◇SH3166◇ベトナム:新競争法の施行細則~ようやく成立(1) 中川幹久(2020/05/27)

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ベトナム:新競争法の施行細則~ようやく成立(1)

 

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 中 川 幹 久

 

 ベトナムでは新しい競争法(法律第23/2018/QH14号。以下「新競争法」)が2018年6月に成立し、2019年7月1日に施行されているにもかかわらず、その施行細則が長らく存在しない状態が続いた。新競争法では、「著しく競争を制限する効果」がある場合に規制するなど、総じて、旧競争法に比べ、実質的な判断基準により規制の適否を判断するアプローチを随所に取り入れた。しかしながら、その運用指針となる施行細則が存在しなかったため、実務では規制の適否を判断するにあたって苦慮することが非常に多い状況が続いた。かかる状況の下、本年3月24日付けで新競争法の施行細則となる政令35/2020/NÐ-CP号(以下「政令35号」)がようやく成立し、本年5月15日に施行された。本稿では、政令35号に関し、新たに導入されたアプローチなど、特に実務的に関心が高いと思われる点について概説したい。

 

企業結合規制

 新競争法では、ベトナム競争法が外国企業にも適用されることが明確になったが、その結果、例えば、日本企業がベトナム国外で行う企業結合であっても、ベトナムに資産があったり、ベトナムで売上がある場合には、事前届出義務が課される可能性もあるため、日本企業がベトナム国外で行うM&Aなどでも検討を要することが多い。事前届出義務の懈怠を含め、企業結合規制に反する企業結合に対しては、企業結合企業の前事業年度の総売上の5%以下の罰金の他、事業ライセンスの取消、企業結合後の企業の分割、資産売却、持分売却、組織再編等の命令などの制裁も科されうるため、以下でご説明する新競争法上の企業結合規制について、政令35号がセーフハーバーの設定を含め一定の具体性がある基準を示した実務的な意味は大きい。

 旧競争法では、50%超の市場占有率を有することとなる企業結合は禁止され、30%以上50%以下の市場占有率を有することとなる場合には事前の届出義務が課されていた。新競争法では、「著しく競争を制限する効果」をもたらす企業結合は禁止する旨を規定する一方、国家競争委員会は、かかる「著しく競争を制限する効果」の評価と併せ、当該企業結合がもたらす「積極的な効果」の評価も勘案した上で、当該企業結合を禁止するか否かの最終的な判断を下すこととされている。事前の届出義務については、考慮すべき要素(すなわち、総資産、総売上、企業結合の取引価値、市場占有率)は新競争法上規定されているものの、その具体的な判断基準は規定されていない。

(1)禁止される場合

 政令35号では、企図された企業結合が「著しく競争を制限する効果」をもたらすか否かについて、以下の要素の一つ又は複数に基づいて判断することが定められている。

  1. ・ 企業結合の前後での、企業結合を企図する企業の関連市場における市場占有率の合計の変化
  2. ・ 企業結合の前後での、市場支配力の形成・強化の有無、企業間の協調行動の増加の有無
  3. ・ 競合企業の市場参入を阻害する目的での競争上の優位性が企業結合後に形成されるか否か
  4. ・ 製品や流通上の特性、財務力、ブランド力、技術、知的財産権等の観点から、競合企業との比較において、企業結合後の企業が著しい市場支配力を有することとなるリスクの有無
  5. ・ 想定される企業結合後の需要の変化、競合企業による供給の変化、サプライヤーからの仕入れ価格・仕入れ量・取引条件の変化、競合企業の協調リスク等を踏まえた、価格・利益率を引き上げる能力の有無
  6. ・ 当該取引分野における競争上の特性、企業結合前における企業結合を企図する企業の競争活動、市場参入障壁等を踏まえた、他社による市場参入を阻害する能力の有無

 他方で、政令35号では、企図された企業結合がもたらす「積極的な効果」については、以下の要素の一つ又は複数に基づいて判断することが定められている。

  1. ・ 国家戦略に沿った産業・科学技術の発展に対する積極的な効果として、具体的には、政府又は首相が承認した産業発展戦略に定められた目標と連携した経済効率性を促進する効果を有するか否か、また、コスト削減や品質の向上など消費者や社会の利益に資する事業効率性向上に向けた科学的進歩性・技術力改善の程度
  2. ・ 中小企業による市場参入の機会や中小企業がより好条件で参入する機会の提供の有無
  3. ・ 製造規模、国内消費及び輸出の拡大の観点から、国際市場におけるベトナム企業の競争力の強化に資するか否か

(2)事前の届出義務が課される場合

 政令35号では、以下のいずれかに該当する場合には、企業結合を企図する企業は、国家競争委員会に対し、企業結合前に届出を行わなければならない旨が定められている(なお、金融機関、保険会社及び証券会社については、これらとは異なる基準が定められている。)。ベトナム国外で行われる企業結合については、このうち(a)(b)及び(d)が適用される。

  1. (a)  企図された企業結合直前の事業年度における、当該企業又は当該企業が属する企業集団のベトナム市場における総資産が、3兆ベトナムドン(約140億円)以上
  2. (b)  企図された企業結合直前の事業年度における、当該企業又は当該企業が属する企業集団のベトナム市場における総売上額が、3兆ベトナムドン(約140億円)以上
  3. (c)  企業結合の取引価値が1兆ベトナムドン(約47億円)以上
  4. (d)  企図された企業結合直前の事業年度における、企業結合を企図する企業の関連市場における市場占有率の合計が20%以上

(3)セーフハーバー

 政令35号では、ハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)も取り入れたセーフハーバーが規定され、以下のいずれかに該当する場合には、当該企業結合は認められることが明記されている。

 水平型企業結合の場合

  1. ➢ 企業結合を企図する企業の関連市場における市場占有率の合計が20%未満
  2. ➢ 企業結合を企図する企業の関連市場における市場占有率の合計は20%以上であるが、企業結合後のHHIが1,800未満
  3. ➢ 企業結合を企図する企業の関連市場における市場占有率の合計は20%以上、企業結合後のHHIが1,800以上であるがHHI増分が100未満

 垂直型企業結合の場合

  1. ➢ 企業結合を企図する企業のそれぞれの関連市場における市場占有率が20%未満

つづく

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