消費者委員会、テクノロジー社会における割賦販売法制のあり方についての報告書
岩田合同法律事務所
弁護士 鈴 木 実 里
1 はじめに
本年1月24日、第314回消費者委員会本会議において、産業構造審議会商務流通情報分科会割賦販売小委員会の報告書[1](当面の制度化に向けた整理と今後の課題~テクノロジー社会における割賦販売法制のあり方~)(以下「本報告書」という。)による報告が行われた[2]。
本稿では、かかる報告書のうち、リスクベース・アプローチ(本報告書6頁以下)と技術・データを活用した与信審査(本報告書12頁以下)について紹介する。
2 割賦販売法制を巡る環境変化
テクノロジーの進化に伴い、従来取得できなかった膨大なデータが取得できるようになるとともに、新たにAI等の高度な分析手法が登場し、決済分野も含めこれらを事業活動の中で活用することが可能となっている。割賦販売法制においても、こうした技術革新を適切に取り込むことで、より利便性の高い消費者サービスの提供とより高度で精緻な消費者保護が実現されることが期待される。
その一方で、これらの新たな技術は、既存の規制体系では捉えきれていないことから、適切な消費者保護を前提に、技術革新を適切に取り込んでいくための柔軟な規制の枠組みが求められている[3]。
3 リスクベース・アプローチ
従来、クレジットカード決済は、比較的高額な商品等(極度額は数十万円)の購入が可能なサービス設計のものが主流であったが、技術進化による膨大なデータの収集・解析等を通じて、少額な範囲で高度な信用リスク管理手法を活用した新たなサービス(少額・低リスクの後払いサービス)の展開が可能になった。少額・低リスクの後払いサービスの特徴としては、極度額が少額に抑えられている限り、支払が過度に困難な債務を負うことは通常想定しにくいこと、技術の進化により、取引履歴等のビックデータを収集・分析することが可能となり、それに基づくより高度な与信リスク管理が可能となっていることが挙げられる。
しかし、現在の割賦販売法における多くの規制においては、2か月超の後払い及びリボ払いのサービスに対し、事業規模やリスクによらず、従来型の比較的高額なサービスを想定した重い規制が一律に課されている(一部の民事ルール等を除く)。
条文(割賦販売法) |
規制項目 |
概要 |
第30条の2 |
支払可能見込額調査 |
年収、債務の支払状況、生活維持費等を調査(一定の場合を除く) |
第30条の2の4 |
契約解除等の制限 |
20日以上の相当な期間を定めて書面で催告 |
第33条の2第1項4号 |
純資産額(登録拒否要件) |
資産-負債≧資本金又は出資額×100分の90 |
これに対し、本報告書は、割賦販売法においても、一律の規制ではなく、リスクに応じ柔軟な規制を行うリスクベース・アプローチの考え方を導入することが適当であるとして、少額・低リスクの後払いサービスを提供する事業者を新たに「少額包括信用購入あっせん業者(仮称)」として新設し、純資産要件等の登録基準、契約解除の催告期間・催告書面等の見直しを行うことが適切であると考えられる旨、提言している[4]。
4 技術・データを活用した与信審査
現行の割賦販売法における支払可能見込額調査では、調査事項、調査方法(指定信用情報機関の信用情報の使用義務等)及び算定方法が一律に規定されている(割賦販売法第30条の2)。
しかし、クレジットカード会社では、上記の割賦販売法の支払可能見込額調査は行いつつも、別途、技術を活用しつつ膨大な実績データなどに基づき、より緻密なスコアリングモデルによる与信審査を行い、これを重要な判断要素としている企業もある。また、レンディング分野においては、ビックデータ・AI等の技術を用いた新たな与信審査手法が数多く出現し、与信の精緻化が進んでいる。
こうしたより精緻な与信審査を促進することは、より安全で安心なクレジットカード利用環境を整備する上で、有効な手段である。
そこで、本報告書では、過剰与信を防止するための与信審査における手法について、割賦販売法においても「性能規定」の考え方を導入し、技術やデータを活用して支払可能な能力を判断できる場合には、これを従来の支払可能見込額調査に代えることができるとする、従来の規制の見直しを行うことが考えられると結論付けている[5]。
5 おわりに
技術の進化により、新たな決済サービス等が提供されており、利用者の利便性の向上と安全性の確保を前提として、割賦販売法をはじめとした決済関連の法制の見直しが議論されている。新たな決済サービス等の導入を検討する際には、最新の法規制を確認することが重要であり、今後の議論を注視していく必要がある。