2020年5月28日号
タイ:新型コロナウイルスの影響まとめ(速報)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 佐々木 将平
はじめに
緊急事態宣言の全面解除により、国内の経済活動は今後段階的に再開される見通しとなりましたが、政府・自治体からは引き続き感染拡大防止に向けた企業努力の継続が要請されており、国境を越えた移動については依然として厳しい制限が課されています。海外でも、欧米を中心に外出自粛等の対策措置の段階的緩和が開始される一方で、大型の倒産案件は増加傾向にあり、世界経済へのダメージの長期化・深刻化は避けられない見通しです。
本記事では速報ベースで各国の方針や影響拡大状況の概要につきお知らせ致します。なお、本記事は感染拡大が続く間、不定期に配信していきたいと思いますが、同感染症の拡大状況については日々状況が変化している中、本記事の内容がその後変更・更新されている可能性については十分ご留意の上参照ください。本記事の内容は、特段記載のない限り、日本時間2020年5月27日夜時点で判明している情報に基づいています。
全体概況 死亡者57人、感染者数(累計):3,045人(5月26日現在) 3月中旬から4月にかけて急速に感染が広がったが、4月末以降、新規感染者数がほぼ一桁又は0の日が続いている。非常事態宣言の適用は6月30日まで延長され、外国人のタイ向け渡航が原則禁止されている状況は続いているが、その他の具体的な措置については段階的に緩和が進められており、飲食店、ショッピングモール、理髪店・美容院、公園、運動場、ゴルフ場等の営業が再開されている。 |
主な政府発表
- ・ 非常事態宣言の適用期間の6月30日までの再延長(5月26日付け閣議決定)。
- ・ 非常事態宣言に基づく措置の一部緩和(5月15日付け非常事態令第9条に基づく決定事項第7号)。5月1日付けの緩和措置に続く第二弾で、5月17日以降、以下の措置が適用されている。
- – 夜間外出禁止時間の短縮(従前は午後10時から午前4時までであったが、午後11時から午前4時までとされた。)
- – 飲食店の再開(パブ等は除く。酒類の提供は禁止。)
- – ショッピングモールの再開(営業時間は午後8時まで。)
- – ホテル内の会議室・会議場の再開(参加人数を制限し、理事会や株主総会、単一組織の参加者による会議・研修・セミナーに限る。)
- – 運動・レクリエーション活動の緩和(接触を伴う運動競技、器具を用いるフィットネスセンターでの運動等を除く。)
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・ 新型コロナウイルス追跡アプリケーション(タイ・チャナ)の発表。アプリを導入した事業者に対してQRコードが割り当てられ、各消費者が施設を訪れた際にQRコードを読み取り、入店・退店情報を登録する仕組み。政府による感染の疑いのある者の行動把握を可能にするとともに、事業者側でも入店者数の把握が可能となる。
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・ 非常事態宣言に基づく措置の緩和に伴う営業再開に関するガイドライン(タイ政府及びバンコク都等。)
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・ タイ向け国際旅客便の飛行禁止措置の再延長(5月16日付け。6月30日まで。)
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・ 3月26日以降にビザの滞在許可の期限が到来する全ての外国人について、滞在期間が4月30日まで自動的に延長されていたが、さらに7月末までの自動延長が承認された。また、入国管理局への90日ごとの居住報告(90日レポート)の免除も7月末まで延長される。
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・ 労働者保護法に基づく5月8日付け労働省布告により、非常事態宣言中のストライキ及びロックアウトが禁じられた(労働者保護法第25条及び第36条に基づく措置。)。同布告施行前に発生したストライキ及びロックアウトは中止し、通常の勤務体制に戻すことが求められている。また、労使間で合意できない労働争議が発生した場合には、労働関係委員会により審理・裁定される。
渡航情報
- ・ 国際旅客便のタイへの飛行を禁じる措置が6月30日まで延期されており、外国人の入国は原則として認められていない。
- ・ 労働許可証の保有者がタイに入国する際の必要書類として、健康証明書(Fit-to-Fly、搭乗に適した体調であることの証明書。)及び出発国のタイ大使館又はタイ総領事館が発行したタイへの入国許可証が必要となるとされている。また、タイ入国後は、政府の指定する施設において自己負担で14日間の隔離措置を受けることが求められている。
その他
- ・ 2020年5月27日に全面施行となる予定であった個人情報保護法について、2020年5月21日付勅令により、事実上全面的に施行が延期された。新型コロナウイルスの感染拡大や法施行に向けた準備が十分でない状況に鑑みた措置で、延期後の全面施行日は2021年6月1日となる。この勅令では、特定の業種を対象として、事業者側の義務に関する規定(第2章から7章まで及び95条)の適用を免除する形がとられているが、非常に幅広い業種が列挙されており、事実上は、業種を問わず全面的に施行を延期するものと言える。なお、当該勅令においては、情報管理者(個人情報を収集、利用又は開示する者)は、デジタル経済社会省令(現時点では未制定。)に基づき個人情報のセキュリティを確保する義務を負う旨規定されているため、今後、省令が定められた場合には、2021年5月以前であっても、省令上の義務を遵守する必要がある点には注意が必要である。
(ささき・しょうへい)
長島・大野・常松法律事務所バンコクオフィス代表。2005年東京大学法学部卒業。2011年 University of Southern California Gould School of Law 卒業(LL.M.)。2011年9月からの約2年半にわたるサイアムプレミアインターナショナル法律事務所(バンコク)への出向経験を生かし、日本企業のタイ進出及びM&Aのサポートのほか、在タイ日系企業の企業法務全般にわたる支援を行っている。タイの周辺国における投資案件に関する助言も手掛けている。
長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/
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