SH4306 中国:女性権益保障法の改正と雇用者の注意点(2) 川合正倫/張玥(2023/02/07)

労働法

中国:女性権益保障法の改正と雇用者の注意点(2)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士  川 合 正 倫

張     玥

 

(承前)

2 就業の平等

 ⑴ 企業の義務

 改正法における就業の平等に関する規定も注目を集めている。改正前の女性権益保障法においても「性別を理由として女性の採用を拒絶し、又は女性の採用基準を引き上げてはならない。」という規定が存在した。また、労働法でも、「労働者の就職は、民族、人種、性別、宗教により差別されてはならない。」という原則的な規定があり(12条)、就業促進法においては「国は女性が男性と平等な労働権利を享受することを保障する。」との規定が存在する(27条)。

 改正法では、募集・採用及び労働契約履行のいずれの段階においても、男女平等の規定を具体化している。すなわち、企業は、募集・採用の過程において、別段の規定がある場合を除き、以下の行為をしてはならないことが明確とされた(43条):

  1. ① 男性限定又は男性優先とする。
  2. ② 個人の基本情報に加えて、女性応募者の婚姻・出産状況について質問又は調査をする。
  3. ③ 妊娠検査を身体検査項目とする。
  4. ④ 婚姻、出産の制限又は婚姻・出産の状況の制限を採用条件とする。
  5. ⑤ 性別を理由に女性の採用を拒否し、差別して女性の採用基準を引き上げるその他の行為。

 特に①と⑤について、司法実務上は、従前から企業が男女を差別して女性応募者の採用を拒絶したことを原因とする紛争は存在した。例えば、原告の女性が、レストランに応募したところ、「調理師は男性限定」「あなたは女性だから、関連する資格を有していたとしても採用できない」と拒絶された事案において、広州市人民法院は精神損害賠償、公開謝罪を求めた原告の主張を支持した。

 また、②について、中国労働保障部門は2019年に公布した「採用行為を規制し女性就業を促進することに関する更なる通知」においては、「各種の雇用者、人力資源サービス機構が採用計画を制定し、採用情報を公布し、人員を採用する過程において、女性の婚姻・出産状況を質問してはならない」という規定が存在した。司法実務においても、入職時に婚姻状況を事実通りに申告しなかったことを理由として、企業側が女性従業員との労働契約を解除したことに関する紛争は多く、人民法院は、従業員の婚姻・出産状況が労働契約の履行と直接関係があるかを判断し、一般的に婚姻・出産状況が労働契約と直接関係がなく、従業員はそれらの状況を企業に申告する必要がないという立場であった。改正法により、法律レベルで女性の婚姻・出産状況に対する質問行為の禁止が明確に規定され、企業は人事管理に必要であることを理由として応募者の婚姻・出産状況を確認することはできないと考えられる。

 また、従業員の入社後の労働契約の履行段階において、改正法によれば、企業は以下の規定に従わなければならない:

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(かわい・まさのり)

長島・大野・常松法律事務所上海オフィス一般代表。2011年中国上海に赴任し、2012年から2014年9月まで中倫律師事務所上海オフィスに勤務。上海赴任前は、主にM&A、株主総会等のコーポレート業務に従事。上海においては、分野を問わず日系企業に関連する法律業務を広く取り扱っている。クライアントが真に求めているアドバイスを提供することが信条。

 

(Yue・Zhang)

日本長島・大野・常松律師事務所上海オフィス顧問。2016年上海交通大学法学部卒業、2020年慶応義塾大学法学研究科卒業。現在長島・大野・常松法律事務所上海オフィスの顧問として一般企業法務、M&A及び企業再編を中心に幅広い分野を取り扱っている。(※中国法により中国弁護士としての登録・執務は認められていません。)

 

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