インドネシア:オンライン申請システムへの段階的移行
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 福 井 信 雄
外国企業が新興国へ投資を行う際に、投資手続を開始してからどの程度の期間で事業を実際に開始できるかという時間的な要素は、新興国に対する投資判断に際しては重要な検討項目であろう。特に新興国では外国投資に対して様々な規制を課しているのが一般的であり、規制が厳しいほど許認可の手続にも時間を要し、その結果事業開始までに長い時間がかかることになる。投資を受け入れる新興国の側に立てば、かかる許認可手続をできるだけ簡素化し、かつ外国投資家にとって手続の流れが見えやすい制度にすることで、外国投資を促進する効果が期待できると言えよう。
インドネシアにおいては、従来から外国資本による投資を監督する機関として投資調整庁(通称BKPM)という機関が置かれている。それにもかかわらず、インドネシアの許認可手続には、とにかく時間がかかる、担当官によって見解が違う、相談や申請が窓口に行かないと受け付けられない、他省庁との連携が取れていない、といった不満が聞かれ、外国投資家から見て決して利用しやすい投資窓口になっているとは言えない状況が長く続いていた。
外国投資家と普段接する機会の少ない省庁においては、かかる批判が未だに妥当するところが多い印象を受けているが、投資調整庁に関しては、徐々に改善の動きがとられている。2009年に投資分野のワンストップサービスの実施に関する大統領令(2009年第27号)を施行し、許認可手続を可能な限り投資調整庁に一元化するための法整備を行い、横の連携を向上させたことで、現在では多くの事業分野で投資調整庁での手続のみで投資許認可手続を完了させられるようになった。
これに加えて、近年はオンライン申請システムが段階的に導入されている。2012年には申請の審査状況をオンラインで確認できるトラッキング(追跡)システムが導入され、2014年6月からは投資原則許可のオンライン申請が義務付けられた。さらに現在、全ての外国資本企業(インドネシアで外国資本が独資又はインドネシア資本との合弁で設立した株式会社)は投資調整庁の電子システム上に自社の電子フォルダを新規に作成し、そのフォルダ内に自社の定款、各種許認可及び会社登記情報等を保存することが義務づけられた。投資調整庁の電子システムへのアクセス申請を未だ行っていない外国資本企業は、電子フォルダを作成する前にまずは電子システムへのアクセスのための申請を行う必要がある。その上で電子フォルダの作成を行うことになるが、投資調整庁は、2014年10月1日以降、かかる電子フォルダを作成していない外国資本企業からのいかなる新規の許認可申請も受け付けないとしているため、かかる手続を行っていない企業は早急に対応が求められる。(ただし、罰則規定は特に置かれていない。)2016年には窓口での申請受付を全廃し、全ての申請がオンラインに一元化されることが予定されているとのことであり、外国企業にとっては歓迎すべき方向に改善されつつあると言えよう。
(ふくい・のぶお)
2001年 東京大学法学部卒業。 2003年 弁護士登録(第一東京弁護士会)。 2009年 Duke University School of Law卒業(LL.M. )。 2009年~2010年 Haynes and Boone LLP(Dallas)勤務。 2010年~2013年10月 Widyawan & Partners(Jakarta)勤務。 2013年11月~長島・大野・常松法律事務所 シンガポール・オフィス勤務。
現在はシンガポールを拠点とし、インドネシアを中心とする東南アジア各国への日本企業の事業進出や現地企業の買収、既進出企業の現地でのオペレーションに伴う法務アドバイスを行っている。
長島・大野・常松法律事務所 www.noandt.com
長島・大野・常松法律事務所は、弁護士339 名(2014 年6月1 日現在、外国弁護士13 名を含む。)が所属する日本最大級の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野に対応できるワンストップファームとして、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。
東京オフィスにおいてアジア法務を取り扱う「中国プラクティスグループ(CPG)」及び「アジアプラクティスグループ(APG)」、並びにアジアプラクティスの現地拠点であるシンガポール・オフィス、バンコク・オフィス、ホーチミン・オフィス、上海オフィス(2014 年秋開設予定)及びアジアの他の主要な都市に駐在する当事務所の日本人弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携・人的交流を含めた長年の協力関係も活かして、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を効率的に支援する体制を整えております。
詳しくは、こちらをご覧ください。