◇SH1887◇社外取締役になる前に読む話(24)――社外取締役が解任されることはあるのか。辞任はできるのか⑵ 渡邊 肇(2018/06/06)

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社外取締役になる前に読む話(24)

ーその職務と責任ー

潮見坂綜合法律事務所

弁護士 渡 邊   肇

 

XXIV 社外取締役が解任されることはあるのか。辞任はできるのか。(2)

 先回は、社外取締役の選任および辞任・解任手続について概観した。これを前提に、ワタナベさんの疑問に答えてゆこう。

 ワタナベさんの疑問は以下のようなものであった。

 当社の取締役の任期は1年である。私の任期も、そろそろ3期目が終わろうとしている。

 私は、昨年の指名委員会において社長の再任に反対し、且つ報酬委員会において、社長を含む役付取締役の報酬が高すぎるとの意見を述べたのだが、結局社長が交代することはなく、役員報酬額も維持されている。そしてそれ以来社長は、人事に口を挟むような社外取締役は当社には不要であるなどと公言し始めたばかりでなく、私を任期途中で解任させようとしているという話も聞いた。

 会社は、社外取締役である私を解任することはできるのだろうか。仮に解任されるとすると、私に何か対抗策はあるのだろうか。

 また、このような状態の会社で社外取締役を続けるのは私にとっても意味のないことなので、辞任しようかとも思うのだが、それは可能なのだろうか。その後私に対して損害賠償請求のようなものが起こされる心配はないのだろうか。

 

解説

 先回概観したように、ワタナベさんも、他の取締役と同様、株主総会決議があれば任期途中に解任させられてしまう。但し、会社側からみれば、殊更臨時株主総会を開催して解任せずとも、定時株主総会における取締役選任議案で当該取締役を再任しなければ、所期の目的は達せられる。取締役不再任と解任の違いは、残りの任期にその職務を継続させる事態すら回避したいという緊急の要請があるか否かということになろう。しかも、ワタナベさんの会社のように、取締役の任期を1年と定めている会社では、わざわざ解任決議のための臨時株主総会を開催して解任する実益は相対的に乏しいともいえるだろう。更に、取締役解任のための臨時株主総会を開催する場合であっても、定時株主総会において取締役選任議案を決議する場合であっても、取締役会において、その旨を議案とする株主総会を招集することを決議することが必要となることは同一である。従い、社長にとってみれば、ワタナベさんを解任する場合であっても、再任しない場合であっても、その旨の議案を取締役会で決議させるためには、取締役会におけるマジョリティの合意を取り付けることが必要となる。

 ワタナベさんが社長の再任に反対したという理由で、会社がワタナベさんを解任するというドラスティックな手段に訴えた場合、このような解任理由に正当な理由を見いだすことはできるのであろうか。この点については、先回ご紹介した、近時の東京地裁平成28年6月8日判決が参考になると思われる。すなわち同判決は、「大株主の好みや代表者との折り合いというような単なる主観的な信頼関係喪失を理由とする場合には正当な理由の存在は認められない。」と明快に判示しているのであり、この判示を前提とすれば、まさしくワタナベさんの場合のように、社長と折り合いがつかなくなったとの理由で解任させられた場合には、解任に正当な理由があると判断される可能性は低いと判断されるのではないかと思われる。

 更に、仮にワタナベさんの解任に正当な理由がない場合には、ワタナベさんは会社に対し、解任されなければ在任中および任期満了時に得られた利益額につき損害賠償ができる。この額は、先回検討したように、解任された時点から再任されない旨の株主総会決議がなされるはずであった株主総会終結時(ワタナベさんの場合は、次期定時株主総会終結時)までの報酬相当額ということになる。要するに、ワタナベさんが不当に解任されたことを理由として損害の賠償を請求したとしても、賠償される金額は、在任残余期間の報酬相当額に限定されることには留意する必要があるだろう(会社の行為が不法行為に該当するとの理由で、精神的な損害に対する慰謝料を請求することも理論的には排除されていないと思料されるが、仮に慰謝料請求が認容されたとしても、認容額は決して多額ではない。)。

 逆に、会社が解任というドラスティックな手段に訴えず、次期には再任しないという選択をした場合、ワタナベさんが当該決定に対抗することはできない。損害賠償もできない。なぜなら、そもそもワタナベさんには、次期も取締役として選任されることを会社に請求する法的権利がないからである。この点、仮に例えば社長とワタナベさんとの間で、最低4期は社外取締役として在任させるなどの合意があった場合、ワタナベさんが合意の相手方である社長個人に対して、当該合意違反を問えるかどうかという問題は発生しうる。但し、ワタナベさんが、このような合意の存在を根拠に、会社に対して再任候補者とすることを請求できるか否かという問題は別である(この点について、これ以上検討することはしない。)。

 次にワタナベさんの辞任の可否について考えてみよう。先回検討したように、辞任はいつでも可能である。任期中のいつの時点であっても構わない。また、その理由の如何も問われない。ワタナベさんが辞任したことにより、会社が何らかの損害を被ったとすれば、ワタナベさんは会社から、辞任により発生した損害の賠償を請求される可能性はある。しかしながら、ワタナベさんが辞任したからといって、社外取締役であるワタナベさんが業務執行行為に関与していない以上、その辞任によって会社が被る経済的損失を具体的に観念することは困難であり、会社から損害賠償の請求を受ける実質的な危険性は低いと申し上げて良いと思われる(但し、例えば辞任に伴い、会社の業務に対する妨害行為を行ったり、社長の能力、人格等について名誉毀損行為を行ったりした場合には、別途損害賠償責任を負担せざるを得なくなることはあり得る。)。

 社外取締役として何年間会社に留まるか、その期間は会社の方針によっても異なるが、選任された以上、会社との関係を良好に保って任期を全うすることが望ましいことはいうまでもない。しかしながら、会社の利害関係から独立した役員としての行動が求められている以上、社外取締役と会社との間には一定の緊張関係が存在することも否定できない。社外取締役には、そこを上手にハンドリングする手腕も求められているというべきであろうか。

 

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