わが国におけるヘッジファンド・アクティビズムに対する法的対応と課題(3)
成城大学法学部
教授 山 田 剛 志
バークレイズ証券株式会社
金融法人部長・マネジング・ディレクター 井 上 健
2. アクティビスト・ファンドとは何か
(2) アクティビスト・ファンドの行動と評価
アクティビスト・ファンドの提言が合理的なもので、多くの株主の賛同を得ると、経営改善への期待が起こり、株価が上がることがある。その点からも、肯定的な評価をする研究もある。ここでは、アメリカにおける近時の論文を参照して、肯定説、否定説を検討する。
- ① 肯定的な見解
- 上場企業において、支配的な株主を除き、株主が分散しているため、自己の利益のため集団で行動することは困難だが、アクティビスト・ファンドにより、このような株主の利益を代弁して、行動することが可能である。
- またわが国では、コーポレートガバナンス・コードの規定にもあるとおり、株主との対話を重視することから、株主と直接面談等を行う機会が増えた。自社を客観的に検討し、セグメント毎の収益性を検討するなど、建設的な提案を受けることがある。発行会社の側でも、そのような提案に備えて、常に自社を客観的にみて、経営の改善策を準備することが求められている。
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アメリカの実証研究によると、アクティビスト・ファンドにより、少なくとも短期的には株価の上昇がみられることが指摘される[1]。また対象会社の企業価値が下がったという実証研究もない。
- ② 否定的な見解
- 他方アクティビスト・ファンドに否定的な見解[2]としては、アクティビスト・ファンドにより、対象会社の株価は短期的に上昇し、主導的なヘッジファンドは高値で売り抜けることができるが、長期的には株価は低迷し、対象会社の収益力は低下し、他の株主は不利益を受ける(Pump and Dump)状況が生じている。この短期的な上昇は、アクティビスト・キャンペーンの対象会社において頻繁にみられることである。
- しかしこのような状況は生じていないという見解もあり[3]、対象会社が研究投資(R&D)等を減らして、長期的な成長を犠牲にしているか否か、またそれが実証研究により証明されたか否か、見解が分かれている。なおベブチェック教授ら(Bebchuk)は、上場企業の経営者は非効率な投資を行う(empire building)可能性があり、研究投資等の減少に繋がらないとする。
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他方コフィー教授らは、アメリカにおいては上場企業の経営者の報酬は、ストックオプションなどの株式が多くなるにつれ、経営者等には株価の上昇を希望するインセンティブが働き、非効率な投資で規模の最大化を狙う誘因はない、とする。
- ③ 個別事情と情報の格差
- このようにアクティビスト・ファンドには、肯定的な側面と否定的な側面があり、さらにその評価についても、見解が分かれており、意見の統一をみない。全く株主の意向を考慮しないような経営者に対しては、アクティビスト・ファンドは、経営に緊張感を持たせ、常に収益向上のための方策を考えるきっかけにはなると思われる。しかし現状アメリカの実証研究においては、アクティビスト・ファンドの影響について、統一的な評価が定着したわけではないように思われ、結果的に善悪を決めることはできないだろう。しかし個々の事例においては、個別事情があり、企業価値を上げるか、及びそのアクティビズムの手法などを基準として、その妥当性を検討する必要があるだろう。さらに個々の事例をみる場合、わが国においてその活動を規制するための立法が必要であるか考察される必要がある。
[1] Lucien A.Bebcheck, Alon Brav, and Wei Jiang, “The Long –Term Effect of Hedge Fund Activism” 115 Colum L. Review 1085 (2015) ,p.111,1114,1117.
[2] Cf. Coffee & Palia op.cit.,(fn1)., p.549.”
[3] Cf.Bebchuck,Brav and Jiang,op.cit.,(fn13)., p.1138-1141.