著作権法の一部を改正する法律(平成30年法律30号)
岩田合同法律事務所
弁護士 角 野 秀
1. 本改正の概要
本年5月25日、「著作権法の一部を改正する法律」(平成30年法律30号)(以下「本改正法」という。)が公布された。本改正法の施行は、一部の規定[1]を除いて平成31年1月1日からとされている。
本改正の趣旨は、デジタル・ネットワーク技術の進展により、新たに生まれる様々な著作物の利用ニーズに的確に対応するため、著作権者の許諾を受ける必要がある行為の範囲を見直し、情報関連産業、教育、障害者、美術館等におけるアーカイブの利活用に係る著作物の利用をより円滑に行えるようにする点にあるとされている。
本改正法のポイントは、文部科学省の資料[2]にあるとおり、以下の4点である。
- ① デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定の整備
- ② 教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備
- ③ 障害者の情報アクセス機会の充実に係る権利制限規定の整備
- ④ アーカイブの利活用促進に関する権利制限規定の整備等
本稿では、本改正法で特に注目されていた上記①のデジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定の整備に関する改正の概要を紹介する。
2. 柔軟な権利制限規定の整備について
(1) 改正の背景
昨今IoT、ビッグデータ、人工知能等の技術革新を背景に、これらの技術を活用し、著作物を含む大量の情報の集積・解析等により付加価値を生み出すイノベーションの創出が期待されている。ところが、現在の著作権法では、米国著作権法のフェアユース規定のように、様々な事情を総合考慮して著作権侵害に該当するかを判断する一般的・包括的な権利制限規定がなく、利用目的や場面ごとに要件の定められた個別具体的な権利制限規定(著作権者の許諾なく著作物を利用し得る場合を定めた規定)が第30条以下の規定で定められている。そのため、以前から、個別列挙された権利制限規定に明記されていなければ、それらに類似した実質的には問題ないと思われる行為であっても形式的には著作権侵害に該当することになるため、萎縮効果が生じているとの指摘や、技術革新を背景とした新たな著作物の利用ニーズ[3]への対応が困難であるとの指摘がされていた。
(2) 改正点の概要
本改正では、上記の指摘を踏まえ、将来新たな著作物の利用方法が生まれた場合にも柔軟に対応できるよう、現行の個別的権利制限規定を統廃合するとともに、ある程度包括的に権利制限の対象となるよう、柔軟な権利制限規定が新設された。
具体的な改正の概要は下記表のとおりである。
【新たな権利制限規定】 | 【条文の要旨】 |
新30条の4 |
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新47条の4 |
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新47条の5
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(3) 実務への影響
今回の改正の一つである「柔軟な権利制限規定」の整備により、例えば、新30条の4により、AI・人工知能によるディープラーニングのための著作物の複製等がより広く可能になることが期待されている。また、新47条の5により、書籍検索等の所在検索サービスや、論文盗用の検証等の情報解析サービスについても、著作物の複製等がより柔軟に可能となることが見込まれている。もっとも、本改正に伴い、例えば、新47条の5に規定される「軽微」の判断基準についての解釈や、「柔軟な権利制限規定」における権利制限の外延をどのように画するか等については、今後の検討課題となるであろう。
以上
[1] 教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備に係る規定(第35条等)については公布日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日が施行日とされている。
[3] 文化庁長官官房著作権課の平成30年3月19日付「著作権法の一部を改正する法律案 概要説明資料」では、新たな著作物の利用ニーズの具体例として、所在検索サービス、情報解析サービス、AIによる深層学習、リバース・エンジニアリング等が挙げられている。