◇SH2306◇ベトナム:社会保険の加入の強制化(上) 井上皓子(2019/01/31)

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ベトナム:社会保険の加入の強制化(上)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 井 上 皓 子

 

  1. Q:外国人の社会保険の加入の強制化に関するガイドラインがついに公布されたと聞きました。最終的に、ベトナムで就労する外国人は全て社会保険の加入の対象となることになったのでしょうか。その他の留意点についても教えてください。
  2. A:2018年10月にベトナム政府が公布した労働問題等のガイドラインの中に、ベトナムで就労する外国人の労働者に係る強制社会保険に関する社会保険法及び労働安全衛生法の詳細を規定する2018年10月15日付政令第143/2018/ND-CP号(「政令143号」)が含まれており、この政令は2018年12月1日に施行されます。これによりベトナムの強制社会保険の対象となる外国人労働者の範囲及び内容が明確化されました。

 

Ⅰ 適用対象

 政令143号は、外国人労働者も、社会保険について加入対象であることを規定しています。ただし、全ての外国人が加入対象とされているわけではなく、①ベトナムの管轄機関によって発行された労働許可証、実務資格要件充足証書または実務資格ライセンスを有し、かつ②ベトナムでの雇用主と締結された無期限又は1年以上の労働契約に基づき、ベトナムで就労する外国人労働者が対象となります。なお、①の実務資格要件充足証書及び実務資格ライセンスとは、外国人がベトナムにおいて専門の業務に従事するために管轄機関から承認を取得したことを証する資料を意味し、ここでは、弁護士などそのような資料を取得することで労働許可証の取得が必要ない場合をカバーするためのものと理解されています。

 したがって、労働許可証の取得を免除される場合であって、かつ実務資格要件充足証書及び実務資格ライセンスの取得が必要ない場合(複数社員有限会社の社員(出資者)である外国人、株式会社の取締役会の構成員である外国人など)については社会保険への加入が不要であることになります。

 また、①及び②に該当する場合でも、(a)政令11/2016/ND-CP号(「政令11号」)第3条第1項に定義された「社内異動者(出向者)」及び(b)定年に達した労働者(原則として保険加入年数を充足し、かつ男性60歳以上、女性55歳以上)は強制社会保険の対象外とされています(政令143号第2条)。

 「社内異動者」とは、既にベトナムに事業拠点を有している外国企業の管理者、業務監督者、専門家、または技術者であって、当該企業内で当該ベトナム拠点へ一時的に異動される者であり、かつ当該異動の少なくとも12カ月前から当該企業により雇用されている外国人をいうものとされています(政令11号第3条第1項)。出向先となるベトナムで拠点が、世界貿易機関(WTO)とベトナムとの間で合意されたサービス分野における市場開放コミットメント11業種[1]に該当する場合、この要件を満たす社内異動者については、労働許可証の取得が免除されます(政令11号第7条第2項第a号)。製造業などそれ以外の業種の場合、社内異動者についても労働許可証を取得する必要がありますが、その申請段階で、その他の場合(現地採用の場合)とは異なる書類の提出が求められています(政令11号第10条第7項a号)。これらの場合(日本企業からの出向でベトナムに来ている日本人の多くはこれに該当するものと思われます)には、社会保険の加入は不要であるということになります。

 ただし、「社内異動者」の範囲については、政令11号の定義自体において明確でない部分があります。そもそもこの「社内異動」の概念はWTOコミットメントにおける規定から来ています。WTOコミットメントに関する財務省の説明等[2]によれば、出向先となる「業務拠点」には、100%子会社、駐在員事務所、合弁企業、支店等が含まれることは明らかですが、親会社から孫会社への異動、直接の資本関係にはないものの親会社を通じた間接的な出資関係にある兄弟会社間の異動、マイノリティ出資先への出向等の場合について、「社内異動者」に含まれるのかどうかが明確になっていません。この点については、今後出される通達により明確にしてほしいところです。

 


[1] 経営サービス、通信サービス、建設サービス、流通サービス、教育サービス、環境サービス、ファイナンスサービス、医療サービス、観光サービス、文化エンターテインメント及び運輸サービス

 

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