◇SH2776◇中国における司法のIT化 第3回「インターネット裁判所(3)」 川合正倫(2019/09/13)

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中国における司法のIT化

第3回 インターネット裁判所(3)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 川 合 正 倫

 

4 インターネット裁判所のオンライン訴訟プラットフォーム

 インターネット裁判所による案件審理の基本原則は、審理のすべてのプロセス(受理、送達、調停、証拠交換、開廷前の準備、開廷、判決の言渡し等)をオンライン上で行うこととされている[1]。これを実現するために、本規定では、インターネット裁判所によるオンライン訴訟プラットフォーム(以下、「訴訟PF」という。)を通じた訴訟行為の法的効力を認めている(5条)。各インターネット裁判所は、自らの訴訟PF [2]に利用方法を掲載しており、図表や動画等わかりやすい方法で訴訟プロセスを解説している。

 以下では、本規定の内容及び各インターネット裁判所における訴訟プロセスを踏まえて、インターネット裁判所の審理規則及び訴訟PFの利用方法を紹介する。

(1) 当事者身分の認証

 当事者が訴訟PFを通じて訴訟行為を実施する場合には、証明書・写真の照合、生体特徴識別又は国家統一身分認証プラットフォーム(構築中)での認証等オンライン上で認証を行い、訴訟PFの専用ユーザーアカウントを取得する(6条)。実務においては、自然人は身分証明書と顔認証をもって認証を行い、法人は営業許可証及び法定代表者の身分証明書をもって認証を行う。

 また、被告は、インターネット裁判所から案件関連番号が記載される携帯電話のショートメッセージやWechat[3]等のチャットアプリ等において通知を受領してから、原告と同様に訴訟PFにてアカウントを作成し、身分認証を経たうえ、訴訟に参加する。

(2) 受理

 原告は、訴訟PFを通じてオンラインで訴状等の資料を提出し、立件を申し立てる。インターネット裁判所は、原告から提出された資料を受領してから7日以内に処理しなければならない(7条)。

(3) 電子通達

 当事者の明示又は黙示の同意がある場合、インターネット裁判所は、中国審判プロセス情報公開サイト[4]、訴訟PF、携帯電話のSMS、FAX、Email、チャットアプリ等の電子的方式で訴訟文書や当事者提出の証拠等を送達することができる(15条)。判決文書についても、当事者にその権利義務を告知し、同意を得たうえ、電子送達が可能とされている。

(4) 電子証拠

 電子証拠とは、Email、電子データの交換、オンラインチャット記録、ブログ、SNS、携帯電話のショートメッセージ、電子署名、ドメイン等を通じて形成され、又は電子媒体に保存される情報をいう(民事訴訟法司法解釈116条2項)。本規定では、証拠を前者は紙等媒体の実物のある証拠をスキャン、撮影、転記等の方法で電子化した「オフライン証拠」、オンラインで形成される電子データである「オンライン証拠」に分類している(9条)。

 中国では、電子証拠に係わる包括的な規則が制定されておらず、関連する規定が複数の法令や司法解釈に散在している。また、電子証拠の認定に関する統一的な基準もないため、電子証拠認証の可否が裁判官の裁量に左右されることになりかねない点が問題視されている。この他にも、電子データの収集と保存が困難な場合があること、立証責任の分配が不公平になりうること、電子証拠の改ざんが容易であること等、電子証拠の利用には様々な問題が存在する。本規定は、電子証拠の収集及び真実性の認定に関して規定し、電子証拠に関する包括的な規則の制定に一歩近づいたという評価がある。

 本規定では電子証拠の提出について、当事者が自ら保有する電子データを訴訟PFにアップロードする方法(9条)とインターネット裁判所が直接にECプラットフォーム経営者、インターネットサービス提供者、関連国家機関に要請し、情報を訴訟PFにアップロードさせる方法(5条2項、9条)の2種類の方法が規定されている。通常の訴訟では、原告に立証責任があるが、被告が保有するデータにアクセスできないため電子証拠の収集が困難であるという場面が少なくない。これに対し、インターネット裁判所では、通常の訴訟と比較して、より緩やかに裁判所命令により被告に関連電子データを訴訟PFにアップロードさせることによって、立場の弱い消費者やインターネットサービス利用者が電子証拠を収集しやすくなり、立証が容易となるという評価がある。

