フィリピン:競争法の成立
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 澤 山 啓 伍
1. 競争法の成立
2015年7月21日にアキノ大統領はフィリピン競争法(Republic Act No. 10667, Philippine Competition Act)に署名し、同法が成立した。フィリピンにおける競争法の整備状況と審議状況については、昨年7月23日にこの「商事法務タイムライン」に掲載した記事においても紹介したが、東南アジアの他国に比べても整備が遅れ、ASEAN加盟国として法整備が求められていた競争法が、フィリピンにおいてもようやく整備されたことになる。本稿では競争法の内容について簡単に紹介する。
2. 禁止行為
フィリピンの競争法は、以下の者を適用対象としている。
(1)フィリピン国内で貿易、産業及び取引に従事するあらゆる者
(2)フィリピンの貿易、産業及び取引に対して、直接の、実質的な、又は合理的に予見できる効果をもたらす国際取引(フィリピン国外における行為でそのような結果をもたらすものを含む)を行う者
これらの者に対して、競争法は、以下の禁止規定を置いている。
(1)競争制限協定
- ① 価格協定 – 価格、価格の構成要素又は他の取引条件についての競争を制限する合意、及び入札談合については、すべて禁止。
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② 以下の取引については、競争を実質的に妨害し、制限し又は減少させる効果又は目的を持つ競争者間での合意について禁止。
・生産、販売、技術革新、投資などに関する合意
・市場分割(販売・購入量、テリトリー、物・サービスの種類、買手・売手その他の手段を問わない) - ③ その他、競争を実質的に妨害し、制限し又は減少させる効果又は目的を持つ合意についても、禁止の対象となる。
(4)独占的地位の濫用
独占的地位(事業者が競争者、顧客、供給者又は消費者から独立して関連市場をコントロールすることができる経済的力を持つ地位)を濫用して競争を実質的に妨害し、制限し又は減少させる行為(不当廉売、抱き合わせ販売、取引条件等の差別取扱等が列記されている。)を行うことは禁止される。
3. 公正取引委員会の設置
競争政策の実施のために、競争法は、司法省の下にフィリピン公正取引委員会(Philippine Competition Commission)を設置することを定めている。この委員会は、競争法及び他の既存の競争法違反に係る事案を調査及び審理し、行為の差止、不当利得の返還などを命じ、罰金を課す権限を有する。
4. 企業結合規制
競争法では、企業結合についても規制を定めている。それによれば、10億フィリピンペソ(約25億円)を超える価値を有するM&A取引を行う当事者は、公正取引委員会に対して通知を行う義務があり、その通知から30日(最大90日まで延長されうる)の間はその取引を実行することが禁止される。公正取引委員会は、当該M&A取引が競争を実質的に妨害し、制限し又は減少させる場合には、それを禁止し、又は条件を課すことができる。