◇SH2248◇イスラエル:イノベーション庁の補助金プログラムと投資/買収に際しての留意点(上) 十倉彬宏(2018/12/13)

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イスラエル:イノベーション庁の補助金プログラムと
投資/買収に際しての留意点(上)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 十 倉 彬 宏

 

 イスラエルのハイテク産業は近年大きな注目を集めているが、その発展においては、公的資金による投資奨励プログラムが大きな役割を果たしていると言われている。その中でも、産業における研究開発及び技術イノベーション奨励法(Encouragement of Research, Development and Technological Innovation in Industry Law、以下「イノベーション法」)に基づいて、イノベーション庁(Israeli National Authority for Technological Innovation、元のOffice of the Chief Scientist)が提供する補助金プログラム(以下「IIA補助金」)は最も広く利用されている。

 イノベーション法はイスラエル「国内」における産業・雇用育成を重視しており、かかる目的を達成するため、IIA補助金に関しても、これを利用して開発されたノウハウ(後述参照)についてはその国外移転に一定の制約を設ける等、補助金受領者はIIA補助金の交付を受けるのと引換えに一定の義務・制約に服している。かかる義務・制約は投資/買収判断にも一定の影響を及ぼすものであり、イスラエルのハイテク企業への投資/買収に際しては、対象会社によるIIA補助金の利用状況の確認が一つの重要なポイントとなる。

 

IIA補助金の概要

 イノベーション庁は、イスラエルの産業における技術革新を推進、奨励、支援し、イスラエルのハイテク産業の国際的競争力を維持するために設立された。他のハイテク産業支援プログラムには税制優遇措置等の形をとるものも存在するが、イノベーション庁は補助金の交付という形でハイテク産業を支援している。IIA補助金の交付対象はいわゆるスタートアップに限定されるものではなく、新技術・製品の開発に取り組む成熟企業、イスラエル企業との共同技術開発に取り組むグローバル企業など、幅広い種類の企業に交付されている。

 IIA補助金の交付を受けようとする企業はIIA補助金を利用して取り組もうとする技術開発プロジェクト及び当該プロジェクトに係る予算を申請し、イノベーション庁による審査を経てIIA補助金の交付可否及び交付額その他の諸条件が決定される。IIA補助金が交付される場合、交付額は予算の30%~50%とされることが多い。なお、交付認可が下りた場合でもIIA補助金は即時には交付されず、認可を受けたプロジェクトに係る支出をイノベーション庁に対して定期的に報告し、かかる報告の確認をもって当該支出額に相当する補助金が交付される。つまり、申請企業は、IIA補助金では賄いきれない予算の原資及び補助金を受領するまでの運転資金として、IIA補助金以外の資金源も確保しておく必要がある。

 IIA補助金は原則として給付型ではなく貸与型であり、受領額全額(及びLIBOR相当の利息)の返済が前提とされている。かかる返済は、IIA補助金を利用して開発された技術(又は当該技術を利用した製品)から得られる収益の一部をロイヤルティーとしてイノベーション庁に収めるという形で行われる。ロイヤルティー率はイノベーション庁によって決定され、利用するプログラムによっても異なるが、一般的には該当収益の3%~5%に設定されることが多い。

 以上より、ハイテク産業領域のイスラエル企業への投資又は買収を検討する際には、IIA補助金の認可・交付を受けているか、ロイヤルティー率等の条件はどうなっているか、受領分の返済はどの程度進んでいるかといった点を確認する必要がある。

 以上、IIA補助金制度の概要を紹介したが、後編では、補助金受領者に課される制約及びこれに関連する投資/買収に際しての留意点を検討する。

(つづく)

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