企業活力を生む経営管理システム
―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
3.「製品規格」の仕組みが業法・有害物質規制・表示規制等の遵守に有効
例4 端末機器(電気通信事業法)
電話機、携帯電話、スマホ、FAX、PC、モデム等の端末機器を電気通信事業者[1]のネットワークに接続して使用する場合、利用者は、原則として電気通信事業者の接続の検査を受け、その端末機器が電気通信事業法に基づく技術基準に適合していることを確認しなければならない[2]。
ただし、技術基準に適合していることの認定・確認を受けて「技適マーク」が表示された端末機器であれば、その利用者は、電気通信事業者による接続の検査を受けずに、接続して使用することができる。
この技術基準は法令で詳細に決まっており、端末機器が技術基準に適合しているか否かを確認する方法には、設備・機器により、登録認定機関が1台毎に行う方法と、その他の方法(設計認証、自己確認)がある。前者の場合は検査記録の保存義務がないが、後の2つの方法の場合は「確認方法書」を作成する等して製造(又は輸入)する端末機器が技術基準に合致することを確保する品質管理体制を構築することが求められる。
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(注1) 端末機器の技術基準の確保は法令[3]に基づいて行われ、適合品に「技適マーク、番号」[4]を表示する。
- 1. 技術基準が要求する事項(電気通信事業法52条2項)
- ⑴ 電気通信回線設備を損傷し、又は、その機能に障害を与えないこと。
- ⑵ 電気通信回線設備を利用する他の利用者に迷惑を及ぼさないようにすること。
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⑶ 電気通信事業者の設置する電気通信回線設備と、利用者の接続する端末設備の責任の分界を明確にすること。
- 2. 技術基準認証制度(以下の3つの方法:電気通信事業法53条、56条、63条)
- ⑴ 技術基準適合認定(同法53条1項、2項)
- ・ 登録認定機関が、端末機器1台毎に基準適合を審査する。
- ・ 登録認定機関は適合品に「技適マーク(技術基準適合認定番号を付記)」を表示して、総務省に認定情報を報告する。総務省はその認定情報を公示する。
- ⑵ 設計認証(同法56条)
- ・ 登録認定機関が、設計が技術基準に適合し、かつ、その設計に基づく端末機器のいずれもが設計に合致するものとなることを確保(次の記載事項を満足)できると認めるときに認証し、総務省に設計認証の報告を行う。総務省はその認証情報を公示する。
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〔設計認証に係る確認方法書の記載事項[5]〕
-設計合致義務の履行に必要な業務を管理・実行・検証するための組織、管理者の責任・権限の明示。
-設計合致義務を履行するための管理方法(管理規程が具体的・体系的に文書で整備され、それに基づいて設計合致義務が適切に履行される。)。
-設計合致義務の履行に必要な端末機器の検査手順・その他の検査規程を文書で整備し、それに基づいて検査を適切に運用。
-端末機器の検査に必要な測定機器の管理規程を文書で整備し、それに基づいて測定機器等の管理を適切に運用。
-その他設計合致義務の履行に必要な事項。 - (注) 該当する事業場が品質マネジメントシステム規格(ISO 9001、TL9000<電気通信>等)の認証を取得しており、それが上記の各記載事項をカバーしているときは、規格認証の登録証の複写を「確認方法書」に替えて提出することができる[6]。
- ・ 設計認証を受けた者は、製造・輸入する端末機器に「技適マーク(設計認証番号を付記)」を表示する。
- ⑶ 技術基準適合自己確認(同法63条)
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・ 通信妨害が少ない特定端末機器[7]の製造業者・輸入業者は、法令[8]に従って、その設計(設計に合致することの確認の方法を含む)について技術基準への適合性を自己確認することができる。
この自己確認を行う製造業者・輸入業者は、予め、所定の様式の届出書を総務省に提出する。 -
