◇SH2151◇無人航空機(ドローン)の目視外飛行と第三者上空飛行に関する法規制と論点(4・完) 掘越秀郎(2018/10/19)

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無人航空機(ドローン)の目視外飛行と第三者上空飛行に関する法規制と論点(4・完)

西村あさひ法律事務所

弁護士 掘 越 秀 郎

 

3. 第三者上空飛行に関する法律上の論点

(3) 飛行ルートの確保をめぐる問題

 以上の検討からすると、現行法の下で、物流分野をはじめ、ドローンの商業利用を推進するためには、土地所有者等関係者の調整に時間とコストを要することなく、ドローン専用の飛行ルート(ドローンハイウェイ)を確保することが有益である[1][2][3]。その方法については、発表されている事業者の実証実験において、幾つかの考え方が示されているように思われる。

  1. ① 東京電力、ゼンリン及び楽天が計画しているドローンハイウェイ構想
  2.    2017年3月29日に東京電力ホールディングス株式会社と株式会社ゼンリンにより構想の内容が発表され[4]、2018年7月12日には、取り組みの概要と、埼玉県秩父市にて行われた実証実験の内容が発表されている[5]。発表資料によれば、電力施設から安全な位置を保ち、送電線に沿ってドローンを自動飛行させる計画で、東京電力グループが保有する送電鉄塔、送電線、変電所、電柱等のインフラ情報や空域情報が織り込まれた地図情報をもとに飛行ルートを作成すると共に、気象観測機器の設置、機械の充電や点検・整備・修理サービスを提供するドローンポートを設置することが計画されている。
  3.    電力会社は、通常、変電所や送電鉄塔を設置する土地について所有権を保有し、送電線下の土地(線下用地)については、地上権や、発電所を要役地とする送電線地益権が設定される[6]。また、送電線地益権は、対象となる送電線の電圧に応じて、建造物の築造の制限等、承役地の地権者の土地利用が制限される[7]。この計画は、電力会社が予め把握している広い空域に対する一定の権利や空域情報を基礎とする点に独自性と特色がある[8]
     
  4. ② 長野県伊那市が計画している河川上空の幹線航路
  5.    長野県伊那市は、KDDI株式会社と株式会社ゼンリンとの間で発表した実証実験において、伊那市の市街地と山間地域との間に流れる、天竜川と三峰川の河川上空にドローンの幹線航路(約20km)を開設することを検討すると発表している[9]
  6.    ドローンが河川上空を飛行することは、河川法上の占用許可(河川法24条)の対象ではないと解され[10]、河川法上直ちに禁止されている訳ではないものの、実際には、河川管理者が河川管理行為(同法9条及び10条参照)の一環として、規則を作り、禁止・制限することが多いと思われる[11]。もっとも、河川は、線路・道路・海上に比べても第三者の往来は少なく、前述のとおり、審査要領上も「第三者が存在する可能性が低い場所」として位置づけられており、調整すべき関係者が比較的少ないように考えられることから、河川管理者の理解を得て、河川上空をドローンハイウェイとして有効利用する余地は相応にあるように思われる。
     
