中国:仲裁機関の分裂問題に決着
長嶋・大野・常松法律事務所
弁護士 若 江 悠
弁護士 青 木 大
2012年、中国における代表的な仲裁機関である「中国国際経済貿易仲裁委員会」(China International Economic and Trade Arbitration Commission, CIETAC)において、北京に所在する本部と、上海分会及び華南分会との間で対立が生じ、同年8月に両分会は本部からの独立を宣言したのは有名な話である。
その後、上海分会は2013年4月8日に「上海国際経済貿易仲裁委員会」(Shanghai International Arbitration Centre, SHIAC)と、華南分会は2012年10月22日に「華南国際経済貿易仲裁委員会」(Shenzhen Court of International Arbitration, SCIA)と名称を変更し、両機関はCIETACとは独立した仲裁機関として活動を継続しているが、これにより、「CIETAC上海分会」又は「CIETAC華南分会」を仲裁機関と指定する仲裁合意の解釈及びその有効性に疑義が生じるという事態が生じていた。
この点については、これまでも各地の人民法院で争われていたが、2015年7月15日、中国最高人民法院は以下のような形でこの問題について決着を付ける司法解釈を公表した。
- 1.「CIETAC上海分会」又は「CIETAC華南分会」を指定する仲裁合意が、各機関がSHIAC又はSCIAに名称を変更するより前に締結されていた場合には、SHIAC又はSCIAが管轄を有するものとする。
- 2.「CIETAC上海分会」又は「CIETAC華南分会」を指定する仲裁合意が、各機関が名称を変更した日以降かつ本司法解釈の施行日(2015年7月17日)より前に締結されていた場合は、CIETACが管轄を有するものとする。
- 3. ただし、本司法解釈の施行日より前に、上記1及び2によれば管轄を有しないはずの仲裁機関が既に受理していた事件については、当事者は、仲裁判断が出された後で、各仲裁機関が管轄を有しないことを理由として仲裁判断の取消し又は不執行を求めることができない。
- 4.「CIETAC上海分会」又は「CIETAC華南分会」を指定する仲裁合意が本司法解釈の施行日(2015年7月17日)以降に締結される場合は、CIETACが管轄を有するものとする。
以上のとおり、中国最高人民法院は、「CIETAC上海分会」又は「CIETAC華南分会」を指定する仲裁合意について、各機関の名称変更日(2013年4月8日又は2012年10月22日)より前に締結されたものか、あるいはそれ以後に締結されたものであるかで区別するという基準を設定した。そして、当該基準に従った管轄の振り分けが人民法院の関与のもと事前に適切に行われるべく、仲裁の初回開廷前であれば、すでに仲裁申立てを受けた仲裁機関が仲裁合意の有効性及び自らの管轄の有効性を認める判断を下した後であっても、人民法院は、被申立人からの申立てに基づき、当該基準に従った管轄の判断を行うこととされている。とはいえ、司法解釈の施行日時点で各仲裁機関にすでに係属している事件については、いったん仲裁判断が出された後は、その管轄の有効性を争えないものとされていることから、その意味では当該基準が遡及的に適用される場面は限定されている。
従来、この問題は実務的に非常に難しい取り扱いが求められていた。新たに締結する契約はともかく、仲裁機関の独立問題が生じる以前から「CIETAC上海分会」又は「CIETAC華南分会」を指定していた仲裁合意について、実際紛争が生じた場合に果たしてCIETACに仲裁申立てを行うべきか、SHIAC又はSCIAに仲裁申立てを行うべきかは、実務上難しい判断を強いられていた。いずれに申し立てても、相手方から異議を申し立てられ、あるいは事後的に仲裁判断が取り消され又は執行ができないこととなるリスクをはらむこととなるため、両当事者が紛争モードに入る前にできる限り仲裁合意を巻き直すことが推奨される場合もあった。元はといえば仲裁機関の内部事情のせいで何ら落ち度のないユーザーが不利益を被っていた問題ではあるものの、今回の中国最高人民法院の回答でようやく決着をみることになったのは、まずは歓迎すべきものといえる。