JPX、上場会社を巡る最近の問題について
岩田合同法律事務所
弁護士 笹 川 豪 介
今回日本取引所グループが懸念を示した最近の不適切な会計処理の問題とコーポレートガバナンスの関係について、従前より内部管理体制の改善のために設けられている特設注意市場銘柄制度とその運用についても触れつつ、以下、解説を行う。
1.不正取引等とコーポレートガバナンス
日本取引所グループは、今月14日、上場会社の中で短期的な視点で見かけ上の利益を上げるために不正な会計処理を行い、投資者の信頼を傷つける事案が発生していることについて懸念を示した。これは、先日の東芝での不適切な会計処理の問題やその原因に関して言及したものと思われる。
上場企業においては、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上が求められ、これを実現し、会社が透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うべく、そのための主要な原則としてコーポレートガバナンス・コードがとりまとめられている。
日本取引所グループでは、コーポレートガバナンスの機能不全に起因する重大な上場規則違反に対しては、上場廃止に準ずる措置である特設注意市場銘柄制度を活用し、短期集中的に内部管理体制等の改善を厳しく求めるなどして、市場に対する信頼の確保に努めていくものとしている。
2.特設注意市場銘柄とは
有価証券報告書の虚偽記載等があり、上場廃止には至らなかったものの、当該上場会社の内部管理体制等について改善の必要性が高いと認められるときに指定されるものを、特設注意銘柄という。
特設注意市場銘柄に指定されると、指定から1年経過後速やかに、内部管理体制の状況等について記載した内部管理体制確認書等の提出を行う必要がある。その内容等を審査した結果、内部管理体制等に問題があるか否かにより、特設注意市場銘柄の指定が解除または継続されることとなる。ここで指定の継続となった場合にはさらに内部管理体制確認書の再提出等を行う必要がある。
現在特設注意市場銘柄に指定されている銘柄は以下の通りであり、その他の過去の指定銘柄については指定解除または上場廃止となっている。特に2015年に入って以降、指定解除がない中で3つの銘柄で上場廃止となっている点に特徴があらわれている(2014年以前は指定解除1件、上場廃止0件)。
指定年月日 | 銘柄名 | 該当事由 |
指定継続年月日 | ||
2015年9月15日 | 東芝 | 有価証券報告書等の虚偽記載 |
- | ||
2015年4月 1日 | アイセイ薬局 | 企業行動規範の遵守すべき事項の違反 |
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2015年2月25日 | SJI | 開示された情報の内容の虚偽 |
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2015年1月29日 | エナリス | 開示された情報の内容の虚偽 |
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2014年7月 1日 | JALCOホールディングス | 有価証券報告書等の虚偽記載 |
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2014年3月11日 | リソー教育 | 有価証券報告書等の虚偽記載 |
2015年9月 8日 | ||
2014年2月 8日 | エル・シー・エーホールディングス | 有価証券報告書等の虚偽記載 |
2015年5月13日 | ||
2013年5月15日 | マツヤ | 有価証券報告書等の虚偽記載 |
2015年5月13日 |
3.コーポレートガバナンスを適切に機能させるために
コーポレートガバナンスを適切に機能させるためには、適切な情報開示と透明性の確保が重要であり、不適切な取引や会計処理・業績予測を防ぐことのみならず、不適切な取引等が生じた場合の対応を適切に行うことができる体制の構築が不可欠である。
東芝の第三者委員会調査報告書においても、たとえば経営トップや幹部社員の関与により不適切な会計処理が行われることを想定した内部統制体制が構築されていなかったこと、財務部や経営監査部において会計処理が適切であるか否かがチェックされていなかったことなどのコーポレートガバナンス上の問題点が指摘されているところである。
市場の期待に応えるべく、業績を上げることを焦る余りコーポレートガバナンスの構築を怠ってしまっては、問題が生じた際、その拡大を防ぐことができず、却って市場の信頼を失うことになりかねない。今回の東芝の例がその最たるものといえよう。企業経営者としては、上場を適切に維持することも取締役の善管注意義務の内容に当然に含まれることを踏まえ、コーポレートガバナンスの適切な構築を行う必要がある。