・ 総務省はこれを形式審査して受理し、届出者に届出番号を通知して、届出があった旨を公示する[9]。
⑶ における総務省への届出書に含まれる「技術基準適合自己確認に係る確認方法書」の記載事項には、上記⑵の「設計認証に係る確認方法書」の記載事項が準用される[10]。 - ・ 技術基準適合自己確認をした者は、製造・輸入する端末機器に「技適マーク(届出番号を付記)」を表示する。
- 上記の⑵及び⑶の場合、設計認証を受けた者・技術基準適合自己確認をした者は、設計合致義務、端末機器の検査及びその記録保存義務(10年間)を負い、これを履行して初めて、端末機器に「技適マーク」を表示することができる[11]。
- (注2) 相互承認協定(MRA[12])に基づいて、外国の当局から指定され、登録を受けた登録外国適合性評価機関は、日本向けの端末機器について技術基準適合認定・設計認証を行うことができる。
- (注3) ①日本の技術基準を満たす携帯電話や、②日本の技術基準相当の米国FCC認証・欧州CEマークが付されかつWi-Fi Alliance の認証を受けたWi-Fi端末・Bluetooth端末の使用は、一定の条件のもとで可能である[13]。
〔総務省が行う試買テスト〕
総務省は、毎年度、発射する電波が電波法の「著しく微弱」の基準内にあり免許が不要として販売されている無線設備を市場から購入し、その電波の強さを測定して電波法違反(無線局の不法開設)を防ぐとともに、他の無線局に混信その他の妨害を与えることを防止している[14]。
(筆者の見方)現在の試買テスト結果のように市場に違反機器が多いと、それを購入した多数の一般消費者が電波法に違反することになり、社会の遵法意識がマヒしていくことを懸念する。当局には、積極的に違反品を排除することが望まれる。
[1] 東日本電信電話、西日本電信電話、KDDI、スカパーJSAT、ソフトバンク他
[2] 電気通信事業法69条1項、52条1項・2項
[3] 電気通信事業法(電気通信設備 41条~73条、登録認定機関 86条~103条、承認認定機関 104条~105条)、端末設備等規則、端末機器の技術基準適合認定等に関する規則(35条、別表第2号、別表第3号)
[4] この表示により、「技術基準認証済みの無線装置を内蔵する」ことが示される。
[5] 端末機器の技術基準適合認定等に関する規則(総務省令)別表第3号
[6] 一般財団法人電気通信端末機器審査協会「電気通信端末機器技術基準適合認定等制度に関するQ&A」、株式会社UL Japan「端末機器の技術基準適合認定及び設計認証業務規程」を参照。
[7] 端末機器の技術基準適合認定等に関する規則(総務省令)3条2項
[8] 総務省令に基づいて検証を行い、その特定端末機器の設計が「技術基準(総務省令)」に適合するものであり、かつ、当該設計に基づく特定端末機器のいずれもが当該設計に合致するものとなることを確保することができると認めるときに限り「技術基準適合自己確認」を行う。(電気通信事業法63条2項)
[9] 端末機器の技術基準適合認定等に関する規則(総務省令)41条3項
[10] 端末機器の技術基準適合認定等に関する規則(総務省令)別表第3号・第4号・第5号
[11] 電気通信事業法57条1項・2項、58条、64条1項・2項、65条
[12] 日本は、欧州共同体・シンガポール・米国とMRA(Mutual Recognition Agreementの略)を締結している。
[13] 2015年(平成27年)の電気通信事業法改正・電波法改正により、訪日観光客等が海外から持ち込むWi-Fi端末等の使用が入国日から90日以内に限り可能になった。
[14] 2017年度(平成29年度)の試買テストの結果:市場から購入した140機種(各2台、計280台)のうち、電波法の「著しく微弱」の基準を満たす機種は4用途(FMトランスミッタ、リモコン、ワイヤレスチャイム、キーレスエントリー)で計14機種しかなかった(90%が違反)。総務省は、ネット・ショップのサイト運営者・業界団体等に試買テスト結果等を情報提供して基準を満たさない無線設備の取扱い中止等を依頼した。また、インターネット上で違反の無線設備を販売する業者に対して販売の中止・回収を要請し、2017年(平成29年)8月・10月公表分の対象機種を販売していた店舗の約90%がその機器の販売を終了した。