シンガポール:個人情報保護法の執行状況と改正動向(下)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 長谷川 良 和
前回、「シンガポール個人情報保護法の執行状況と改正動向(上)」の中で、個人情報保護法の近時の執行状況について紹介した。今回は、その続編として、個人情報保護法の近時の法令・ガイドライン改正動向を紹介する。
3 近時の法令・ガイドライン改正動向
(1) 個人識別番号に係るガイドライン施行へ
シンガポール国民識別登録カード(NRIC)番号、又は外国人識別番号(FIN)等の個人識別番号の事業者による収集、使用及び開示、並びにその保持について、個人情報保護法の適用範囲を明確化するガイドライン(2018年8月31日付NRIC及び他の個人識別番号に係るガイドライン)が本年9月1日から施行予定である。同ガイドライン上、事業者は、原則として個人識別番号を収集、使用及び開示してはならず、個人情報の収集等が法令上必要とされる場合等、特定の状況下においてのみかかる行為が許容される旨が規定されている。
(2) 主要概念ガイドライン改訂
2019年7月15日付けで、個人情報保護法の主要な義務及び用語について規定する主要概念ガイドラインが改訂された。その中で、事業者が収集、使用、開示若しくは取扱う個人情報、又は当該収集等を支配する個人情報に係る責任を事業者がいかに果たすかに関する説明責任の考えが明確に反映される等の改訂がなされている。
(3) 法改正動向
現在、消費者の利便性向上及びデジタル経済の成長促進という観点から、新規性及び革新性ある商品やサービスの開発を図るため、以下の各事項の導入について同法改正の検討が進められている。
- ① データポータビリティに関する規定:事業者は、情報主体から要求があった場合に、当該事業者が保有又は支配する当該情報主体の個人情報が一般に使用される機械的読取可能なフォーマットで他の事業者に移転する義務を負う旨の規定
- ② データイノベーションに関する規定:事業上の知見獲得、あるいは商品・サービスの開発や提供に関する革新的効果の獲得を企図した、事業者による機密裏の情報利用を可能とするため、事業者が適法に収集した個人情報を、⑴運営効率・サービス向上、⑵商品・サービス開発、又は、⑶顧客理解の向上を目的として使用可能であることを明確化する規定
上記法改正の検討は、本年7月17日にパブリックコメント募集締切りの段階まで検討が進んでいる。なお、詳細については、同年5月22日付のパブリックコメントに付された内容等も参照されたい。
4 終わりに
新たに改訂されたガイドラインや今後施行予定のガイドラインに留意するとともに、現在、法改正の検討が進められている事項について実際にルールとしてどう導入されることになるかについても引き続き注視していく必要があろう。
以上