中国:最高人民法院の新型肺炎ウイルスに関する民事案件の指導意見二(後編)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 川 合 正 倫
1.契約案件の審理について(承前)
(2)事情変更の原則の適用
上述のとおり、指導意見(二)は、契約当事者に債務不履行があったとしても、継続履行が可能である限り、契約の解除や違約責任を認めないという立場を示している。一方で、例えば売買契約において、新型コロナ措置等によって人件費、原材料又は物流等のコストが著しく上昇又は製品の価格が大幅に下落し、これによって合意内容をそのまま履行させることが一方当事者にとって明らかに不公平となる場合、裁判所は、不利な影響を受けた当事者の請求に基づき、実際の状況を踏まえ、公平の原則に従い取引価格を変更しなければならないと定めており、事情変更の原則が適用されうる旨を明らかにしている。また、新型コロナ措置等によって契約期限に従う引渡し又は代金支払いができない場合についても、裁判所による履行期限の変更を認めている(指導意見(二)第2条1項)。
その他、事情変更の原則が適用されうる場合として、以下の場合が規定されている。
- (i) 不動産売買において、当事者が引渡し又は代金支払いの期限の変更を請求する場合(指導意見(二)第4条)。
- (ii) 賃貸借において、賃借不動産が国有企業の保有する不動産である場合、発改投資規〔2020〕734号に基づき一定の賃料免除を主張することが可能である。また、それ以外の不動産を経営に用い、新型コロナ措置等によって売上高が明らかに減少又はゼロになり、契約に従う賃料支払いが明らかに不公平である場合、裁判所は、賃料の免除等について、上記規定を参照して調停することができるが、調停ができない場合(指導意見(二)第6条2項)。
- (iii) 工事請負において、請負人が履行期限の延長を請求する場合、裁判所は新型コロナ措置等の契約履行への影響を踏まえて同原則の適用を認めることがありうる(指導意見(二)第7条1項)。なお、人件費等のコストが大幅に上昇又は設備リース料等の損失が発生し、履行の継続が請負人にとって明らかに不公平であり、請負人が請負対価の変更を請求する場合(同条2項)。
- (iv)オフライン教育契約について、当事者がオンライン実施、実施期間又は対価の変更を請求する場合(指導意見(二)第8条1項)。
2.金融案件の審理について
新型コロナ措置等によって資金繰りが困難になった企業や収入が著しく減少した個人が金融機関と融資契約又は住宅ローン契約を締結している事例も少なくない。これらの契約に関し、返済期限に従う履行ができないことによって、期限の利益を喪失したり、融資契約が解除されたり、個人住宅の抵当権の執行リスクに直面しうる。指導意見(二)は、裁判所が国の金融支持政策に反して期限利益の喪失又は契約解除を請求するという主張を認めず、また、新型コロナに感染又は隔離された人員等の住宅ローンやクレジットカード債務の返済期限の変更を認める方針を定めている(指導意見(二)第10条)。
また、防疫資材を製造する企業の生産設備、原材料、仕掛品又は完成品等に設定された浮動抵当について、抵当権者が抵当権の執行を申し立てた場合、被申立人又は利害関係人が抵当権の執行による防疫資材の製造に影響が生じることを証明すれば、裁判所は新型コロナ措置等の影響が消滅した後に処理することができるとされている(指導意見(二)第11条)。
3.破産案件の審理について
指導意見(二)は、債権者が破産申立を行った企業について、当事者間の協議や調停を推奨し、企業に対する救済を図る方針を明確にしている(指導意見第17条)。加えて、新型コロナ措置等を原因として破産申立が行われた企業について、資金繰りや資産及び負債に対する形式的な審査のみならず、企業の継続経営力及び業界の発展見通し等の要素を総合的に検討したうえで破産申立の受理を判断すべきとの見解も示している(指導意見(二)第18条)。
また、更生手続(中文表記は「重整」)において、新型コロナ措置等を原因としてスポンサーの選定、デューデリジェンスの実施又は契約交渉ができず、期限通りに更生計画案を提出することができない場合、裁判所は、債務者又は管財人の申請に基づき、新型コロナ措置等の更生手続への影響を踏まえ、計画案提出の法定期間に算入しない合理的な期間を確定させることができ、この期間は一般的に6ヶ月を超えないとされている(指導意見(二)第20条1項)。なお、計画案が既に提出され、実行段階に入ったものの、新型コロナ措置等によって実行が難しくなった場合、裁判所は、債務者又は債権者の申請に基づき実行期限の変更することも可能とされている(同20条2項)。
さらに、債権者の権利保護も重視されており、例えば、新型コロナ措置等の影響を受ける破産案件の債権申告期限について、裁判所は法定の最長期限と定めることが可能とされている。また、債権者が新型コロナ措置等を原因として期限内に申告できない場合又は証拠資料を提出できない場合には、障害事由が消滅してから10日以内に補充申告を行うことができる(指導意見(二)第21条)。