ベトナム:労働法改正の最新動向②
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 井 上 皓 子
3.試用期間
草案では、試用期間についての規定が全般的に改正されることが提案されている。
現行法においては、労働契約とは別に試用契約を締結することが前提とされており、試用期間での業務が満足のいくものであった場合は、期間満了後に新たに労働契約を締結するものとされていた。そのため、実務上、試用期間の満了と共に、本契約を締結せず雇用関係を終了することも多く見られた(現行法26条)。
これに対し、草案では、現行法の枠組みを維持する案の他に、労働契約の中で試用期間について規定し、試用期間満了後は特に新たに契約を締結することなく、自動的に本契約に移行するという別案が提示されている(草案24条オプション1)。このオプションが選択された場合に、試用期間満了時に雇用関係を終了することのできる要件は特に定められていない。したがって、使用者が、試用期間満了後、本契約に移行することなく雇用関係を終了させるためには、試用期間中に、労働者が試用期間に関する規定に定められた要件を充足していないことを理由とし、かつ1勤務日前までに通知することにより解除の手続きを取る必要がある(草案27条オプション1第2項)。試用期間の翌日も引き続き業務に従事している場合は、本契約に移行したものとみなされるため(草案27条オプション1第1項)、その後は、通常の解雇の手続きを経なければ解雇することができない。
「労働者が試用期間に関する規定に定められた要件を充足していない」ことは、現行法の「試用期間での業務が満足のいくものである」ことを裏側から規定しているに過ぎないため、理論上は大きな変更はないように思われる。しかし、試用期間満了後の雇用関係の終了について、特に手続きは不要とするか(現行法)、解除の手続きを行うことが必要となるか(草案)の違いは事実上大きく、現在のように、試用期間満了と共に雇用関係を終了することは事実上難しくなる可能性があり、実務に与える影響は小さくないように思われる。なお、このオプションでは、上述のとおり、試用期間中の解約についても、従前とは異なり1勤務日前までの事前の通知が要求されている。
試用期間の長さは、現行法では大卒程度以上の専門的知識・技能が要求される業務については60日、技術労働者等については30日、その他は6勤務日とされている(現行法27条)。草案では、これらの他に、管理者という新たなカテゴリーが追加され、これについては6か月の試用期間を認めている(草案25条)。なお、一つ前の草案では、大卒程度以上の職について、試用期間を現行法より延長した90日まで認める案が提案されていたが、最新草案ではその旨の規定が削除された。
4.パートタイム労働者の待遇
現行法では、フルタイムでない労働者について、機会均等、差別の禁止等が一般的に謳われている(現行法34条)。草案では、給与、賞与、福利厚生、有給休暇等の具体的な項目が、フルタイム労働者と労働時間の割合に比して平等な待遇を与えることが要求されている(草案32条4項)。現行法では一般的な義務に留まっていたため、現在、賞与や正社員同等の福利厚生をパートタイマーに与えるといった具体的な措置を採っている使用者は多くないように思われ、これらが義務付けられた場合には、実務への影響は小さくないように思われる。
③につづく