シンガポール:ハーグ管轄合意条約の批准
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 青 木 大
2016年6月2日、シンガポールはハーグ管轄合意条約(Hague Convention on Choice of Court Agreements)を批准した。同条約はシンガポールにおいて2016年10月1日から発効する。
なお、これに先立つ2016年4月14日、ハーグ管轄合意条約の批准のための国内整備法である管轄合意法(Choice of Court Agreement Act 2016)がシンガポール国会において成立していたところである。
ハーグ管轄合意条約は、国際的な民事・商事事案に関する締約国の裁判所を指定する専属的裁判管轄合意について、他の締約国の裁判所は原則としてそれを妨訴抗弁として認め、また、かかる管轄合意に基づき締約国の裁判所で下された判決については、他の締約国はその承認及び執行を原則として認めなければならないとするものである。
ハーグ管轄合意条約は、2005年6月30日にハーグ国際私法会議において採択され、2015年10月1日に発効した。現在の締約国は、デンマークを除くEU加盟国及びメキシコであり、シンガポールはこれらに次ぐ批准国となる。また、米国及びウクライナが、批准には至っていないものの既に署名済みである。
国際仲裁に関しては、ある国で下された仲裁判断の他国における執行可能性は世界150ヵ国以上で批准されているニューヨーク条約により相当程度担保されているが、ハーグ管轄合意条約は裁判・判決に関し同様の枠組みを提供しようとするものである。
ハーグ管轄合意条約の批准により、シンガポール裁判所を指定する専属的管轄合意をしておけば、それに基づく同国の裁判所の判決の他の締約国(特に欧州各国)での執行が確保され、クロスボーダー紛争の解決地としてのシンガポールの魅力を増すものとなる。
シンガポールは、国際仲裁の分野において既に一定の国際的な評価を受け、同国以外の当事者間の紛争の仲裁地として実務上選択されるようになっているが、2015年1月にクロスボーダー紛争解決に特化したシンガポール国際商事裁判所(SICC)を設立し、中立的な裁判地としても名乗りを挙げたところである。
ハーグ管轄合意条約の批准は、SICCの最大の課題とされていた判決の執行可能性を高めることになり、日本の当事者にとっても、特に欧州各国の当事者との間の国際取引におけるSICC管轄合意条項の導入が、紛争解決条項として有力な候補となってくるものと考えられる。