SH5374 ドイツ付加価値税法と消費税法――第六話 内外判定と輸入消費税 石川 紀(2025/03/26)

組織法務監査・会計・税務

ドイツ付加価値税法と消費税法
第六話 内外判定と輸入消費税

石 川   紀

 

第一話 電子インボイスの義務化について|  第二話 輸出免税と免税店  |  第三話 プラットフォーム課税
   第四話 リバース・チャージ  | 第五話 小規模事業者を巡る問題  |  第六話 内外判定と輸入消費税

 

はじめに

 筆者は大蔵省時代から付加価値税法を学んできた者であるが、日本の消費税法には古き良き時代の欧州の付加価値税制度が良く保存されている。

 内外判定というものもその一つであり、独仏国境のライン川にかかる橋に税関があった当時を思い出させる制度となっている。

 現在のドイツ、欧州の付加価値税法はこれとはずいぶんと異なる制度となっている。プラットフォーム課税がわかりやすい例であるが、物品そのものがまだ輸入されていなくとも、国外のプラットフォーム運営者に代金が支払われた時点で付加価値税債務が成立し、民泊についても国外にいるプラットフォーム運営者に支払いを行った時点で付加価値税債務が成立する。基準は最終消費が国内で行われるか否か、ということになる。

 最終消費に課税するということは、私法上インボイスを発行する義務がある欧州では可能と考えられる。さらに、このインボイスがコンピュータ技術の発展により当たり前のように電子化され、しかも、そのデータがインターオペラビリティに富んだデータであればさほどのコストをかけることなく捕捉可能ということになる。

 日本の場合、インボイス制度が私法にはなく、請求書発行もEDIという業界毎に定められた特殊なデータ様式に依存し、しかも、多くの中小企業はこれに参加していなかったということもあり、インボイスがないことを前提に制度を構築したという事情がある。インボイスは令和となって税法上導入されたものの業界毎に異なるデータ様式によるインボイスは残り続け、インターオペラビリティはない状況が続いている。最終消費者を捕捉することは容易ではない。

 以下において、ドイツ付加価値税法がいかに最終消費を把握し課税しているか、日本の消費税法の内外判定がこれとどのように異なったものとなっているかについて考えてみたい。

 

1 役務の提供

 まず、消費税法では、具体的な規定については政令に委任されており、法律は以下のような規定となっている。

 

  1.  「第四条

  2. (中略)

  3. 3 資産の譲渡等が国内において行われたかどうかの判定は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める場所が国内にあるかどうかにより行うものとする。ただし、第三号に掲げる場合において、同号に定める場所がないときは、当該資産の譲渡等は国内以外の地域で行われたものとする。

    一 資産の譲渡又は貸付けである場合当該譲渡又は貸付けが行われる時において当該資産が所在していた場所(当該資産が船舶、航空機、鉱業権、特許権、著作権、国債証券、株券その他の資産でその所在していた場所が明らかでないものとして政令で定めるものである場合には、政令で定める場所)

    二 役務の提供である場合(次号に掲げる場合を除く。)当該役務の提供が行われた場所(当該役務の提供が国際運輸、国際通信その他の役務の提供で当該役務の提供が行われた場所が明らかでないものとして政令で定めるものである場合には、政令で定める場所)

    三 電気通信利用役務の提供である場合当該電気通信利用役務の提供を受ける者の住所若しくは居所(現在まで引き続いて一年以上居住する場所をいう。)又は本店若しくは主たる事務所の所在地

    (後略)」

 

 なぜかは不明であるが、役務の中で電気通信役務についてのみ、受領者の所在地が内外判定の基準とされている。EU等のインターネットによるサービスの課税を参考にしたものと思われる。物品の供給については物品の所在地、役務については法律だけ読んでも判然としない規定となっている。

 消費税法施行令6条2項6号において包括的規定として、以下のように規定されており、最終消費地は基準とはされていない。

 

  1.  「六 各号に掲げる役務の提供以外のもので国内及び国内以外の地域にわたつて行われる役務の提供その他の役務の提供が行われた場所が明らかでないもの 役務の提供を行う者の役務の提供に係る事務所等の所在地」

 

 この規定の考え方は日本の消費税法が参考とした1977年の第六次付加価値税指令を踏襲したものである。この指令により、役務の提供についてはEU加盟国間の税収を巡る紛争解決のために、役務を提供する事業者の所在地が役務の提供が行われた場所とする規定が置かれた。これは当時から消費課税としての付加価値税制に反するとの批判があった規定である。[1]

 確かに税収の確保及び執行の簡素化の観点からは役務の提供を行う事業者の場所と規定するのは実践的な解決法といえる。しかし、インボイス制度が普及しかつ電子化されている状況を考えた場合、最終消費の場所ではなく、役務の提供を行う事業者の所在地で課税するという制度に固執する必要性は乏しいと考えられる。付加価値税法は消費者に対するインボイス発行義務はないが、私法上はインボイスがあることで消費者に対する債権の確保が容易となるため、消費者に対してもインボイスが発行されるのが普通であり、これにより、消費者が国内であるか否かの判断が可能となるのである。

 EUの付加価値税制はこの第六次付加価値税指令に由来する規定を今日もなお維持しているものの、適用はまれな規定となっている。基本的に最終消費地で課税されることになっている。

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(いしかわ・おさむ)

1983年東京大学法学部卒業。旧大蔵省に入省。ドイツ税制の調査に従事。独フライブ
ルク大学留学。1989年の消費税導入時に白河税務署長を勤める。1992年から独フランク
フルト総領事館にて、ドイツの財政・金融政策を担当。平成の金融危機時には金融機関
の破綻処理、不良債権処理に従事し、その間、海外の破綻処理法制についての論考も執
筆。2006年~2008年国税庁徴収課長を勤めた後、2010年から在ベルリン日本大使館
公使としてドイツの財政・金融政策を担当。帰国後は、名古屋税関長、関信国税不服審
判所長、神戸税関長等を勤めた。2019年に財務省退官。
2025年4月から亜細亜大学経済学部にて租税論を講ずる予定。

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