◇SH2108◇シンガポール:株式譲渡時の印紙税の取扱いに関する最近の制度改正(上) 坂下 大(2018/09/27)

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シンガポール:株式譲渡時の印紙税の取扱いに関する最近の制度改正(上)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 坂 下   大

 

 シンガポールの印紙税法(Stamp Duties Act (Chapter 312))は、一定の取引に係る文書等に印紙税を課している。シンガポールの会社の株式譲渡においても、一定の譲渡関連文書が印紙税の対象となるため留意が必要であるが、かかる株式譲渡に関する印紙税の取扱いに関して、2017年3月及び2018年4月にそれぞれ制度改正があった。本稿ではまず、印紙税法における基本的な課税枠組みと、2017年3月の印紙税法改正前における株式譲渡に関する印紙税の取扱いについて説明したうえで、次稿において上記各制度改正の概要を説明する。

 

(1) 印紙税法における枠組み

 印紙税法は、4条(1)において、別紙(Schedule 1)に列挙する文書(instruments)について、同別紙に記載の税率(額)による印紙税を課す旨を規定している。同別紙が列挙するものの中に、一定の資産の譲渡文書という類型があり、株式もその対象資産に含まれているという構造である(Schedule 1の3(c))。ここでいう譲渡文書とは、端的には譲渡を「実行するための」文書を意味し、例えばまず資産譲渡に関する契約を締結し、その後クロージングに進むという場合には、クロージング時に作成される譲渡実行のための書面がこれに該当する(したがって、この点を根拠としては、印紙税はクロージング時に課される)こととなる。

 他方で、印紙税法22条(1)は、譲渡文書そのものではない、資産譲渡に関する契約(contract or agreement)にも、当該資産に係る譲渡文書と同等の印紙税を課す旨を規定している。そのため、上記の例では、結局、先行する譲渡契約締結のタイミングで印紙税が課されることになる(クロージング時に二重に課税されることはない。)。

(2) 2017年の印紙税法改正前の取扱い

 資産譲渡に関する印紙税の一般的な枠組みは上記のとおりであるが、2017年3月11日施行の改正法に基づく印紙税法の改正前までは、株式の譲渡に関する契約は、印紙税法22条(1)に基づく課税の対象からは明示的に除外されていた(同改正前の22条(1)(b))。そのため、例えば非公開会社の株式譲渡によるM&Aにおいて、まず売主、買主間で株式譲渡契約(いわゆるSPA)を締結し、その後比較的簡潔なフォームの株式譲渡文書(share transfer fromやinstrument of transferとよばれるもの)を締結してクロージングを行うという典型的なケースでは、印紙税が課されるのは、SPA締結時ではなく、株式譲渡文書が締結されるクロージング時であると整理されていた。また、上場株式の譲渡については、通常は中央預託機構等における口座振替の方法によって行われ、これに関して株式譲渡文書が作成されるものではないこと等の理由により、一般的には印紙税の対象には該当しないと整理されていたところである。

(次稿に続く)


 

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