(以下「本委員会」という。)の第15回目の会合が開催され、主として、①新規性喪失の例外適用手続に関する意匠制度の見直し、②裁定関係書類の閲覧制限について議論された。①については、2022年6月の特許庁政策推進懇談会とりまとめ「知財活用促進に向けた知的財産制度の在り方」[1]において、「意匠特有の問題に対応すべく、出願人の負担軽減と第三者の不利益のバランスを考慮しつつ、意匠の新規性喪失の例外適用手続を緩和する方向で法改正の具体的内容について検討を深める必要がある」と整理されたことも踏まえ、本委員会の第13回目の会合から継続して検討が行われてきた。
本稿では、①に関して、現行制度の課題をふり返りつつ、本委員会において提案された制度の見直し案[2]について概観する。
2 現行制度の概要とその課題
現行の意匠法では、意匠登録出願前1年以内に、意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して公知となった意匠等について、所定の手続を行うことにより、新規性等が喪失しなかったものとみなすこととされている(意匠法4条2項)。本規定の適用を受けるためには、①出願と同時に、その旨を記載した書面を提出、あるいは願書にその旨を記載し、②出願から30日以内に、当該規定の適用を受けることができることを証明する書面(以下「例外適用証明書」という。)を特許庁長官に提出しなければならない(同条3項)。
意匠の新規性喪失の例外適用の申請件数・割合は、増加傾向にある[3]。一方で、近年では、複数のECサイトを利用した製品の販売や、複数のSNSを活用した製品PRが広く行われ、発売前の製品に関する情報が断片的に公開される広告手法が取られるなど、公開態様が多様化・複雑化し、すべての意匠の公開事実を管理・把握することがますます困難となっている。
このような状況においても、現行制度の下で本規定の適用を受けるためには、出願から30日以内に、原則すべての公開意匠を網羅した例外適用証明書を作成して提出することが要求されるため、出願人にとっての負担が大きくなっている。
出典:産業構造審議会知的財産分科会 第14回意匠制度小委員会 資料1「意匠の新規性喪失の例外適用手続について」[4] 3頁
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(ごとう・みき)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー、弁護士・ニューヨーク州弁護士。理学・工学のバックグラウンドを有し、知的財産や各種テクノロジー(IT、データ、エレクトロニクス、ヘルスケア等)、ゲーム等のエンタテインメントに関わる案件を幅広く取り扱っている。ALB Asia Super 50 TMT Lawyers(2021、2022)、Chambers Global(IP分野)ほか選出多数。AIPPIトレードシークレット常設委員会副議長、日本ライセンス協会理事。
(おおしま・りょうた)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所弁理士。2005年中央大学法学部卒業。2015年弁理士登録。
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/
<事務所概要>
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