知財高判、独立後に元の会社の営業秘密を不正に使用し製品を製造していたとして不競法違反が争われた事案
岩田合同法律事務所
弁護士 佐々木 智 生
1. 判決の概要
知的財産高等裁判所は、平成30年3月26日、ケーブルテレビ関連機器の開発、製造・販売等を目的とする株式会社(被控訴人)の従業員が独立して設立した会社(控訴人)が、被控訴人の製品に内蔵されたソフトウェアのソースコード等(以下「本情報」という。)を使用した製品の製造・販売を行ったことが不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項8号及び10号に掲げられた不正競争行為に該当するとして当該製品の製造・販売の差止め、廃棄、損害賠償等を請求した事案について、被控訴人の請求を認めた(損害賠償請求については一部認容)。
不競法2条6項は、次の①から③を全て満たす情報を「営業秘密」と定義している。本事案においては、本情報について主に①(秘密管理性)及び③(非公知性)の要件を満たすかが争われていたが、本判決は、本情報は①から③の要件を満たすとして、本情報の営業秘密該当性を肯定した。
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2. 上記①(秘密管理性)についての判断
上記①(秘密管理性)が認められるためには、情報を保有する事業者(保有者)が当該情報を秘密であると主観的に認識しているだけではなく、保有者が当該情報を秘密として管理しようとする意思(以下「秘密管理意思」という。)が、保有者が実施する秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示され、従業員等が保有者の秘密管理意思を認識できる状態となっている必要があるとされる。控訴人は、アクセス権限を有しない従業員も、アクセス可能な従業員からデータをもらうことが可能であった以上、秘密管理体制が整備されていたとはいえず、上記①(秘密管理性)が満たされないと主張していた。
これに対し、本判決は、以下の事実を考慮し、「アクセス権限のない従業員がアクセス可能な従業員からデータをプリントアウトしてもらうといった運用が、業務上の必要に応じて行われることがあったとしても、これをもって秘密管理措置が形骸化されたとはいえない」として、秘密管理性が認められると判断した。
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3. 上記③(非公知性)についての判断
控訴人は、当該製品は販売から既に3年以上経っており、被控訴人により独占的に製造・販売されている製品ではないから、本情報について上記③(非公知性)は満たされないと主張していたが、本判決は、これを採用していない。
本判決のように対象情報が既に市場に流通している製品から取得できる可能性がある場合にも上記③(非公知性)が満たされるかが問題となることがある。この点、市場に流通している製品から容易に取得できる情報であれば非公知性が認められないことが多いであろうが、その製品を解析するためには多額の費用をかけて専門家が分析する必要がある場合には、通常、非公知性が認められている。本判決においては、本情報は、被控訴人の製品開発のために独自に作成されたデータであるとの判示しかなされていないため、これらの点についてどのような考慮がなされたかは明確ではないが、既に市場に流通している製品から取得し得る情報であっても、裁判例上、非公知性の有無は一律に判断されていない点について留意する必要がある。
4. 裁判所の判断が実務に及ぼす影響
本判決は、「アクセス権限のない従業員がアクセス可能な従業員からデータをプリントアウトしてもらうといった運用」(以下「本運用」という。)がなされていたとしても、そのことをもって上記①(秘密管理性)は否定されないと判断した。その背景には、上記 (ⅰ)~(ⅳ) の事情がある以上、被控訴人の従業員は、被控訴人の秘密管理意思を認識できたはずであるという判断があるものと思われる。逆に言えば、上記 (ⅰ)~(ⅳ) の事情のうちのいくつかを欠いた事案であった場合には、本運用の存在が重く見られ、秘密管理性が否定されていた可能性もある。
本判決を契機として、各企業は、従業員に対して秘密管理意思を明確に示せているか(秘密管理措置が形骸化し、従業員等が秘密管理意思を明確に認識できない状態となっていないか)という観点から、いま一度自社の秘密管理への取り組みを検証することが望まれる。
<本判決の判断>
①(秘密管理性) | ②(有用性) | ③(非公知性) |
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以 上