シンガポール:シンガポールにおける新たな投資ファンドストラクチャー
Variable Capital Company(VCC)(その2)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 松 本 岳 人
前稿に引き続き、本稿では、Variable Capital Company(VCC)の概要について紹介する。
4. ファンド規制
(1) ファンド・マネージャー規制
VCCは、ファンド・マネージャーを選任する必要があり、当該ファンド・マネージャーはシンガポール金融管理局(Monetary Authority of Singapore(MAS))のライセンスを取得している必要がある。VCCが違法な目的で悪用されるのを防ぐために、ファンド・マネージャーを通じてMASの監督下に置かれることになる。
(2) マネーロンダリング・テロ資金対策規制
VCCは、マネーロンダリング・テロ資金対策規制の対象に含まれることになり、国際的な規制と同様のMASの規制下に置かれることになる。
5. ガバナンス構造
(1) 取締役会
VCCはシンガポール会社法上の会社と同様、取締役会を設置することが求められている。取締役のうち1人以上はシンガポールに居住する必要があり、VCCの各取締役はVCCの利益のためにVCCに対する忠実義務を負う。
VCC又はアンブレラファンドの場合はそのサブファンドが一般個人を対象に投資勧誘をする場合には、取締役会の要件が加重される。3人以上の取締役が必要となるとともに、そのうちの一人はファンド・マネージャーの取締役である必要があり、また一人は独立取締役である必要がある。
(2) 計算書類及び会計基準
VCCは、計算書類を作成する義務があり、当該計算書類について会計監査を受ける必要がある。ただし、世界中の投資家を相手方とすることを想定し、会計基準についてはSingapore Financial Reporting Standards(SFRS)に限られず、International Financial Reporting Standards(IFRS)又は米国のGenerally Accepted Accounting Principal(US GAAP)に従った会計処理も認められる。
(3) 投資家の登録
シンガポールの会社法上は、株主の情報はAccounting and Corporate Regulatory Authority(ACRA)の登録システムに登録されており、ACRAの登録情報は公開情報としてウェブサイトから入手することができる。一方、VCCについては、登録はされるものの、一般には公開されず、規制当局に対して監督や法執行などの目的でのみ開示されるものとされている。
6. 外国籍ファンドのシンガポール籍取得及びVCCへの組織変更
VCC法では、シンガポール籍の投資ファンドを増加させるため、VCCに類似する形態の外国籍の会社に対してシンガポール籍を与える制度も導入されている。また、既存のシンガポール会社法に基づく会社や、組合形態、信託形態の投資ファンドをVCCに組織変更するための仕組みも設けられている。
7. おわりに
VCCは、その柔軟な構造により、オープンエンド型とクローズドエンド型の投資ファンドいずれの構造も採用できる仕組みとなることが意図されている。そのため、一般的にオープンファンド型で組成される投資信託などに加えて、プライベートエクイティや不動産ファンドといったクローズドエンド型で組成されることの多いファンド形態でも採用することができ、幅広い種類の投資ファンド形態として活用されることが期待されている。VCC法は、2019年中旬には施行予定であるが、VCCという新たな投資ファンドストラクチャーが実際にどのように活用され、世界的なファンドの潮流にどのような影響を与えるか今後の動向に注目したい。
以上