『オーラルヒストリー企業法務』を読んで
ダノンジャパン株式会社 法務・コミュニケーション部
ジェネラルカウンセル 中 川 裕 一
都内の大手書店へ立ち寄ったときに、法律書籍の売り場にあった『オーラルヒストリー企業法務』というタイトルが気になり、目次を追っていると、もう手放せなくなり、会計を済ませて、書店の中にある喫茶室で読み始めたら止まらなくなった。
著者の平田政和さんは、ご自身の45年の企業法務経験を中心に、そこで得た知見、知識、知恵や心得を書いてくれているのだが、その内容がめっぽう面白い。法律書で読み始めたら止まらなくなったのは久しぶりである。オーラルヒストリーとは、口述による歴史記述という意味であるが、タイトル通りで、読みやすい構成で飽きさせずに一気に読ませる内容だ。Freshman、Sophomore、Junior、Seniorとアメリカの大学の1年生から4年生になぞらえて、若手からベテラン期について豊富な事例を元に語ってくれている。たとえば、「1年間に500時間は勉強」、「調べた結果はきっちりと纏める」などの若手向けの話から、徐々に高度になり、「代替案の提出」、「企業の良心」、「法務部への期待」など発展型・応用型に話が進んでいく。そして、ご自身が経験された、監査役としての心得なども書かれていて、企業法務の「その先」を知ることができる。
また、社会人としてのノウハウも満載で、たとえば、スランプに陥ったら、普段手に取らないような読みやすそうな本を手に取る話や、過去に読んだ本を読み直すなどしていると、徐々に業務に関する書物や論文を読みたくなり、普段の生活に戻るという平田さんご自身の脱出方法を披露してくれている。こういうことはなかなか類書には見いだすことができないことなので、貴重なアドバイスである。
本書を含め、最近はベテラン域に達している企業法務(弁護士も企業の法務部員も含めて)の先人が本を出版されることが多い。筆者は、出版されると手に取るのだが、総じて面白い。否、面白くないはずがないのだ。先人達は、本を書かれるほど企業法務を愛し、この仕事の面白さを知っていて、その面白さを後進に伝えようとしてくれている。本書は、それらの中でも白眉といっても差し支えないほど面白い。
筆者も、もう40代半ばになり、若手ではなく、中堅からベテランの域に入ってきたのかもしれないが、本書は、そんな筆者が読んでも十分に面白く、何より企業法務の奥深さに改めて気づかせてくれる。企業法務の世界は、成熟途上にあることから、前例をそのまま当てはめることができず、実務家達は、悩んだりすることも多いはずだ。その解決のための普遍的なヒントが本書にはちりばめられている。