◇SH2519◇最二小判 平成31年1月18日 執行判決請求事件(鬼丸かおる裁判長)

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 訴訟当事者に判決の内容が了知されず又は了知する機会も実質的に与えられなかったことにより不服申立ての機会が与えられないまま確定した外国裁判所の判決に係る訴訟手続と民訴法118条3号にいう公の秩序

 外国裁判所の判決に係る訴訟手続において、当該判決の内容を了知させることが可能であったにもかかわらず、実際には訴訟当事者にこれが了知されず又は了知する機会も実質的に与えられなかったことにより、不服申立ての機会が与えられないまま確定した当該判決に係る訴訟手続は、民訴法118条3号にいう公の秩序に反する。

 民訴法118条3号、民事執行法22条6号、24条

 平成29年(受)第2177号 最高裁平成31年1月18日第二小法廷判決 執行判決請求事件 破棄差戻

 原 審:平成29年(ネ)第101号 大阪高裁平成29年9月1日判決
 原々審:平成27年(ワ)第12230号 大阪地裁平成28年11月30日判決

第1 事案の概要

 本件は、上告人らが、米国カリフォルニア州の裁判所で被上告人に対して損害賠償を命ずる確定判決を取得した後、日本の裁判所において当該外国裁判所の確定判決(以下「本件外国判決」という。)についての執行判決を求めた事案である。 我が国で外国裁判所の確定判決が執行力を有するためには、民訴法118条3号により判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないことが必要であるが、本件外国判決は、被上告人らに対し、判決の送達がされないまま通常の不服申立ての方法では不服申立てのできない状態となった(確定した)ため、我が国の手続的公序に反するのではないかという点が争われた。

 本件の事実関係は次のようなものである。

 ⑴ 上告人らは、平成25年(2013年)3月、米国カリフォルニア州オレンジ郡上位裁判所(以下「本件外国裁判所」という。)に対し、被上告人外数名を被告として損害賠償を求める訴えを提起した。

 ⑵ 被上告人は、弁護士を代理人に選任して応訴したが、訴訟手続の途中で同弁護士が本件外国裁判所の許可を得て辞任した。被上告人がその後の期日に出頭しなかったため、上告人らの申立てにより、手続の進行を怠ったことを理由とする欠席(デフォルト)の登録がされた。

 ⑶ 本件外国裁判所は、上告人らの申立てにより、平成27年(2015年)3月、被上告人に対し、約27万5500米国ドルの支払を命ずる、カリフォルニア州民事訴訟法上の欠席判決(デフォルト・ジャッジメント。以下「本件外国判決」という。)を言渡し、本件外国判決は、同月、本件外国裁判所において登録された。

 ⑷ 上告人らの代理人弁護士は、平成27年(2015年)3月、被上告人に対し、本件外国判決に関し、判決書の写しを添付した判決登録通知を、誤った住所を宛先として普通郵便で発送した。上記通知が被上告人に届いたとはいえない。

 ⑸ 被上告人は、本件外国判決の登録の日から180日の控訴期間内に控訴せず、その他の不服申立ても所定期間内にしなかったことから、本件外国判決は確定した。

3 原々審、原審の判断

 ⑴ 原々審は、要旨次のように判示して、上告人らの請求を一部認容した。

 敗訴当事者に防御の機会が十分に与えられなかったと認めるに足りる特段の事情がある場合は格別、判決書を含む裁判書類につき送達がなされていないとしても、それだけで直ちに外国裁判所の訴訟手続が法118条3号にいう公の秩序に反するとはいえない。本件では、判決登録通知は送達されていないものの、被上告人は本件外国判決の内容を了知し又は少なくとも了知し得たから、防御の機会は与えられており、当該訴訟手続は公の秩序に反していない。

 ⑵ 原審は、要旨次のとおり判示して、原々審判決を取り消し、上告人らの請求をすべて棄却した。

 敗訴当事者に対する判決の送達は、裁判所の判断に対して不服を申し立てる権利を手続的に保障するものとして、我が国の裁判制度を規律する法規範の内容となっており、民訴法118条3号にいう公の秩序の内容を成している。本件外国判決は、被上告人に対する判決の送達がされないまま確定したから、その訴訟手続は同号にいう公の秩序に反する。

