◇SH0375◇インドネシア:非居住役員の就労ビザ取得義務化へ 福井信雄(2015/07/21)

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インドネシア:非居住役員の就労ビザ取得義務化へ

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 福井信雄

 インドネシア労働省は6月29日付で、外国人労働者利用手順に関する労働移住大臣規則2013年第12号(以下、「旧規則」という。)の改正規則となる労働大臣規則2015年第16号(以下、「新規則」という。)を制定し、即日施行した。本稿では、非居住役員の就労ビザ取得の義務化に関する改正を中心に新規則を概観する。

1.非居住取締役・コミサリスの就労ビザの取得義務

 新規則第37条第2項において、非居住取締役・コミサリスの就労ビザの取得が義務化された。新規則における改正点のなかでも最も重要な改正点である。昨年よりインドネシアの現地法人の取締役・コミサリスに就任している非居住外国人についても就労ビザを取得するよう現地法人に対して指導がなされてきたが、必ずしも法的な根拠が明らかではなく、各社対応はまちまちであった。今回の立法によって非居住の取締役・コミサリスの就労ビザの取得が明文で義務づけられたことにより、非居住の取締役・コミサリスを置いている現地法人については何らかの対応を迫られることになったと言える。

 考えられる選択肢としては、①取締役・コミサリスともに現地駐在の日本人又はローカルスタッフに切り替える、②非居住の取締役・コミサリスのポストを廃止し、役員の人数を純減させる、③非居住のまま取締役・コミサリスの就労ビザを取得する、といった対応であろう。①については、社内人事政策上容易ではないと思われるし、②については特に合弁の形態で事業を行っている場合には、コントロールの観点から株式割合に応じた役員数を維持しておく必要があるため、単純に人数を減らすことはできないであろう。③については非居住のまま就労ビザを取得することで次に述べる納税の問題が懸念事項になると思われる。いずれの対応策も難点があると思われるが、新規則への対応を可及的速やかに実行する必要があろう。

2.外国人労働者の要件

 では、上記③の方法を採用する前提で、非居住のまま就労ビザを申請する場合、どのような要件を満たす必要があるだろうか。新規則では、インドネシア法人が日本人を含む外国人を雇用する場合の要件として、以下のとおり定めている。

  1. ① 就任する役職に応じた学歴を有していること。
  2. ② 就任する役職に応じた能力を有することの証書を保有していること、又は5年以上の経験を有していること。
  3. ③ インドネシア人に対して知識・技術の伝承を行うことについての誓約書を提出していること。
  4. ④ 6ヶ月を超えて勤務している外国人労働者は、納税者番号(NPWP)を保有していること及び国家社会保障制度に加入していること。
  5. ⑤ インドネシアの保険に加入していること。 

 旧規則上は、上記以外にインドネシア語の能力を有していることという要件も課せられており、就労ビザの発給に際してインドネシア語の試験が行われることが計画されていたが、結局実施は見送られ新規則では法律上の要件からも除外されたことから、この点についての懸念は解消されたと評価できよう。

 他方、新規則において特に非居住を前提として就労ビザを取得する場合に問題になりそうなのが、6ヶ月を超えて勤務している外国人労働者は、④の納税者番号を取得していなければならないという要件である。仮にこの「勤務している」ということの意味が「就労ビザ(IMTA)を取得している」ということだとすると、非居住でありながら納税者番号を取得しなければならず、ひとたび納税者番号を取得すると、事実上インドネシア国内での納税の問題が生じ得る。日本インドネシア間の租税条約においては双方の国で居住者に該当する者については、両国間の合意によりいずれの国の居住者とみなすかについて定めることとされているものの、この点どのような結論になるのか現段階では予測が難しい。取りあえず最初6ヶ月間については納税者番号の取得義務は課されていないことから、非居住の役員に関してもとりあえず就労ビザのみ取得しておき6ヶ月後にそれ以降の対応を検討するといった対応も考えられる。いずれにしても現時点ではまだ新規則に関する情報が十分とは言えないため、引き続き注視していく必要がある。

 

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