◇SH1964◇ベトナム:新PPP政令の概要(3・完) 澤山啓伍(2018/07/12)

未分類

ベトナム:新PPP政令の概要(3・完)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 澤 山 啓 伍

 

 本稿では、前稿及び前々稿に続き、2018年5月4日、ベトナム政府が公布した官民連携(PPP:Public Private Partnership)に関する新たな政令第63/2018/ND-CP号(以下「新政令」という)の内容について、新政令にしたがったPPP案件の計画段階から実施のための契約締結までの流れに沿って、旧政令と比較しながら概説している。

 

(7) プロジェクト会社の設立(承前)

  1.  最低自己資本比率
    旧政令及び新政令では、国による資本拠出部分を除く民間投資部分について、最低自己資本比率が以下のように定められている。新政令では、総投資額が1兆5千億ドン(約74億円)以下のプロジェクトの場合、自己資本比率が20%以上必要であるとし、旧政令での15%から引き上げられている。
総投資額 旧政令 新政令
1兆5千億ドン以下の場合 15%以上 20%以上
1兆5千億ドンを超える場合 1兆5千億ドン以下の部分の15%+1兆5千億ドンを超える部分の10%以上 1兆5千億ドン以下の部分の20%+1兆5千億ドンを超える部分の10%以上
  1.   ここでいう「総投資額」は、民間投資部分の自己資本及び借入上限額の合計を意味し、国による拠出部分を含まない。国による拠出部分には、資金的な拠出の他、土地、建物及びインフラの供与、土地収用費用などが含まれる。
    なお、当然ながらPPPプロジェクトを実施するに当たっては、その事業会社設立当初から資金需要が発生するわけではないため、当初から最低自己資本比率を満たす資本金を積んでおくことは資金の効率的利用の観点から望ましくない。そのため、新政令では、プロジェクト契約に増資のスケジュールを規定していれば、最終的な総投資額との関係で最低の自己資本比率に満たないことも認めている。

 

(8) 交渉及び契約締結

 PPP案件を実施する民間事業者は、所轄の政府機関との間での権利義務関係を定めるプロジェクト契約を締結する。旧政令では、プロジェクト契約は選定された民間事業者と政府機関との間で直接締結され、その後民間事業者が設立した事業会社がその契約に参加するか、契約上の権利義務を承継する契約を締結する形で当事者となるべきことを規定していた。新政令では、後者の方法に加え、当初から民間事業者と事業会社が共同で政府機関との間で契約を締結する方法も定めている。

  1.  契約内容
    契約内容に関し、以下の点については、旧政令と新政令とで、若干の表現の違いはあるが、内容に大きな違いはない。

    1. - プロジェクトに融資を行うレンダーに対してステップイン権が認められていること。
    2. - 外国投資家が当事者となるプロジェクト契約等について外国法準拠とすることが認められているが、ベトナムで設立される事業会社と政府機関との契約についてはベトナム法準拠が必要となること。
    3. - 外国投資家又は外国投資家が設立した事業会社と政府機関との間の紛争については、ベトナム法に従って当事者が合意した仲裁機関による仲裁(外国仲裁を含むものと思われる)による解決が認められていること。
    4. - 政府による国営企業の原料供給や製品購入義務の履行保証がありうること。
    5. - 国がプロジェクトの期間中に土地の使用目的の変更を行わないこと、正当な補償のない収用はされないこと。
  2.  外貨兌換保証
    他方、ベトナムでのPPP案件への参入を検討する多くの外国投資家にとって長年の懸念事項である外貨兌換保証(ベトナム国内での外貨不足リスクに対応するための、国によるベトナムドンから外貨への兌換の保証)については、「必要に応じて所轄の政府当局が国家銀行と調整の上首相に提案する」という程度の、旧政令での記載よりもより抽象的、拘束力の弱い表現に変更されている。どのような案件であれば外貨兌換保証が与えられるのかに関する基準は依然として明確でない。

 新政令は、ベトナムにおけるPPP案件の枠組、手続について定めるものである。しかしながら、実際にPPP案件への参入を検討する民間事業者として最も重要なのは、個々の案件における経済性、すなわち得られる収入及び負担の内容、政府保証の内容を含むリスクシェアリングの構造、それらの結果から期待されるエクイティIRRのレベルであろう。最近の報道では、ベトナム資本によるBOT方式で整備されたハノイ・ハイフォン間の高速道路について、コンセッション事業者が得られる通行料収入は金利負担に足りず、1日当たり1000万円以上の赤字が発生しているとの情報もあった。マーケットリスクを民間に負担させる形でのPPP案件に外資が参入していくのには限界があり、適切なリスクシェアリングを行った案件の組成が重要であるように思われる。

 

タイトルとURLをコピーしました