4 本判決について

 本判決は、まず、我が国の民訴法は、訴訟当事者に判決の内容を了知させ又は了知する機会を実質的に与えることにより、当該判決に対する不服申立ての機会を与えることを訴訟法秩序の根幹を成す重要な手続として保障しているものであるとし上で、判示事項のとおり説示し、本件において、判決の内容の了知がされ又は了知の実質的な機会が与えられることにより不服申立ての機会が与えられていたか否かについて更に審理を尽くす必要があるとし、原判決を破棄して原審に差し戻した。

 

第2 説明

1 米国カリフォルニア州の民事訴訟制度における判決の送達について

 カリフォルニア州の民事訴訟制度においては、我が国のような判決書の正本等の送達制度は見当たらず、これに代えて、判決の裁判所への登録を知らせる判決登録通知が、原則として勝訴当事者から相手方当事者に対し送達がされることとなっている。しかし、控訴期間は、同州裁判所規則により、判決登録の日から180日又は判決登録通知が送達されたことが証明された場合にはその送達の日から60日のいずれか早い日の経過により確定することとなっているため、判決登録通知が送達されたことが定かではない本件のような場合でも、判決登録から180日を経過したことによって控訴期間が満了することとなる。

 ところで、本件は、被告について裁判の途中で代理人弁護士が辞任し、カリフォルニア州民事訴訟法上の欠席判決(デフォルト・ジャッジメント)がされた事案であるが、同州の民事訴訟法では、欠席判決がされるまでには、欠席の登録の前提としての欠席登録申請書の送達や、欠席判決の前提としての欠席判決申請書の送達手続が必要であるなど、欠席当事者に対しても種々の手続保障が存することがうかがわれる。また、弁護士が辞任する際にも、裁判所による辞任許可の決定が必要で、そのための辞任許可申請書の本人への送達手続が必要となっているなどその後の手続についての注意喚起も行われているようである。なお、州によっては当事者が判決等の裁判書類をインターネットで閲覧できる仕組みも整備されているようである。 本件において、被上告人がこれらの手続保障をどの程度受けていたのかは必ずしも明らかではないものの、最終的には被上告人に対して欠席判決がされ、その登録がされたにもかかわらず、上告人ら代理人が判決書の写しを同封して発送した判決登録通知は、宛先住所を誤っていたため被上告人に届いたとはいえない状況となっていた。

 外国裁判所の判決(以下「外国判決」という。)が民訴法118条により我が国においてその効力を認められるためには、同条3号により、判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないことが要件とされている。同条は、訴訟手続は各国や法域によって様々であることを前提にしつつ外国判決の効力を承認しようとしたものであると解されるから、外国判決に係る訴訟手続が我が国の採用していない制度に基づくものを含むからといって、その一事をもって直ちに上記要件を満たさないということはできない。しかし、その制度やそれに基づいた手続が我が国の法秩序の基本原則ないし基本理念と相いれないものと認められる場合には、その外国判決に係る訴訟手続は、同条3号にいう公の秩序に反するというべきである(最高裁平成5年(オ)第1762号同9年7月11日第二小法廷判決・民集51巻6号2573頁参照)。

 そこで、我が国における判決の送達に関する基本原則ないし基本理念はどのようなものであるかをみると、我が国の民訴法においては、判決書は当事者に送達しなければならないこととされ(255条)、判決に対する不服申立ては判決書の送達を受けた日から所定の不変期間内に提起しなければならず、判決は上記期間の満了前には確定しないこととされている(116条、285条、313条)。そして、送達は、裁判所の職権によって、送達すべき書類を受送達者に交付するか、少なくとも所定の同居者等に交付し又は送達すべき場所に差し置くことが原則とされ、当事者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れないなど上記の送達方法によることのできない事情のある場合に限り、公示送達等が例外的に許容されている(98条、101条、106条、107条、110条)。他方、外国判決が同法118条により我が国においてその効力を認められる要件としては、「訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達」を受けたことが掲げられている(同条2号)のに対し、判決の送達についてはそのような明示的な規定が置かれていない。

 以上によれば、外国判決に係る訴訟手続において、判決書の送達がされていないことの一事をもって直ちに民訴法118条3号にいう公の秩序に反するものと解することはできない。もっとも、我が国における民事訴訟手続においては、判決の内容を了知させ又はその実質的な機会を与えることにより不服申立てするかどうかを検討させることを極めて重要なものと位置付けていることもうかがわれることから、これを公の秩序との関係でどのように解するかが問題になるであろう。

