ミャンマー:M&A取引を規律する法制度をめぐる近時の動向(前編)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 酒 井 嘉 彦
1. はじめに
ミャンマーでは、海外からの投資を誘致し、国内での企業活動を促進するための法的枠組みの整備や規制緩和が進められ、海外の企業や投資家にとってより魅力的な投資環境・事業環境を創出する努力が行われている。その中でも、近時、ミャンマー国内においてM&A取引を行う場合に注目すべき法制度にいくつか動きが見られるので、その概略を紹介する。なお、本稿は、長島・大野・常松法律事務所シンガポール・オフィスのWin Shwe Yi Htunミャンマー弁護士と共同で執筆している。
2. 新会社法の施行によるM&A手法への影響
ミャンマーにおけるM&A取引は、一般に、会社法及びその施行規則により規律されるところ、2018年8月1日にミャンマー新会社法(「新会社法」)が施行された。なお、新会社法の他、2017年4月から具体的運用が開始されたミャンマー新投資法(「投資法」)の適用を受けることや、業種毎に、個別法による規律及び外資規制が存在することにも留意を要する。
(1)外資会社の定義の変更に伴う外資規制の緩和
ミャンマー旧会社法(「旧会社法」)の下では、外国人又は外国企業が1株でも株式を保有する会社は、外資会社とされ、投資法上の外国投資家として扱われた上で、投資法上の内国投資家とは異なる外資規制を受けてきた。これに対して、新会社法では、外資会社が「外国人又は外国会社が直接又は間接に35%を超えて保有又は支配するミャンマーにおいて設立された会社」と新たに定義され、それ以外の会社は、100%ミャンマー国民により保有される会社と同様に、内資会社として分類されることとなった。
旧会社法 | 新会社法 | |
外資比率が35%を超える会社 |
外資会社 |
外資会社 |
外資が入っているものの、 その比率が35%以下の会社 |
外資会社 | 内資会社 |
内資100%の会社 |
内資会社 |
内資会社 |
新会社法の下においても、投資法における内国投資家と外国投資家の区分が、会社法における内資会社と外資会社の区分に連動するという建付に変更は生じていない。したがって、上記の外資会社の定義の変更に伴い、外資比率が35%以下の会社(新会社法上の内資会社)は、投資法上、内国投資家として扱われ、外国投資家にのみ適用される規制の適用を受けなくなることになった。すなわち、これまで、100%ミャンマー国民により保有される会社にのみ開放されていた一定の投資活動(例えば、床面積が929平方メートル未満のミニマート又はコンビニエンスストアの営業、ツアーガイド業、中小規模の鉱物業等の12業種)について、外国人又は外国企業も、35%以下のマイノリティ投資家としてではあっても参入することができるようになり、後編において述べる内資会社の株式の取得に関する規制緩和とあいまって、規制業種への進出の道が大きく開かれることとなった。
(後編)につづく