◇SH0183◇企業法務よしなしごと―ある企業法務人の蹣跚50 平田政和(2015/01/13)

そのほか法務組織運営、法務業界

(第50号)

企業法務よしなしごと

・・・ある企業法務人の蹣跚(まんさん)・・・

 

平 田 政 和

 

Ⅳ.Seniorのために・・・将来を見据えよう(その13)

【社内LANと法務部】

 

 現在のIT社会において、ほとんどの会社では社内LANシステムが構築され、情報伝達や社員教育に活用されている。

 連絡や通知をすべき文書、あるいは業務上の留意点・注意事項などにつき原稿を完成しさえすれば、マウスを数回クリックするだけで必要とされる部署や対象者に簡単に送れる。

 しかし、活用に当たって留意しておかなければならない点もある。古い人間である私だからそう感じるのだろうが、コンピューター画面で、論点が複数にわたる文書や長文の文書を素早く読み、誤りなく理解することはとても難しい。画面が数頁以上の文書では特にそのように感じる。

 私も過去に社内LANシステムを利用して、いろんな目的で、数多くの情報を発信してきたが、一つの思い出を書く。

 企業グループ内の中心的子会社で新しく法務審査部門が組織され、私がその責任者として赴任した時のことである。

 エンジニアリングとエレクトロニクスを事業の中心とした会社で、技術者集団の会社であるだけに社内LANの活用は進んでいた。従業員全員が人事異動を含めた社報を始めとして、重要な連絡を含めほとんど全ての連絡は社内LANによることを理解していた。

 この環境を使わない手はない、この環境を使って新しく設置された法務審査部門をPRしよう、法務審査部門の顧客、法務審査部門にシンパシーを感じてくれる人を増やそう、と思った。

 法務審査部門業務分掌規定やその担当業務、担当者をPRすることは意味が無いとは言わないが、ちゃんと読んでくれるかどうかは疑問である。

 これらを念頭に「絶対に読ませる」、「必ず読んでもらう」という意識で、「法務審査部門ニュース」と題し、週2回のペースで掲載を始めた。①論点は一つに絞ること、②レベルを落とすことなく解りやすく易しい文章とすること、③文章はA4判の1頁に収めること、④厳格に定期的に発信すること、を心に定めた。

 法務審査部門から発信される情報や解説が誤解を生むような文章で書かれていては、「何をか言わんや」ということになるため、表現には特に留意した。

 第1回の「法務審査部門ニュース」の表題は「“白い歯の美しい女の子”は、男それとも女?」だった。「一義的な意味を持つ文章を書く」(第5号)で述べた内容を、面白く書いた。

 最後にはこれが本来の狙いであるが、「契約書の立案や検討、取引先とのトラブル対応については法務審査部門が積極的に協力したします。ご遠慮なくご連絡、ご照会下さい。」と付け加えた。

 この文章が掲載されると直ぐに、技術担当のトップから「面白い」と電話での励ましがあった。

 何回か掲載された頃になると「読んでますよ」、「あの項目は勉強になりました」、「今までしていた事務処理の意味が解りました」、「今度はこのことを書いてくれませんか」など廊下で、エレベーターの中で、メールで、会社近くの居酒屋で、多くの励ましや意見を貰うようになった。

 この連載を始めて2~3ヶ月経った頃から、法務審査部門への来客の数やメール・電話での照会も目立って増えてきた。法務審査部門を身近に感じ、相談相手・自分たちの仲間と感じてもらえ始めたように思ったものだ。

 1年ほどの期間が経過したある秋の日、そろそろ帰ろうかと書類整理をしていたところ、取引先に関連してトラブルが発生したとの連絡が入った。「情報収集と取り敢えずの対応策検討のため関係すると思われる部署に連絡し、担当者を集めよう」と部下と話している間に、誰に相談した訳でもなく関係者全員が顔を揃えた。

 法務審査部門が信頼のできる相談相手、役に立つと認知されたことの証だと感じ、とても嬉しく思ったことだった。

 「法務審査部門ニュース」と題して、週2回のペースで発行したこのニュース・レターは結果的には170号を数えた。後輩の勉強あるいは業務参考資料として役立てて貰えばありがたい、との気持ちもあり、分類・整理して小冊子の形とし残すこととした。

(以上)

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