 以上のような状況の下、本判決は、まず、判決書の送達自体が我が国の根幹を成す基本原則ないし基本理念とはいえないことを示し、判決書そのもの又はこれと同等のもの(原審が要求する、判決書の写しの付された通知)の送達を欠くことだけで手続的公序違反であるとした原審の判断は是認できないことを示したものと解される。

 その上で、本判決は、判決の送達を重要な手続保障と位置付けていると解される我が国の民訴法上の基本原則を明らかにするため、我が国の民訴法では、原則的な送達方法によることのできない事情のある場合を除き、訴訟当事者に判決の内容を了知させ又は了知する機会を実質的に与えることにより、当該判決に対する不服申立ての機会を与えることを判決の送達に関する訴訟法秩序の根幹を成す重要な手続として保障していると解されることを積極的に示したものと理解される。

 なお、ここで、判決書の内容を了知させ又は了知する機会を実質的に与えることに加えて、これにより「不服申立ての機会を与えること」と重ねて記載しているのは、単に判決内容を了知させれば手続的公序違反とならないということではなく、適時に、相当な方法で了知される必要があるという趣旨や、その了知の程度は、不服申立てをするに足りる程度であるという意味が含まれているものと解される。

 そして、我が国の手続的公序の1つが上記のように解される以上、その帰結として、外国判決の送達についても、判決書そのもの又はこれと同等のもの(原審の要求するような判決書の写しの付された通知)の送達を欠くというだけでは我が国の公序に反することにはならないものの、当該手続において、外国判決の内容を了知されていない場合や、了知する機会も実質的に与えられていない場合であって、これにより不服申立ての機会が与えられないまま判決が確定したと評価される場合には、我が国の手続的公序に反するものとして、法118条3号にいう公の秩序に反するというべきである。このような趣旨から、本判決は判示事項のとおり判示したものと解される。なお、判示事項において、判決の内容が「了知されず又は了知する機会も実質的に与えられなかった」ことのみならず、これにより「不服申立ての機会が与えられない」という要件が加えられていることからすると、単に判決内容を了知していないということで直ちに公序違反となるものではなく、例えば、敗訴当事者が、判決内容を了知する機会は与えられていたのにあえて了知をしなかった場合のように、了知はしていないが不服申立ての機会は与えられていたといえる場合は手続的公序に反しているとはいえないと解されるし、反対に、判決内容を了知されたからといって、それのみで手続的公序に違反している余地がおよそなくなるわけではなく、了知された時期や了知の方法によってはなお不服申立ての機会が与えられたとは評価できず、公序違反に当たる場合もあり得ることが考慮されているものと考えられる(例えば、控訴期間経過後に了知された場合はいうまでもないが、期間満了直前であっても、判決内容や通知方法によっては不服申立ての機会が与えられたとはいえない場合もあり得よう。)。

 なお、どの程度判決の内容を了知させ又は了知する機会を与えれば不服申立ての機会を与えたことになるのかは、制度の仕組みのみならず、当該訴訟手続において当事者の置かれた個別具体的な状況によって異なり得るので、判決内容の了知や了知の実質的な機会の有無を中核的な要素とした事実関係の評価が必要となると解される。また、本判決は、訴訟手続が手続的公序に反するか否かが問題となった事案において判決内容の了知やその実質的機会の付与がその根幹を成すことを示したものであるから、訴訟手続外において判決を知った場合等については、(そのことが上記の個別具体的な状況に影響する可能性はあるものの、)射程外と思われる。

 また、「了知させることが可能であったにもかかわらず、」とあるのは、我が国の民訴法においても公示送達や書留郵便等に付する送達制度等、必ずしも了知の実質的な機会を与えたとはいえない送達方法も許容していることからすると、当事者が行方不明である場合等、送達が不可能な場合まで了知や了知の実質的機会の付与を要求する趣旨ではないことを示しているものと解されるが、本件はそのような場合の事案ではなく、了知させることが可能であったことについては特に問題となっていなかったようである。

 本判決は、最高裁が、民訴法118条3号の手続的公序について、判決内容を了知させ又はその機会を実質的に与えることにより不服申立ての機会を与えることがその一内容となることを初めて示したものである。今後、外国判決について我が国で執行判決を取得するためには、勝訴当事者から我が国に所在する敗訴当事者に何らかの形で判決の内容を了知させるなどして実質的に不服申立ての機会を与えておくことが必要となると解され、実務に与える影響も大きいと考えられることから、ここに紹介する次第である。

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