ベトナム:投資法における条件付投資分野の改正(1)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 澤 山 啓 伍
2016年12月11月、ベトナム国会は投資法第6条及び条件付投資分野のリストに関する別表4を改正する法律第03/2016/QH14号(以下、「改正法」という。)を可決、公布した。改正法は、一部を除き、2017年1月1日に施行された。本稿では、2回に分けてこの改正法について概説する。
1. 経緯
元々、ベトナムでは定期的な法改正のスケジュールが設定されている。新法の施行後、4、5年が経過した段階で、その新法の効果、問題点などを検証し、次の法改正の準備に着手し、特に重要な法律については数年かけて政府内で検討し、国会でも審議されるという流れになっている。実際、2015年に施行された現行の投資法及び企業法は、その前の2005年施行の投資法及び企業法を代替する形で、2014年に制定されたものである。
しかしながら、今回は、現行の投資法が施行されてからわずか2年未満での改正となった。これは、ベトナムの立法史においてはかなり特異な例であるとされ、政府及び立法機関が経済環境の状況に対して迅速に対応したとして、ベトナム国内では高く評価されているようである。
とはいえ、今回の改正法の内容はかなり限定的である。特に、今回の法改正に関する準備作業が開始された時点では、投資及び事業に関連する法律における様々な問題点を認識するための公聴会が開かれ、検討過程で公表された草案では、投資法だけではなく、企業法、土地法、建設法など、投資及び事業に関連するその他の法律(多いときには15本の法律が対象となっていた)についても一括して改正するという壮大な内容になっていたのに鑑みると、最終的に国会を通過した改正法の内容を知った時には、唖然としてしまった。これは、多くの内容を詰め込もうとしても関係各署との調整が付かず時間がかかってしまうため、最も重要な点についてのみの改正に集中した結果と思われる。
2. 改正の内容
本法律において、注目すべき内容は以下の通りである。
- ⑴ 条件付投資分野の変更
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投資法では、ベトナムにおいて内資、外資を問わず事業を行うにあたって何らかの条件を充足する必要がある事業を条件付投資分野と呼び、その一覧表を別表4として添付している。条件付投資分野に該当しない事業のみを行うローカル企業に外資企業が出資する場合には、出資後の外資比率が51%を超えなければ、出資登録手続が不要となる。
改正法の最も重要な点は、条件付投資分野に該当する事業の一覧表を全面改訂し、対象となる事業を267から243に削減した点にある。このうち、条件付投資分野の対象から除外された事業分野には、保険代理研修サービス、(国営企業の民営化の過程で行われる)株式会社化のための企業価値算定に関するコンサルティングサービス、消防サービス、照明・植栽システムの管理運営サービス、入札代行サービス、建設プロジェクト及び建設物の審査に関するサービス、投資プロジェクトの評価に関するコンサルティングサービス及び研修サービス、祭礼開催サービス等が含まれる。これらの事業が対象外となったのは、現在のベトナムの投資事業活動において、国家による管理が不要であると判断されたからであるとされている。
これに伴い、入札に関する研修サービスの条件を規定した入札法第19条1項、及び建設プロジェクト及び建設物の審査に関するサービスの条件を規定した建設法第151条の規定も、改正法により廃止されている。
他方、自動車の製造・組立・輸入、高層住宅の管理運営サービス、留学コンサルティングサービス、録音・録画・測位に関する偽装機器・ソフトウェアに関する事業など、15の事業分野が新規に条件付投資分野に追加された。しかし、これらの事業に関する具体的な投資条件はまだ決定されておらず、今後関連する法令等の中で規定されることになる。
なお、投資法上の条件付投資分野については、それぞれの投資分野が、外国投資家だけに適用される条件が課された分野であるのか、国内の投資家に対しても何らかの条件が課されているのか、といった区別が明確でなくわかりにくいという批判があり、これらを区別して整理すべきだとする提案もされていた。しかし、結果的にそのような提案が実現しなかったことは、外国投資家の立場からすれば残念である。