 また、電子証拠の真実性について、通常の訴訟では、電子データを証拠として利用するためには、真実性を証明するために必要となる公証に要する時間やコストの問題があった。従来の公証手続は、公証人や公証機関がIT技術の専門知識がなく、電子データのソースコードにアクセスできない等の理由で、電子証拠に対して形式上の公証のみを行い、証明力が弱いといわれていた[5]。本規定では、当事者が電子データの真実性に対して異議を申し立てる場合、インターネット裁判所は証拠検証の状況に合わせて、特に以下の内容を審査したうえ、電子データの形成、収集、保存、伝送ルートの真実性を判断する(11条1項)。

  1. ① 電子データの形成、収集、保存、伝送に利用されるコンピュータシステム等のハードウェア、ソフトウェア環境が安全かつ信頼できるものか
  2. ② 電子データの形成の主体と時間が明確であるか、その内容が明確、客観的、的確であるか
  3. ③ 電子データの保存、保管の媒体が明確であるか、保管方法と手段が妥当であるか
  4. ④ 電子データの収集と固定の主体、器機と方法が信頼できるか、収集プロセスが再現できるか
  5. ⑤ 電子データの内容に増加、削除、修正、不完全等の状況があるか
  6. ⑥ 電子データが特定の形式を通じて検証できるか

 また、当事者が提出する電子データについて、電子署名、タイムスタンプ、ハッシュ値確認、ブロックチェーン等の証拠収集、固定及び改ざん防止技術手段、又は電子証拠収集・保存プラットフォームを通じて、その真実性を証明できれば、インターネット裁判所は証拠とし認める(11条2項)。既に企業や公証機関又はインターネット裁判所が構築する電子証拠収集・保存プラットフォームが多く存在し[6]、これら電子証拠プラットフォームはインターネット裁判所の管轄案件だけではなく、一般の契約紛争、交通事故認定、知的財産権侵害紛争、インターネット上の名誉毀損紛争等でも活用されている。

(5) オンライン開廷

 インターネット裁判所は、オンライン映像通信方式で開廷される。また、インターネット裁判所は、調停、証拠交換、開廷審理等のプロセスで音声識別技術を利用して電子調書を作成することができ、オンライン確認を経た電子調書は書面調書と同等の法的効力を有するとされている(20条)。

(4)につづく

*本シリーズは長島・大野・常松法律事務所の王雨薇中国弁護士と共同で執筆している。



[1] 例外として、一部の訴訟プロセスはオフラインにて行うことも認められる。

[2] 北京インターネット裁判所のオンライン訴訟プラットフォーム:
  https://www.bjinternetcourt.gov.cn/index.html

  杭州インターネット裁判所のオンライン訴訟プラットフォーム:
  https://www.netcourt.gov.cn/portal/main/domain/index.htm

  広州インターネット裁判所のオンライン訴訟プラットフォーム:
  https://www.gzinternetcourt.gov.cn/portal/main/domain/index.htm

[3] 中国の大手IT企業Tencent(テンセント)が提供するメッセンジャーアプリであり、2019年第一四半期報告によれば、中国版と海外版を合わせて2019年3月の月間アクティブユーザー数が11.12億に達している。

[4] https://splcgk.court.gov.cn/gzfwww/(同サイトを通じて、訴訟当事者が現在進行中の訴訟の進捗状況を確認することができる。)

[5]「インターネット裁判所による案件審理の司法解釈の理解と適用」、北京インターネット裁判所、2018年9月7日掲載記事。
 汪閩燕「電子証拠の形成と真実性の認定」法学2017年6号

[6] 例えば、北京インターネット裁判所のブロックチェーン技術を利用する電子証拠プラットフォーム(天秤チェーン)、杭州インターネット裁判所の電子証拠プラットフォーム、大手IT企業Baiduの電子証拠収集と鑑定、保存が可能なBaidu電子証拠プラットフォーム、福建省の司法鑑定センターの「存証雲」(Cunnar)等が挙げられる。

 

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