  7. ③ 地方公共団体等による用地の取得・確保の可能性
  8.    ドローンの物流分野における利活用は、過疎化対策・地方創生の観点から、地方公共団体が関心を持っており、現在、計画・実施されている実証実験において、地方公共団体が当事者となったり、事業支援という形で参加している例が散見される[12]。この場合の地方公共団体の役割・関与の度合いは必ずしも明確ではないものの、所管の許認可を円滑に行うほか、ドローンハイウェイとなる用地を確保し、事業者や利用者のために、土地利用権を設定することも考えられる[13]
  9.    また、地方公共団体や事業者がドローンハイウェイの用地を取得する場合には、実際には使用されていない遊休地を対象とすることにより、所有者との調整にかかる時間とコストを抑えていくことが考えられる。
  10.    人口減少や高齢化が進む我が国において、土地利用ニーズの低下や地縁・血縁関係の希薄化等により、遊休地は増加している。しかし、それは同時に、いわゆる所有者不明土地の発生という形をとり、公共事業や民間事業のため、土地を取得・利用しようとしても、所有者の探索が困難なため、事業が進まないことが社会問題化している。かかる問題を解決するために、2018年6月6日に、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(以下「所有者不明土地法」という。)が成立し、①所有者不明土地を円滑に利用する制度、②所有者の探索を合理化する制度、及び③所有者不明土地を適切に管理する制度が新設されている[14]。特に、①に関しては、反対する権利者がおらず、建築物(簡易な構造で小規模なものを除く。)がなく、現に利用されていない所有者不明土地(特定所有者不明土地)について、所定の手続を踏んで、都道県知事の裁定を受けると、地域福利増進事業を行う事業者が、10年間を限度とする土地使用権等を取得できる点が注目される(所有者不明土地法13条)[15]
  11.    地域福利増進事業は、所有者不明土地法2条3項に列挙された事業のうち、地域住民その他の者の共同の福祉又は利便の増進を図るために行われるものを意味する。同法2条3項列挙事由に、ドローンハイウェイが該当する直接の規定はなく、文言解釈からすると、地域福利増進事業に含まれるかは微妙なところがあるが、ドローンの物流分野における利活用は地域住民の福祉又は利便の増進を図るためのものであることから、例えば、道路法による道路等一般交通の用に供する施設の整備(所有者不明土地法2条3項1号)に該当又は準ずるものとして、土地使用権等が設定できるとドローンハイウェイの実現において有益だと思われる。

以 上



[1] 市街地よりも、過疎地・無人地帯において確保する方が容易といいうる。

[2] ロードマップの補足資料においても、いわゆるドローンハイウェイ構想等の論点整理を今後の課題として挙げている。ドローンハイウェイについて論じたものとして、寺田麻佑「ドローンハイウェイに関する法的考察」情報ネットワーク・ローレビュー第16巻(2018年3月)がある。

[3] なお、前掲・第2回2.(4)で述べたドローンのための「地域限定型規制のサンドボックス制度」の対象は、航空法上の許可承認と電波法上の無線局の開設に関するものにとどまり、特区において、認定された技術実証区域計画に基づき実証実験を行う場合においても、土地所有者からの同意や、道路・鉄道・河川等の管理者からの許可取得等の要否が問題になる。

[6] 古屋奈穂美「送電線地益権の基礎知識」登記情報636号(2014)8頁。上空における送電線の架設を電力会社に対して認める契約を締結するにとどまることもある。この場合には、物権は設定されず、電力会社は土地の利用に関する債権を持つに留まる。

[7] 前掲[6]・古屋「送電線地益権の基礎知識」登記情報636号(2014)9頁

[8] このドローンハイウェイ構想は、前掲第2回[1]で述べた国土交通省と環境省指定の実証実験の対象にもなっており、提出されている提案資料によれば、ドローンハイウェイのインフラ提供者は東電・ゼンリンとされ、事業者(楽天)に対してインフラ利用を認め、その対価として、事業者がインフラ提供者に対して使用料を支払うことが予定されている。https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2018/10/001250468.pdf(最終閲覧2018年10月11日)

[10] 前掲第3回[3]・森・濱田松本法律事務所ロボット法研究会『ドローン・ビジネスと法規制』(清文社、2017)102頁参照。

[11] 利用目的に公共性が高い場合には、一定の要件の充足を条件に、飛行が許可されるといった利用ルールを河川管理者が規定している例も存在する。

[12] 上記3.(3)①及び②の例でも、前者は埼玉県秩父市が、後者は長野県伊那市が参加している。

[13] 民法上、地上権は工作物等の所有を目的とし(民法265条)、地益権は(他人の土地を)自己の土地の便益に供することを目的としているため(民法280条)、通常は、賃貸借契約を締結する形になると思われる。

[14] 所有者不明土地法の解説として、田邉直輝「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の概要」NBL1128号(2018)65頁がある。

[15] 土地使用権等が発生する代わりに、補償金の供託義務(所有者不明土地法17条)や原状回復の義務(同法24条)の制度があり、所有者の権利保護も図られている。

 

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