☆タイ:新型コロナウイルスの影響まとめ(速報) 佐々木将平(2020/04/10)

2020年4月9日号
タイ:新型コロナウイルスの影響まとめ(速報)

              長島・大野・常松法律事務所

弁護士 佐々木  将平

はじめに

 4月7日に新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が発出され、国内の感染対策は新たなフェーズに入りました。多くの海外地域においては厳格な外出制限や営業禁止等のロックダウン措置が継続している一方、4月8日には中国武漢市の封鎖が解除されるなど、一部地域においては収束に向けた兆しも見え始めています。

 本記事では速報ベースで各国の方針や影響拡大状況の概要につきお知らせ致します。なお、本記事は感染拡大が続く間、不定期に配信していきたいと思いますが、同感染症の拡大状況については日々状況が変化している中、本記事の内容がその後変更・更新されている可能性については十分ご留意の上参照ください。本記事の内容は、特段記載のない限り、日本時間2020年4月8日夜時点で判明している情報に基づいています。

 

全体概況  死亡者38人、感染者数:2,258人(4月7日現在)

 3月中旬以降急速に感染が広がっており、1日あたりの新規感染者数は100名前後で推移している。非常事態宣言の発令後も、工場閉鎖や外出禁止等を伴うロックダウンには至っていないが、商業施設(スーパーマーケット及びテイクアウト向けのレストラン営業を除く。)の閉鎖、県境を越えた移動の中止・延期勧告等の措置がとられており、4月3日以降は夜間外出が原則として禁止されている。また、4月4日から4月18日まで、国際旅客便のタイへの飛行が一時的に禁止されており、タイ人も含めタイへの渡航は原則不可能な状況となっている。

 

主な政府発表

  1. ・ 首相による非常事態宣言の発令(3月25日):感染の危険のある場所の閉鎖、県境を越えた移動の中止・延期の勧告、買いだめの禁止、集会の禁止、虚偽情報の流布の禁止等が規定されている。
  2. ・ バンコク及び周辺県の商業施設(スーパーマーケット及びテイクアウト向けのレストラン営業を除く。)における閉鎖命令(3月22日以降閉鎖)及びタイ全土における教育機関の休校(新学期は7月1日開始予定)
  3. ・ 政府による経済対策:第一弾として中小企業を対象とする低金利融資等、第二弾としてインフォーマルセクターの労働者に対する現金給付等が公表されている。4月7日には、第三弾として、総額1.9兆バーツの救済・景気対策パッケージが閣議決定されている。
  4. ・ 不可抗力による失業者に対する補償、社会保険の支払期限の延長、社会保険拠出金引き下げ等の措置(3月24日閣議決定)
  5. ・ 中央銀行による、クレジットカード、消費者向けローン等の債務者救済措置(3月25日)
  6. ・ 源泉徴収税率の一部引き下げ(現行3%から、4月1日以降9月30日まで1.5%、10月1日以降年末まで2%に引き下げ)
  7. ・ 非上場会社の法人税の納付期限の延期(8月31日まで)及びそれに伴うBOI企業の免税申請期限の延期(7月31日)

 

渡航情報

  1. ・ 非常事態宣言の発令に伴い、3月26日以降、外国人の入国が原則として禁止されている。
  2. ・例外的に、労働許可証の保有者は健康証明書(Fit-to-Fly。搭乗に適した体調であることの証明書)の提示により入国が認められる。従前は陰性証明書及びタイ国内における医療費をカバーする保険が求められていたが、3月26日以降、これらは不要となっている。他方、在タイ日本大使館の情報によれば、就労ビザのみ保有している者(労働許可証の未取得者)や労働許可証保有者の同伴家族の入国は、原則通り認められていないということである。
  3. ・ 4月2日付けの当局の対応策に基づき、日本を含むリスク地域からの渡航者で、バンコク及び近隣地域の居住者に対しては、ホテルや軍施設等の指定施設での隔離が義務付けられることとなっている。自宅での隔離を希望する場合には、陰性証明書の提示が求められる。
  4. ・ タイ国際航空は5月31日まで国内線及び国際線の全便の運休を決定しており、日系航空会社も日タイ間の国際線を減便している。
  5. ・ 4月4日から4月18日まで、国際旅客便のタイへの飛行が一時的に禁止されており、タイ人も含めタイへの渡航は原則不可能な状況となっている。これは、4月3日にタイに到着した国際便に搭乗していた乗客が、タイ政府から隔離(指定施設又はホテルでの隔離)を要請され、事前の通知がなかったことを理由として拒否したため、混乱が生じたことを受けてとられた措置である。

 

その他

  1. ・ バンコク内のBTS、MRT等の鉄道では、マスクの着用が義務付けられている。
  2. ・ タイの会社は、会計年度終了後4か月以内に年次株主総会を開催することが法律上求められているが、管轄当局である商務省から、期限内に開催できなかった場合には、開催後にその旨を文書で報告することを求めるアナウンスが行われた(期限内に開催できないことを事実上容認する趣旨のものであると解される。)。
  3. ・ 労働法上、事業を全部又は一部停止する際には、不可抗力に基づく場合には無給で従業員を一時帰休させることができ(ノーワークノーペイの原則)、また、不可抗力以外の場合には通常賃金の75%の支払が必要となる。したがって、例えば、政府命令に従って閉鎖となったレストランや商業施設においては、他の業務に従事させることのできない従業員に対して無給での一時帰休を命じることができると考えられる。
  4. ・ 失業保険についても、新型コロナウイルスの影響に対応するための省令案が承認されている。省令の詳細は現時点では不明であるが、感染病法に基づく政府機関の命令により事業所が閉鎖された場合や、新型コロナウイルスに感染又は感染者と濃厚接触したことにより業務を行うことが禁じられた場合には、社会保険から失業手当が支給されることとなる見込みである。1日あたりの賃金(社会保険料の計算基礎額と同様月額15,000バーツが上限)の62%が最長90日間支給される。

 

(ささき・しょうへい)

長島・大野・常松法律事務所バンコクオフィス代表。2005年東京大学法学部卒業。2011年 University of Southern California Gould School of Law 卒業(LL.M.)。2011年9月からの約2年半にわたるサイアムプレミアインターナショナル法律事務所(バンコク)への出向経験を生かし、日本企業のタイ進出及びM&Aのサポートのほか、在タイ日系企業の企業法務全般にわたる支援を行っている。タイの周辺国における投資案件に関する助言も手掛けている。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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