◇SH2900◇日本経済再生本部(未来投資会議)、デジタル市場競争本部(デジタル市場競争会議ワーキンググループ)、デジタル市場のルール整備等について議論 大櫛健一(2019/11/22)

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日本経済再生本部(未来投資会議)、デジタル市場競争本部(デジタル市場競争会議ワーキンググループ)、
デジタル市場のルール整備等について議論

岩田合同法律事務所

弁護士 大 櫛 健 一

 

 令和元年11月12日、内閣総理大臣が議長を務める第33回未来投資会議[1]が開催され、デジタル市場のルール整備等について議論された。

 未来投資会議では、令和元年9月19日に開催された第30回以降、デジタル市場のルール整備について重点的に議論されており、本稿ではその概略を紹介する。

 

 デジタル市場のルール整備は、主にデジタル市場競争会議ワーキンググループ(以下「WG」という。)[2]にて検討が進められている。同月8日に開催された第1回を皮切りに、同年11月12日までに実に4回を重ねており、短期間のうちに集中的な検討が行われていることが見て取れる。論点のフレームワークは、概ね以下表のとおりである。

 

令和元年10月8日第1回WG配布資料より

 

 これらのうち、企業結合審査と優越的地位の濫用規制については、既に存在している独占禁止法の運用・執行によるルール整備を想定したものである。公正取引委員会は、企業結合審査に関する運用指針や対応方針の改訂案[3]、優越的地位の濫用規制に関するガイドライン案[4]などを公表し、パブリックコメントの手続きに付すなどしており、既に具体化が進められている。

 また、個人情報保護法の見直しは、個人情報の取扱いに関する不安の高まり、保護と利用のバランスの必要性、内外事業者のイコールフッティングの確保などの観点から、個人情報の消去・利用停止請求に関して個人の権利を強化するとともに、他方では、パーソナルデータの利活用方法の柔軟化(個人情報と匿名加工情報の中間的な取扱いを認めるなど)するなどの法改正によるルール整備を意図したものである。

 これら既存の法令や指針等の改正に加え、デジタル・プラットフォーマー取引透明化法(仮称。以下「DP透明化法」という。)の新規立法によるルール整備が検討されている。

 デジタル・プラットフォーム(以下「DP」という。)を提供する事業者(以下「DP事業者」という。)は、中小企業・ベンチャーにとって、市場アクセスの可能性を飛躍的に高める一方で、利用事業者との取引において、(a) 契約条件やルールの一方的押しつけ、(b) サービスの押しつけや過剰なコスト負担、(c) データへのアクセスの過度の制限などの問題が生じるおそれがある。このような取引実態が不透明となるおそれに対応しつつ、イノベーションを阻害しない形で可能な限り自主性を尊重するためのルールとして、DP透明化法が議論されている。

 WGでは、DP透明化法の論点として、規律の対象についての考え方(論点①)、取引の透明性・公正性の確保についての考え方(論点②)、市場の調査についての考え方(論点③)を挙げるとともに、ヤフー、楽天、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンといったDP事業者からのヒアリングを行っている(各論点の具体的な内容は以下表のとおり)。

  項目 論点の具体的な内容






DPの要件 法律の対象となるDPについては、DPが急速に発展し重要な基盤となる理由として指摘されている特徴を踏まえて要件を検討していくべきではないか。
特定DP DPのうち、特別な規律の対象となるもの(以下「特定DP」という。)は、各種調査[5]によって取引実態が明らかとなっているオンラインモール及びアプリストアのうち、規模の大きいものを当面の対象とする方向でよいか。



 

























取引条件の開示 例えばDP事業者に対して、以下のような事項を開示させることが有効か。 ・ 取引拒絶(アカウント停止等)をする場合にあらかじめ通知をする旨とその方法 ・ ストア内検索/ランキングの表示順を決定する主要な要素 ・ DP事業者が利用者に関するデータを取得・使用する場合、その内容及び取得・使用に関する条件 ・ 問合せ、苦情等への対応に関する事項(窓口、処理フロー等)
取引環境改善の促進 A 自主的な取引環境改善 特定DPを提供するDP事業者に対する法律による強制は最小限とする一方で、特定DPの運用状況について自己評価を求め、不断の改善を求めることとしてはどうか。 B 取引における遵守事項 例えばDP事業者による以下のような行為に対応する規定を設けるべきではないか。 <対象となりうる行為(例)> ・ 取引拒絶(出品拒否、アカウント停止等)などにより、競争関係にある事業者のサービス継続を困難とすること ・ 新たな負担を課すなど、利用者が不利益になるような内容に契約を一方的に変更する、又は契約にない運用を押しつけること 等
モニタリング・レビュー DP事業者による自己評価を求めた取組みについて、運営状況の定期的な報告・公表とモニタリング・レビューを行う仕組みを整備してはどうか。



 


調
  特定DPであるか否かを問わず、DPに対する実態調査等を行うこととし、必要に応じて特定DPの追加・見直し等の施策の検討に活かせるような体制を整えておく必要はあるか。

令和元年11月5日第3回WG配布資料を加工

 

 WGでの検討は、冒頭に掲記した令和元年11月12日の第33回未来投資会議でも取り上げられ、個人情報保護法改正法案及びDP透明化法案は、次期通常国会への提出が予定されている。さらに、同会議では、議長である内閣総理大臣から、関係の法制整備について、デジタル市場競争本部において年内に具体的な結論を得て、早期に法案の提出を行うよう指示があったとされる。

 以上のとおり、デジタル市場のルール整備は、我が国政府の方針として非常に強力かつスピーディーに検討及び策定が進められていることが見て取れる。いずれのルール整備についても、我が国で活動しているDP事業者のみならず、そのDPを利用する事業者や消費者に対しても影響があり得る法令の制定及び改正等が予定されている。法令遵守の観点に留まらず、我が国におけるデジタル市場の活性化を見通す観点からも今後の動向は注視すべきであろう。

以上



[1] 未来投資会議は、内閣に設置された日本経済再生本部の平成28年9月9日付決定に基づき、成長戦略と構造改革の加速化を図るため、官民対話を発展的に統合した成長戦略の司令塔として開催されている会議である。

[2] 令和元年9月27日付閣議決定により内閣に設置されたデジタル市場競争本部の下、デジタル市場競争会議が開催されており、同会議による同年10月4日付決定により、WGが開催されている。

 

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