インド:下院総選挙と2014年度(2014年4月~2015年3月)予算案の発表
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 山 本 匡
1 議会下院総選挙
インドでは、2014年4月~5月に議会下院(Lok Sabha)の総選挙が行われた。選挙前の下馬評では、ナレンドラ・モディ(Narendra Modi)氏率いる人民党(Bharatiya Janata Party)(BJP)がかなり優勢であるものの、単独過半数までは届かず、BJPは連立を組める相手が限られているために政権交代が起こるかどうか予断を許さない、といわれていた。
当時の政権は、国民会議派(Indian National Congress)を中心とした、マンモハン・シン(Manmohan Singh)首相率いる連立政権であった。同政権の下で、外国直接投資規制の緩和を含む経済改革や、一時は10%に迫る経済成長率を実現したが、ここ数年、経済成長の低迷やインフレ、閣僚の汚職疑惑等に苦しんでいた。
選挙結果は、BJPが当初の予想を上回る圧勝を納め、単独過半数を獲得した。モディ氏はグジャラート(Gujarat)州知事(当時)として企業誘致や同州の経済発展に手腕を発揮しており、同氏に対する期待が高かったこと、汚職等に対して十分な自浄作用を発揮することができなかった国民会議派政権に対する批判・失望が強かったこと等がBJP勝利の理由として挙げられよう。
いずれにしても総選挙に勝利したモディ氏は5月に組閣し、約10年ぶりの政権交代が行われた。
2 2014年度(2014年4月~2015年3月)の予算案
2014年7月10日、新政権は初の予算案、2014年度(2014年4月~2015年3月)予算案を発表した。
新予算案では、インフラ整備や産業育成に重点が置かれたようである。基幹道路や鉄道、港、ガスパイプライン等の整備のための多額の投資が計上されている。また、財政赤字の圧縮、現行の煩雑な中央販売税(Central Sales Tax)や州付加価値税(Value Added Tax)等の間接税に代わる全国一律の物品・サービス税(Goods and Services Tax)に関する年内合意目標にも触れられている。総体的には大幅な制度変更はなかった模様であるが、経済成長復活への足掛かりとなることが期待される。
筆者は以下の2点に特に注目した。
① 企業の社会的活動(Corporate Social Responsibility)
インドの新会社法(Companies Act, 2013)の施行により、純資産50億ルピー以上、売上高100億ルピー以上又は純利益5,000万ルピー以上のいずれかを満たすインドの会社は、直近3事業年度の平均純利益の2%以上を、いわゆるCSR活動のために支出しなければならないこととなった。また、インド国内に支店又はプロジェクト・オフィスを有する外国企業も、この基準に該当すればインド国内でCSR支出を行わなければならない。CSRを法的な義務とする法制は、世界的に見ても稀な法制ではなかろうか。
このCSR支出の税務上の取扱いにつき、新予算案により損金不算入となった。CSRに該当するような活動は、本来的には政府の支出となるようなもので、これを民間企業に義務的に支出させておきながら損金不算入というのは不思議な印象であるが、税制がそうなる以上致し方がない。
② 保険会社に対する投資上限の緩和
インドの保険会社に対する外国直接投資は、現在、26%を限度として認められている。従来から、この投資上限の緩和に対するインド国内外からの要望があったが、AIGの破綻の影響等もあり、実現していなかった。
新予算案により、投資上限の緩和が言及されている。7月24日付ニュース報道によると、投資上限を49%まで緩和する保険業法の改正法案が閣議で承認されたとのことである。しかしながら、経営はインド側が支配する等の規制が付されているとのことである。7月24日現在、法案の詳細は不明であるが、規制内容によっては既存の投資に影響することもあり得るため、どのような条件が付されているのか注視する必要がある。