中国:中国の反外国制裁の現在地
――米国経済制裁に従って中国との取引を中止する場合の注意点(2)――
長島大野常松法律事務所
弁護士 鹿 はせる
2 注目すべき直近の裁判例
この点、公表されている裁判例をデータベースで確認した限り、反外国制裁法関連法令が制定されてから2年弱ということもあり、適用が肯定された事例はまだ見当たらない。しかし、2021年末に広州中級人民法院が下した以下の判決は注目に値する。
裁判例 |
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事案 |
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判決 |
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上記事案では、買主が行った取引契約の解除の有効性が問題となり、売主からは、イラン等の制裁対象国から対象商品を調達しないことの表明保証が中国の反外国制裁法等に違反するとの主張がなされたところ、裁判所は同表明保証が中国の反外国制裁法等の適用範囲に当たらないと判断したうえで、売主の主張を排斥した。合理的な判断と思われるが、中国の反外国制裁法等の「適用範囲に当たらない」という判断は、本件における制裁対象国に、中国が含まれていなかったという事実が重要であったと思われる。
仮に同種の紛争が起き、問題となる表明保証の内容が中国の特定地区から特定の商品を調達しないというものであった場合には、中国の裁判所は反外国制裁関連法令が適用されるとして、取引当事者の一方による解除を認めない判断をする可能性があると思われる。日本企業としては、そういった紛争を裁判所に持ち込まれることがないようにするよう、取引先選定を始めとする事前予防に関し、慎重な取扱いが求められるであろう。この点、取引中止や解除を受ける企業の立場にたって考えると、解除を行った企業に対して反外国制裁関連法令違反を主張して中国国内の裁判所に出訴した場合、その件での勝訴判決を得られたとしても、今後の解除企業、引いては解除企業所在国企業との取引が難しくなるリスクがあるが、逆に言えば、そういったリスクを考慮しないような企業であれば、出訴を躊躇われない可能性がある。上記裁判例では、買主にとってはメタノールの調達自体本件が初めてであり、売主との関係も、取引直前に売主から買主にコンタクトが行われ、本件が初めての取引であったことが事実認定されており、紛争防止の観点からは示唆的と思われる。
■参考法令
法令 |
対抗内容 |
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反外国制裁法 |
国務院の関係部門は、本法第3条に規定する差別的制限措置の制定、決定または実施に直接または間接的に関与した個人および団体を対抗措置リストに掲載することを決定できる。
第1項 いずれの組織又は個人も、外国が中国の国民又は組織に対して行う差別的制限措置を実施し、又はその実施を援助してはならない。 第2項 いずれかの組織又は個人が前項の規定に違反し、中国の国民および組織の合法的権益を侵害した場合、中国の国民および組織は、人民法院に訴訟を提起し、侵害の停止と損害賠償を請求することができる。 |
中国版エンティティリスト |
正常な市場取引の原則に違反し、中国企業、他の組織または個人との正常な取引を中断し、または中国企業、他の組織または個人に対して差別的な措置をとり、中国企業、他の組織または個人の合法的な権利と利益を著しく損なわせている。
担当機関は、エンティティリストに掲載される外国法人について、実情に照らして、次に掲げる措置のいずれか又は複数をとることを決定し、公表することができる。 (1) 中国関連の輸出入活動に従事することを制限または禁止すること。 (2) 中国の領域におけるその投資を制限または禁止すること。 (3) その関係者、輸送手段等の立入りを制限または禁止すること。 (4) その関係者の中国での労働許可、滞在、在留資格を制限または取り消すこと。 (5) 事情の重大性に応じた適切な額の罰金刑 (6) その他必要な措置 |
中国版ブロッキング規則 |
中国国民、法人またはその他の組織が、外国の法令および措置により、第三国(地域)およびその国民、法人またはその他の組織との通常の経済、貿易および関連活動を禁止または制限する状況に遭遇した場合、30日以内に、国務院の管轄商務部門に状況を報告しなければならない。報告者が守秘義務を要求した場合、国務院所管の商務部門およびその職員は、本人のために守秘義務を負うものとする。
第1項 担当機関は、審査の結果、当該外国の法令及び措置が域外において不当に適用されていることを確認したときは、国務院所管の商務部門が当該外国の法令及び措置の承認、執行及び遵守の禁止命令(以下「禁止命令」という。)を発令するよう決定することができる。 第2項 担当機関は、実際の状況に応じて、禁止事項を一時停止または取消を決定することができます。
第1項 当事者が禁止命令に定められた外国の法律及び措置を追従し、中国国民、法人又はその他の組織の合法的権益を侵害した場合、中国国民、法人又はその他の組織は、人民法院に訴訟を提起し、法律に従ってその当事者に損害賠償を求めることができるが、本弁法の第8条の規定により免除される場合を除く。 第2項 禁止命令に定められた外国の法律に基づいて行われた判決または裁定が、中国国民、法人またはその他の組織に損害を与えた場合、中国国民、法人またはその他の組織は、法律に基づいて人民法院に訴訟を提起し、判決または裁定によって利益を得た当事者に損害賠償を求めることができる。 第3項 本条第1項および第2項に規定する当事者が、施行されている人民法院の判決または裁定を履行することを拒否する場合、中国国民、法人またはその他の組織は、人民法院に対して、法律に従って強制執行を申請することができる。 |
以 上
[1] (2021) 粤01民初1365号
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(ろく・はせる)
長島・大野・常松法律事務所東京オフィスパートナー。2006年東京大学法学部卒業。2008年東京大学法科大学院修了。2017年コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)。2018年から2019年まで中国大手法律事務所の中倫法律事務所(北京)に駐在。M&A等のコーポレート業務、競争法業務の他、在中日系企業の企業法務全般及び中国企業の対日投資に関する法務サポートを行なっている。
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