◇SH1847◇インドネシア:外国人労働者の雇用と就労許可 小林亜維子(2018/05/18)

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インドネシア:外国人労働者の雇用と就労許可

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 小 林 亜維子

 

1. 総論

 2018年3月29日付でインドネシアにおける外国人労働者の採用に関する新たな大統領令(2018年第20号)が制定され(以下「新大統領令」という。)、その施行は、2018年6月29日とされた。新大統領令は、外国人を雇用するための許認可に関する手続規制を緩和することによりインドネシアへの投資を促進することを企図するものであり、これにより外国人労働者並びに外国人労働者に対応するインドネシア人労働者への教育及び研修の提供に関する大統領令2014年第72号(以下「旧大統領令」という。)は撤廃される。

 新大統領令は、雇用についてインドネシア人を優先する必要があり、インドネシア人が務めることのできないポジションにおいてのみ、外国人を雇用することができるとする旧大統領令の大原則は維持する一方で、旧大統領令で外国人労働者の雇用主に要求されていた就労許可(Izin Mempekerjakan Tenaga Kerja Asing以下「IMTA」という。)の取得を要件から外すなどの変更を加えた。以下、新大統領令について概説する。

 

2. 外国人雇用計画書(Rencana Penggunaan Tenaga Kerja Asing、以下「RPTKA」)

 インドネシアにおいて、インドネシア人以外の者(外国人)を雇用する場合、雇用者は原則として、労働省の承認を得たRPTKAを有している必要がある。新大統領令は、①旧大統領令の際にも例外とされていた外国の代表事務所の外交官及び領事館の担当者に加え、②政府が必要とする職種を担当する外国人労働者(職種については労働大臣によって別途規定される。)、及び③外国資本企業(Penanaman Modal Asing, PMA)の取締役又はコミサリスであり当該会社の株主である者を雇用する場合には、例外として、RPTKAの取得を不要としている。

 また、旧大統領令では、RPTKAの有効期間の上限を5年とし、国内の労働市場を勘案した上で延長することができるとしていたが、新大統領令は、外国人労働者の雇用者がRPTKAに記載される外国人労働者を使用する予定の期間有効であるし、外国人労働者の雇用者の負担を緩和した。

 

3. 緊急の業務のための外国人労働者の雇用

 新大統領令においては、緊急の業務ために外国人労働者を雇用する必要がある場合には、当該外国人労働者が業務を開始した2営業日以内にRPTKAの申請を行えば足りるとされた。旧大統領令では、緊急の業務のために雇用する外国人労働者に関する規定はなく、施行規則に規定において、承認手続きを通常の申請よりも迅速に行うとする規定はあったものの、外国人労働者が業務を開始した後にRPTKAの申請をすれば足りるとする規定は存在していなかった。

 

4. 外国人労働者の兼業

 旧大統領令の下制定された労働大臣規則2015年第15号は、外国人労働者が複数の企業において雇用されることを明示的に禁止し、例外として取締役やコミサリスは兼任することができると規定している。しかし、新大統領令は、特定のセクターにおける外国人労働者について、同一の役職である限り、複数の会社を兼任することを認めている。ただし、兼業をする場合には、先に雇用されていた企業における契約期間に限って、後の企業においても勤務できるとされている。この変更により、新大統領令と矛盾する上記規則の規定については、今後適用がなくなるものといえ、取締役やコミサリスに限らず、一定の要件を満たすことで、その他の外国人労働者についても兼任が可能となる。なお、兼任が認められる職業、セクター及び兼業する外国人労働者を雇用する場合の手続きについては、別途大臣令にて規定される。

 

5. 外国人労働者の情報の提供及びIMTAの廃止

 旧大統領令では、外国人労働者の雇用者は承認を受けたRPTKAをもとに、各外国人労働者と紐づく形でIMTAの取得を義務付けられていた。しかし、新大統領令においては、IMTAへの言及はなくなり、雇用者に対してIMTA取得の義務を撤廃したものと考えられる。ただし、IMTAの取得は、旧大統領令の下制定された施行規則においても義務付けられているところ、新大統領令の施行までの間に新たな施行規則が制定されない場合、新大統領令に反しない限り、従前の施行規則が適用されることから、IMTAの取得はなお必要とされる可能性がある。したがって、6月の新大統領令の施行までの間に、新たに施行規則が制定されないかを注視する必要がある。

 現行法令ではIMTAの取得の際に、当該IMTAと紐づいている従業員の情報を当局に提出する必要がある。これに対して、新大統領令では、雇用者はRPTKAの承認を得た後に、雇用する外国人労働者の情報を労働大臣又はその指定された者(以下「大臣」という。)に提出することが義務付けられている。かかる情報には、外国人労働者の氏名、性別、生年月日、生まれた場所、役職及び勤務期間等が挙げられる。かかる情報が提出されると、大臣は受領の通知書を雇用者に対して2営業日以内に交付し、当該通知書の写しを入国管理局長に対して交付する。

 

6. 教育及び研修

 旧大統領令と同様、新大統領令も、外国人労働者がインドネシア人労働者へ技術や能力を移転すべく、雇用者は、各外国人労働者に対してそれぞれインドネシア人労働者を指名し、インドネシア人労働者に対して教育や研修を行う必要があるとする規定を設けた。これに加え、新大統領令では、雇用者が外国人労働者に対し、インドネシア語の教育を推進することも求めた。

 

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